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私、雪だるま?・・・・ま?

読んで頂ければ幸いです。

 出来たばかりの 雪だるま の目の前には、3人の子供たちが居ました。


『どうして、私は・・・?』

雪だるま は、心の中でそう思い、子供たちを見て居ました。


緑色の冬服を着た一番年下の男の子が「やったー!」っと、両手をあげて喜んでます。


「できたー!」

そう言って喜んでるのは、白い服を着た女の子。


「ちがうよ!まだ、できてないよ!」

喜んでる二人を見て、そう言ったのは、赤い服を着た、三人の中で少しだけ年上の男の子でした。


「なんで?ちゃんとできたでしょ?」

緑色の服の男の子が言います。


すると「そうだよ!これは かんせい っていうんだよね!?」と、白い服の女の子も続けて言いました。


「ちがうよ!まだ、この 雪だるま には、目しか付いてないだろ!?」

赤い服の年上の男の子がそう言って、雪だるま の顔を指さし「鼻も、口もないから かんせい じゃないよ!」と、続けて言いました。


「ええ~・・・。」と、女の子はペタンと雪の上に座り込みました。

すると「でも、もうたくさんガンバったから、疲れたよ・・・。」と言って、年下の男の子も残念そうな顔をしながら、フカフカの雪の上にポフリと倒れ込み「もう、かんせい でいいでしょ?」と、年上の男の子の顔を見ました。


「目だけなんて、かわいそうだろ?僕らの顔はみんな、目だけじゃなくて、鼻や、口があるのに・・・。」

そんな二人に、年上の男の子は元気そうに言いました。


雪だるま は、子供たちの話し合いを聞いて、自分の顔には目だけがあるのかと思いました。


「でも、もう石炭せきたんは無いよ。ニンジンは最初からないけど・・・。」

女の子がそう言うと「そうだよ。それに、もう太陽が・・・ほら。」と、年下の男の子は山の向こうを指差し「太陽も山の向こうに、隠れてしまったよ。」と、続けて言いました。


「そうしたら、暗くなるから、早く帰らないと叱られちゃう・・・。」

そう心配そうに言ったのは女の子です。


「しょうがないなぁー。石炭が無いなら、小枝でも良かったけど・・・あそこの林まで行って、小枝を取って戻ると・・・遅くなるか・・・。」

年上の男の子は、元気そうに見せてましたが、本当は自分も疲れてたので、今から林まで小枝を取りに行くのは嫌だなと思ったのでした。


「帰ろう。」年下の男の子が言います。

「そうだよ。もう、帰ろうよ・・・。」女の子もそう言いました。


そんな二人の様子を見た年上の男の子は「わかったよ。じゃ、後は明日にしょう!」と言って、今日はもう 雪だるま を作るのをやめることにしたのでした。


「うん!」

「うんうん!!」

男の子も女の子も、急に立ち上がり元気にうなずきました。


「じゃあ!明日の朝に、またこの 雪だるま の前に集合だ!」


「うん!」


「うんうん!!」



「じゃあ、一緒に帰ろう!」そう、年上の男の子が言うと。


「わかったぁ!!」と、年下の男の子が大きな声でこたえました。


すると「はーい!」っと、女の子も続いてこたえます。


雪だるま が黙って見てる前で、3人の子供たちの話は決まり、雪だるま は、目だけしか付けてもらえないままで、雪の積もった野原の真ん中に、とり残されてしまいました・・・。


