運命の出会い 後編
学校に着いた私は教室の後ろの引き戸をゆっくりと開けました。
英語教師の木葉 未来先生が、黒板にむかって英単語を書いていました。
「うぅ、授業はじまってるぅ」
でも私の席は一番後ろの列だから、こっそり着けばバレないから。
大丈夫、大丈夫……て、ええぇぇぇー!? 何かがいるー!!
私の机を黒い毛むくじゃらの何かが覆い隠していました!
私がどうしていいのかわからずに戸惑っていたら、となりの席の亜久里 才子ちゃんが気づいてくれて小声で話しかけてきてくれました。
「みりんひゃん……てんこうぇぃ……」
才子ちゃんは声が小さいし、マスクで口元が隠れているので口の動きを読むこともできなかった、だから「え?なんて言ったの?」とききかえしました。
そしたら才子ちゃんが私の席にある黒いやつを遠慮がちに指さして「てんこうせい……」と小声で言ったのが聞こえました。
そう言われて黒いやつをよく見たら、ボサボサ頭の男の子が両腕を前に構えた黒い怪獣のような帽子をかぶって机に伏せているだけだった。
制服も髪の毛も帽子も真っ黒だから変な物に見間違えちゃったんだ。
転校生が来るかもしれないとは聞いていたけど男の子だったんだ。
私はおそるおそるその子の背中をつんつんしてみる。
つんつん。
つんつんつん。
つんつんつんつんつん。
まったく反応がないよ~。
勇気を出して肩をぽんぽんしてみる。
「すみませ~ん……」
無反応。
ぐっすりだぁ~どうしよう~。
「おい、そんなんじゃダメだ」
突然の声の主、それは、少し離れたところの席からこちらを見ていた男子、ショータンだった。
「声がでかいよショータン」
「え?何?」
私が小声でしゃべっているのにショータンは間の抜けた大きな声で返してきた。
(ショータンとは家が近くて、保育園の頃からの幼馴染だよ! 苗字が丹で名前が 翔だから私が物心ついたときからショータン! って呼んでるんだよ! )
「俺にまかせろ」 ショータンがイスをガタガタならして席を立ってこっちに向かってくる。
「何してるのそこ!」
「「あっ!」」
ばれたー!!
木葉未来先生がチョークをこちらに差し向けて、目を大きくギロリと見ていた。
「どうしたの?」
「あの……」
私が何て言ったらいいのか困っているとショータンが喋ってくれました。
「実鈴の席にサーターアンダーギー君が座ってて、席につけなくて困ってるんです!」
ショータン説明ありがとぅ~!
ていうか転校生の子サーターアンダーギーっていうんだ、良い名前だな。
「サーターンダーギー??」
「そうです、今日転校してきました」
「ああ! そういえば真由美先生のところの甥っ子か従弟の子だかが来るっていってたな……すっかり忘れてた、めっ」
未来先生が失敗した時によくする、首をかしげて八の字まゆになって、めって言って、自分で頭をコンとたたいて舌をちょびっとだけ出す仕草がかわうい!
先生はワンレントサカすだれヘアーをふわりとなびかせ、肩パットスーツで風を切り、ピチピチのスーツスカートからすらりと伸びたベージュストッキングを纏ったおみ足で、低いヒールをカツカツ言わせながら向かってきた。
その姿はまさにトレンディって感じでかっこいい!
「耳川よだれ出てるぞ」
ショータンが何か言ったみたいだけど私は木葉未来先生にみとれていていた。
「サータンアダギータ君! 起きなさーい! 授業中よ」
木葉未来先生がサーターアンダーギー君の背中をやさしくポンポンするけど彼は無反応だ。
「んもう~困ったな~」
「先生! そんなんじゃダメですよ、俺に任せてください!」
ショータンがサーターアンダーギーの肩を両手でがっしり掴むとゆっさゆっさと揺すりだした。
「おーい! サーターアンダーギー! 起きろー!」
サーターアンダーギー君のかぶった怪獣の形の帽子がぐわんぐわんと揺れる揺れる。
「ショ、ショータンやりすぎじゃない?……かな……」
「うおおおおい! おきろおおおおーー!!」
ショータンは大きく叫ぶとさらに力を強めて揺すりだした。
怪獣の帽子はポロリと脱げ落ちて、私の椅子と机もサーター君と一緒に揺れてガタガタガタガタ言い出した。
「丹くん!」
やりすぎのショータンに流石に心配しだした未来先生が声をかける。
そして!
ガラガラガッシャーーン!
「「きゃあー!」」
あまりにも強く揺すりすぎたために、勢い余ってサーターアンダーギー君は私の机とイスごと床に転がり落ちちゃった!
「あわっ! いっけね、やりすぎちゃった。ゴメンッ」
「サタアンギーダ君大丈夫!?」
未来先生があわててサー君を起こそうとするも、それでもうつ伏せで寝たまま、うんともすんとも動かないサー君。
「うそだろっ……さすがに……こいつわ……三年寝たろうかよ……ふふっ……」
吹き出しそうになるのを耐えてまで三年寝たろうと言いたかったショータンに教室のみんなも大笑い。
「何だよ三年寝たろうって~」
「「「ぎゃはははは!」」」
「どんだけ寝たいんだよ!」
「眠れる森の少年かもよ~」
「「あはははは! あははははは~!」」
「ったく、困ったヤツだな~」
と、床にうつ伏せたサー君の身体を仰向きにして、彼の