『あれ?私は、なんで話せないんだっけ?』

雪だるま は、心の中では言葉が溢れてるのに、それを体の外へ出す事ができませんでした。


『そうか・・・あの子たちは、口を動かしてしゃべってたんだ・・・。でも、私には口が無いって言ってたから、喋られないってことなのかな・・・?』

雪だるま は、思いました。

自分にも、口が欲しいなぁ・・・と・・・。


『明日になったら、あの子たちが付けてくれるのかな?』

そうしたら、何を話そうかと、雪だるま はワクワクしてきました。

『ああ!早く明日になって、あの子たちが、私に口を付けてくれないかなぁ!』

雪だるま は、そう思うと、もうじっとしてられなくなりました。

『そうだ、もう待ってられないから、自分で口を着けよう!!』

そう決めた 雪だるま は、グググググ!!っと、重たく湿った雪の体に力を入れて歩き出しました。

『おお!!これは、いい!!これなら、好きな所へ行けるよ!!』

雪だるま は、自分では歩いてるつもりでしたが、その体はズリズリと雪を押し退けて、ニジリ!ニジリ!っと、進んでるのでした。

『ああ!楽しい!歩くと少しずづ風景が変わって行くのが楽しいよ!!』

遠くに小さな明かりがいくつか見えましたが 雪だるま は、それとは逆の方向にある林に向かって夢中でニジリ歩きました。


 林の中をしばらく行くと、黄金色(こがねいろ)した生き物が近づいてきました。

それは、三角の耳をピンと立て、フワリとした大きな尻尾をもったキツネでした。

『ああ、キツネだ!初めてキツネを見た!!』

声が出せないけれども心の中で驚きと喜びを言葉にした 雪だるま は、初めて見た筈の生き物をキツネだとわかった自分に少し驚きました。

『でも。やっぱりキツネはキツネ。私は知ってる・・・?いや、知ってた!?』

少し不思議でしたが、雪だるま は、自分は色んな事を知ってる事に気が付きました。


『あのキツネは、動物。動物のキツネ。ここは・・・森?・・・いや、林かな・・・。』

雪だるま は、ググっと音を鳴らして無い首を上に向けました。

そこには小枝にさえぎられながらも、満天の星が広がり、その星々が 雪だるま とキツネの様子を見守ってるかのようでした。

『ふぁ~。凄い星空だ・・・キレイだなぁ・・・。』

雪だるま は、キツネの事を忘れてしばらく空を見上げてました。

それか少しして辺りを見渡した時には、キツネはもう、どこかに行ってしまった後でした・・・。



 雪だるま は、知らないうちに眠ったようでした。

気が付けば、目の前には、とても大きな水溜まりが広がってました。

『ああ・・・。これは、きっと(みずうみ)・・・。』

雪だるま がそう思ったおとり、それは湖でした。

雪だるま は、子供たちに作られた夜に歩き出し、夜明け前の薄明かりが照らす湖畔(こはん)へとたどり着いたのを思い出しました。

太陽はもう、少し高い所まで登ってます。

『さて・・・と、この後はどちらに行こうかな・・・。』

雪だるま は、そう思って歩き出そうしました・・・。

でも、なぜなのか体が動きません。

『あれ!?体が・・・動かない!?』

雪だるま は、びっくりしました!

『なんで!?昨日の夜は、私は、ここまで自分で歩いて来たのに!』

 雪だるま は、振り返り自分の足跡を見ようとしましたが、首も全く動きません・・・!

『なんで?どうして!?』

昨日の夜の出来事は夢だったのでしょうか?

いえ、違います。

今の 雪だるま は振り向けないので見る事が出来ませんが、雪だるま の後ろには、ニジリ歩きした後がしっかりと付いてるのです。

『なんで!?どうして!?・・・体が動かない・・・目は・・・目は見えてるし、考える事だってできてるのに・・・っ!!』

それから 雪だるま は、すっかりと落ち込んでしまいました・・・。

もう、自分は二度と動く事ができないのかもと思うと、目の前に広がる美しい湖畔からの景色も悲しく見えてしまいました。

知らないうちに 雪だるま は、涙を流してました・・・それは、黒い石炭と混ざって黒い涙となって流れたので、 雪だるま の白い顔の目元は黒く染まってしまいました・・・。


それから 雪だるま は、風の穏やかな美しい湖をジッと眺めていました。

湖面には遠くの雪山や近くの木々が映り込んで、それはそれは美しい(なが)めでした。

ですが、雪だるま は楽しい気持ちにはなりませんでした。

湖面に小さな波を立てながら泳ぐコハクチョウやカモが水草を食べたり、白いウサギが通りすぎたりもしてましたが、体を動かせない 雪だるま には、自由に動ける動物たちを羨ましいと思うだけでした・・・。

『私はもう、ずっとここから動けないのかなぁ・・・?』

雪だるま は、今はもう、涙が出ない自分が不思議でした・・・。



 少し前。雪だるま は、湖の向こうの山々に沈んでいく夕陽を見続けていました。

それは、とても美しい光景でした。

今日を悲しみに沈んで過ごしてきた 雪だるま でしたが、夕陽が沈むまでの茜色の空が紫に変わり暗くなるなるまでは、自分の悲しみを忘れる事ができたのは幸せでした。

そうして、夕陽を見終わってしまった 雪だるま は、これからまたずっと動けないのかと思うと、すがるような気持ちで星空を見上げました。

生まれて初めてみた昨日の夜空もキレイでしたが、今日の星空は雲がありましたが、昨日よりもキレイだと 雪だるま は思いました・・・。

気が付けば 雪だるま は、ググっと頭を上に向けていました。

『うわ!動かない頭を動かしてしまったの!?って・・・あれ?』


そうです!

雪だるま は、また動けるようになってたのです!!


『頭が動く!やった!!』

そう心の中で叫んだ 雪だるま は、クルクルと踊り回りました!

それはそれは夢中で喜び踊ったので、危うく雪の積もった湖の岸から滑り落ちそうになったのでした。


『ああ!っとっと・・・!!危ない、危ない。こんな所から湖に落ちたら、私はどうなってしまうかわからないよ・・・。』


ビックリした 雪だるま は、ホッとしましたが、息は出ませんでした。


『動けるのが楽しすぎて、落ちてしまうところだった・・・。』

そう思った 雪だるま は、あぶない水辺から離れて、気持ちを落ち着けました。

それから辺りを見渡しました。

それで、どうして動けるようになったのかは結局(けっきょく)分からないままでしたが、取り敢えず湖の回りを歩いてみることにしたのでした。


 雪だるま は、しばらく独りぼっちで歩き続けました。


『ああ・・・さっき昇り始めたと思った月が、もうあんなに高くなってる・・・。』

立ち止まり、月を見上げた 雪だるま は、そう思ってから、自分の後ろを振り返りました。

そうして、これまでここまでたどった自分の足跡を見たのです。

湖の回りの林や岸辺には、雪だるま がニジリ歩いた後が、モコモコとした雪の形になって残ってました。

『私は、ここまで歩いて来たんだね・・・そして、私は、まだ歩ける。』

雪だるま は、どうしたら自分の顔に口が付けられるのか分かりませんでしたが、心の中に沸き起こる、嬉しい気持ちと悲しい気持ちを掻き集め、もう一度、歩き始めました。


 しばらく歩き続けた 雪だるま は、林の木々の隙間から見える小さな明かりに気が付きました。

『あの明かりは・・・何だろう?』

昼のまぶしい太陽でも、夜の明るい月でもなく、空に浮かぶ星でもない・・・。

雪だるま は、その明かりは、きっと人の作り出したものだと思いました。

それは、雪だるま が生まれた雪原から少し離れた所に見えた明かりに似てたからです。

『きっと、私を生んでくれた、あの子たちのような人が、あの明かりの所に居る・・・!』

そう思うと、雪だるま のニジリ足は早まりました!

そして、雪だるま は、思うのでした。

『あそこに人が居たら、今度は・・・目だけじゃなくて、口を付けてもらおう!!それに!・・・それに鼻も!!』


雪だるま は思いました!


口が有れば、自分の中に溢れ出す思いは声にできると!


そして、鼻があれば、匂いというものを感じられるのだと!


雪だるま は、転げるようにして走り続けました!!



 雪だるま が、湖畔に建つ立派な一軒家に前に近付いた時、その三角屋根のてっぺんに太陽の光が当たるのを見ました。

それと同時に、それまで近付く程に大きくなって見えていた三角屋根の一軒家は、その大きさを変えなくなってしまいました。

雪だるま は、またも動けなくなったのです・・・。

『ああ!?あれ!?なんで!?どうしてまた動けなくなるの!!?・・・私の体!!動いて!!』

雪だるま が、心の中でどんなに叫んでも、それは声になることはなく。

そして、その願いも叶えられませんでした・・・。


 

 雪だるま は、今度は見知らぬ人の家の庭で、動けなくなってしまったのです・・・。


『また・・・体が動かなくなってしまった・・・?』


悲しいというより、驚きのほうが大きかった 雪だるま は、動かせなくなった体をあきらめて、目に写る景色を見るだけでした・・・。

それから、薄白い月が大きく西にかたむき始め、太陽が少し昇った時、空から白いものが落ちてきました。

それは、とても小さなものでしたが、たった今、昇ったばかりの太陽をかくす雲が出てきて空が曇るにれて、だんだんと数が増え、空を覆いながら降り積もり始めたのです。


『ああ・・・雪。雪が降ってきた・・・。』


あたりは、すっかりと薄暗くなりました。

風のない朝に降る雪は、音もなく、しんしんと積もり続けます・・・。

雪だるま は、その降り落ちる白い雪が、目の前に建つ家の窓の暖かそうな明かりに照らされて、オレンジ色に染めらる様子を不思議な気持ちで見詰めていました・・・。

『この家の中は、なんだか幸せそうな人たちが暮らしてるような気がする・・・。』

雪だるま は、涙を流してる自分に気が付きました・・・。

『幸せそうな家を見てるのに・・・どうして私は泣いてるのかな・・・?』

雪だるま は、ただ。何も分からずに、雪降る空を見上げるばかりでした・・・。


明け方に、雪だるま が湖畔に建つ知らない家の前にたどり着いてから、長い時間がすぎました。

雪はどんどん積もり続けましたが、それからやがて雪はみました。



それからしばらくして空が晴れ、太陽が高い所まで登った時でした・・・。



「何だろうか?」

湖畔の家に住む子供の兄弟の、お兄ちゃんが言います。


「何でしょうか?」

弟がそれに続けて言います。


「ここだけモコモコともり上がってるのは・・・?」と、雪の盛り上がりを見付けたお兄ちゃんが言いました。


「モコモコモリモリ?」

弟は不思議そうにそれを見ながら言いました。


それから、お兄ちゃんは言い、弟はきます。


「ちがうよ!モリモリのモコモコだよ!」


「ふ~ん・・・どうちがうの?」


「ぜんぜんちがうの!わかってないなぁ・・・!」


「ふ~ん・・・!あ!わかった!モコモコってなってモリモリってなったんだね!」


「え!?・・・あぁ~・・・うん!そうだ!!」


「うん!」


「うん!!」


「じゃあ~、ちょうさだ!」


「うん!しょうさだ!」


「ちがうの!僕は隊長たいちょう!!少佐しょうさじゃないの!」


「ちがうの?」


「ぜんぜんちがう!」


「わかった!」


「よし!調査ちょうさだ!」

「うん!隊長だ!」


「隊長は僕だよ!」

「ん?」


「もういい!調査だ!!」

「うん!隊長のしょうさだ!!」


二人はモコモコとした雪の盛り上がりを、毛糸の手袋をはめた両手を使って、ワシワシと掻き分けはじめました・・・。



 「うわ!!なんで 雪だるま があるの!?」

盛り上がった雪の中から出てきた 雪だるま を見たお兄ちゃんが驚きました。


「え?雪だるま・・・?パンダじゃないの?」

弟は首をかしげて 雪だるま を見上げました。

 

「違うよ、雪だるま だよ!・・・う~ん・・・パンダみたいな顔だけど・・・。」

そう言ったお兄ちゃんは、クスッと、笑ってしまいました。

それは、雪だるま の顔の目の回りが黒くなっていて、パンダの顔のようになっていたからでした。


「雪だるま だけど・・・パンダ・・・クス!」


「パンダだの・・・ 雪だるま?クス!」


「パンダるま!!」

お兄ちゃんがそう言ったとたん、二人は顔を見合わせると、ますます笑いが込み上げてしまい、雪だるま と、互いを見ては、しばらくクスクスと笑い続けてしまいました。

そして、最後には「わはははははは!!」と、大声を出して笑い始めてしまったので、二人はもうどうにもならなくなってしまい、そして、立ってる事もできなくなってしまい、ふかふかの雪の上にボン!っと倒れて、笑い転げたのでした!


『何?何がそんなに、おかしいのかなぁ・・・?』

そんな、自分を見ては笑う子供たちを見てる 雪だるま は、不思議に思うばかりでした。


「あ~あーおかしい!」

「うん!おかしいぃぃ!」

そうして兄弟は、動けない 雪だるま を見ては何度も笑い転げていましたが、やがて笑いもおさまった頃に、二人は雪の上に座りながら、雪だるま をもう一度見上げました。


「でも、誰が作ったのかな?」そう弟が言うと「きっと、父さんか母さんだよ。」と、兄は言いました。


確かに、他に誰かが来て作って行ったとは思えないので、二人はきっとそうだろうと思いました。


「でも、この 雪だるま 、パンダみたいな顔だけど・・・。」

お兄ちゃんがそう言うと「だけど・・・?」と、弟はお兄ちゃんに訊きました。

するとお兄ちゃんは「鼻も、口も無い・・・。」と言ったので、弟は驚いて「あ!そうだね・・・無い!」と、大きな声で言いました。

二人は立ち上がり、雪だるま の顔を近くで見ました。


弟が「鼻が無いと匂いがわからないよね・・・。」と言いました。

「うん・・・。」と、お兄ちゃんはうなずきました。


弟が「口が無いと話したり、食べたりもできないよね・・・。」と言いました。

「うん・・・。」と、お兄ちゃんはうなずきました。


弟が「耳は?耳が無いと聞こえないんじゃないのかな?」と言いました。

「えー?耳!?」と、お兄ちゃんは驚き「雪だるま に、耳がついてるのなんて、見たことないよ!」と、続けて言いました。


弟が「そうだね!」と、こたえた後に顔を見合わせた二人は「わははははー!」と、またまた大笑いをしたのでした。


目の前に居る、そんな二人の会話を聞いていた 雪だるま は『耳・・・?私には耳が無いの?』と、思いましたが、直ぐに『でも。君たちの話も、鳥の声も・・・風の音だって、ちゃんと聴こえてるけど・・・。』と、今度は不思議な気持ちになったのでした。

そして『耳が無いのに聴こえてるのに・・・口が無いと話せないなんて・・・。』と、思い・・・また悲しくなりました・・・。


それから少ししてからでした。


「はい!ペッタンコ!!」

「ほい!ペッタンコ!!」


「これで目鼻めはなが付いたな!!」

眉毛(まゆげ)も口もね!!」

「うん。雪だるま は、こうじゃなくっちゃ!!」

「なくっちゃね!!」


雪だるま の顔には、ドングリの鼻と、二本の赤い唐辛子が横に並べられた口も付けられました。

そして、目の上には小枝の眉毛も・・・。

さっきの兄弟たちが戻って来て、雪だるま の顔を作ってくれたのです!


「それに、これも付けてあげる!」

「あげる~!!」

兄弟たちは、雪だるま に、家の近くで拾ってきた小枝を突き刺して、その先に冬用の手袋・・・毛糸で編まれたミトンを着けてあげました。


「これで、鼻が痒い時も掻けるね!!」

弟が言いました。


「雪合戦もできるし、美味しい物も食べられるね!!」

お兄ちゃんが言いました。


「でも、食べ物は、きっとみんな辛くなっちゃうよ!」

弟がそう言うと「うん!!」っと、二人は顔を見合わせて、大きくうなずきました。


「あははは!」

「あはははは!」

二人は大喜びした後に、雪だるま の前から駆け出して離れて行ったので、雪だるま からは見えなくなってしまいました・・・。


『私に、口と鼻が着いたの?それに手も?』

 雪だるま は自分に付けられた手を見ましたが、動かす事はできませんでした。

『うーん・・・動かない・・・。それに、喋ることもできない・・・。』

そう思って、ガッカリとした 雪だるま でしたが、ふと今まで感じた事の無いものが感じられ驚きます。

『ん?あれ?・・・でも・・・匂い?・・・匂いが感じられる・・・。』

雪だるま は、生まれて初めて匂いを感じていました。

それは、冬の木々と湖の匂い。

それから目の前の家の中から漂う、料理の匂いでした。

『いい匂い・・・。』


とても不思議なことに、雪だるま は目は見えて、音も聴こえて・・・そして匂いも感じてるのに・・・他は何も感じられないし、動かすこともできませんでした・・・。

『見て・・・聴いて・・・匂いも感じられても・・・でも・・・何もできないなんて・・・。』

雪だるま は、そう思い、また悲しくなったのでした・・・。


 遊び疲れた兄弟が夕方に家に戻ってから、どれくらいの時間がたったのでしょう・・・。

気が付けば 雪だるま は、星空を押し退けて光輝く満月を見上げていました・・・。

「キレイなお月様・・・。」

雪だるま は、生まれて初めて喋り、その自分の声を聴きました。

「あれ!?私!喋ってる!!」

驚いた 雪だるま は唐辛子の口を動かして、驚きの声をあげました。

「凄い!凄い!!凄ぉ~い!!」

喜んだ 雪だるま は、ミトンの両手をあげて辺りをノシノシと駆け回りました。

「そうだ!手!!」

 雪だるま は、まじまじと自分に付けられた小枝とミトンでできた両手を見ました・・・。

そして、その手で積もってる雪を掴んでみました。

「ああ・・・!手が・・・思ったとおりに手が動いて、雪がつかめる!!」

雪だるま は自分の手で掴んだ雪をじっと見詰めました。

すると、その雪には黒い染みが広がっていきました。

それは、石炭でできた 雪だるま の目から落ちた涙の雫のせいでした。

雪だるま は泣いていたのです・・・。


「手があるって・・・身体が動くって・・・嬉しい・・・。」


雪だるま は、自分に鼻と口と手を着けてくれた子供たちが住んでる家にお辞儀をしてから手を振って、そっと別れを告げると、ノソノソと雪を掻き分け、その場を離れました・・・。



 それから 雪だるま は、太陽が登ってる時は動けなくなるので、夜の内に行きたい方向へと歩き、そして、景色が良い場所や居心地の良さそうな場所を見つけては朝を迎え、旅を続けました。


 そうして冬の終わり頃になった昼頃でした。

雪だるま が初めて世界を見てから、もう3ケ月がすぎていたのです・・・。


静かな森の小川の(ほとり)

太陽が以前よりも高く上り、動けなくなっている 雪だるま を照らしてキラキラと輝かせてました。

『ああ・・・何だか、暑くてつらいなぁ・・・。』

雪だるま は、そう思いながら辺りの景色を見ていました。

雪だるま にはもう暑く感じていましたが、この森に住む多くの動物たちや木々にとっては、まだまだ寒い季節です。

それでも小川の周りの雪は解け始め、その雪の下からは緑の草が見えてました。

『キレイな色・・・。』

 雪だるま は、草の緑を見てそう思いました。

「そうか・・・雪がたくさんあるのは冬で、雪が無くなってしまうのが・・・春!」

それから 雪だるま は『これから雪が無くなれば、ここはどんなに美しい風景になるのかなぁ・・・。』と、思いを巡らせました。

でも、雪だるま は春の景色を知りませんでした。

この冬に生まれたのですから見たことが無いのですが・・・キツネや星や湖、そして子どもたちも知っていたのに、春を知らないのです。

ですから、どうしても、今、自分が居る森の春の姿を想像することはできませんでした・・・。

『見たこと無いから・・・やっぱり分からない・・・。』

動けない体で春の雪解けの始まりを(なが)めてた 雪だるま は、考えれば考えるほど、春の景色を見たくて仕方が無くなってきました。


それから夜になって 雪だるま は、春を探すことにしました。

「ここで待ってても春はまだ始まらないなら・・・私が先に迎えに行こう!」

動けるようになった 雪だるま は、一人そう言うと、川の流れる方へと坂を下って行きました。

『雪が溶けると水になるみたいだった・・・。』

「それならこの川の水の流れる先に、きっと春がある!」

雪だるま は、ワクワクした気持ちを抑えきれずに、今までで一番早い足取りで川の近くを下って行きました。


それは、春を探す 雪だるま の、短い旅の始まりだったのです・・・。


 始めは小さかった川は、下って行くほどに、段々と大きくなっていきました。

周りも平らな所が多くなり、水も初めは透明だったのに下に来るほどに茶色く濁って、川の流れもゆっくりとなっていきました。

それに、川の水が流れる音も、サラサラとした音から、ゴウゴウと重々しい音になっていました。

それは、川に張っていた氷が解けて割れて流れて行く音でした・・・。

夜になっても続くその音に、 雪だるま は「凄いなぁ・・・春は、白い雪を消して、別の色に塗り替えるんだね・・・。」と言って、ただただ眺めていました。

そうして急にハッとしました・・・。

「そう言えば私・・・ 雪だるま って・・・あの子たち。私を見て・・・。」

『だから私・・・雪で体ができてるの・・・?』

雪だるま は、自分が雪から作られてたことに、初めて気が付きました。

それで自分の体を確かめるようにじっくりと見ました。

すると、小枝の腕とミトンの手のは違ってましたが、他は全部雪でできてることに気が付きました。

本当は、眉毛も小枝で目は石炭、口は赤い唐辛子でしたが、それは自分の目からは見えません。

ドングリの鼻だけは少し見えてましたが・・・。


『あれ・・・?・・・私・・・。』

「体が・・・雪だ・・・。」


驚いた 雪だるま は、初めて自分の姿が気になりました。

『私って、外から見たらどんな姿なの?』

でも、自分の姿をどうしたら見れるのでしょう・・・?

雪だるま は、少しの時間これまでのことを思い出しました。

すると、湖に移る景色を思い出したのです。

「そうだ。静かな湖に自分を映せば、自分の姿を見られるんじやないかな・・・?」

それから 雪だるま は、辺りに湖が無いかと見回しましたが、ありませんでした。

『ああ・・・。あの家の近くの湖に、自分の姿を映してみておけば良かったな・・・。』

雪だるま は後悔しましたが、その湖はもう、ずっと川上かわかみに登った先にあるのです。

ですから、今さら戻ろうとは思いませんでした。

そうして 雪だるま は下を向いてトボトボと歩くと、突然、白い丸い姿をした奇妙な生き物と出くわしてビックリしました。

「うわぁ!なに!?誰なの!?」

あとずさる 雪だるま の前には、雪解け水が溜まった水溜りが広がってました。

「ん?・・・ん?ん?」

雪だるま は、恐る恐る、もう一度水溜りに近づきました。

すると、水溜りの中から同じく恐る恐る自分の方を覗いてる、さっきの白い丸い人のような生き物がいたのでした。

「あ・・・あなたは誰!?」

雪だるま は、思い切って声を出し、水の中に居る奇妙きみょうな生き物に話しかけました。

しかし、返事はありません。

向こうも不安げな表情でこちらの様子を見るばかりです・・・。

「怖い生き物じゃないみたいだね・・・。いや・・・これは・・・?」

雪だるま は、中に見える奇妙な生き物が住む世界を見ました。

するとそこは、こちらにとても似た世界に見えました。

それで、水溜りの周りを少しずつ動きながら、色んなポーズをしてみました。

すると、中に居る生き物もピッタリと自分と同じ動きをすることに気が付きました。

それで分かったのです。

この水に映ってる〖白くて丸い奇妙な生き物〗こそが、自分なのだという事が・・・。

「はぁ・・・。そうなんだね・・・。あなたが私・・・私があなた・・・私の姿だったんだね。」

雪だるま は、水溜りに映る自分の姿をしばらく眺めていました。

モコモコとした丸い顔には、黒い目があり、その周りは黒く染まり、その目の上には小枝の眉毛がありました。

それから茶色いドングリの鼻と、二本の赤い唐辛子の唇がありました。

大きな丸い二段重ねの体は、水溜りには全部を映すことはできませんでしたが、雪だるま は、自分の姿を見ることができたのでした。

「ごめんね・・・驚いちゃって・・・。私。自分の姿を見たことが無かったから・・・。」

雪だるま は、水溜りの中の自分にあやまりました。

「私が春を探してこんな遠くまで来てしまったから、あなたも、こんな所まで連れて来られてしまったんだね・・・。」

雪だるま は、そう言うと、水溜りの中の 雪だるま の姿をマジマジと見たのでした。

するとその姿は、なんだかボロボロなのでした。

最初は丸いと思ってた顔は、とてもデコボコとして所々に小さなツララが下がってました。

体はもっとデコボコで、少し崩れたあともありました・・・。


雪だるま は、夜空を見上げました。

今日の月は大きく欠けて左側だけが光ってました。


「私は、ここまで・・・春を探しに来たのだと思ってた・・・。」


それから 雪だるま は、じっと月を見上げて居ました・・・。









 冬の終わり・・・。


  河口かこう近くの海辺うみべ


   周りには雪が無いのに、小さな雪のかたまりが砂浜の上にありました・・・。

その雪の塊には二本の小枝が差され、その先で春の風を浴びる毛糸で編まれたミトンが揺れています・・・。


誰も気に掛けないそんな光景・・・。


それを最後に気に掛けてたのは、カラスでした。

食べ物が少ない時期に、その雪の塊の中にあったドングリを、たった今、見付みつけたからです。

ドングリをくわえたカラスは、少しの間、砂浜に残る雪の塊と海と空を見ていましたが、暖かな南風が吹き抜けるのに合わせて、その翼を広げると、フワリと飛び立ち羽ばたきながら、ぐんぐんと空へと舞い上がって行きました・・・。


残された二本の小枝に付けられた手編みのミトンは、いつまでもいつまでも風に揺られていました。


春は・・・もう・・すぐそこです・・・。




     お し ま い




読んで頂きまして有り難う御座いました。

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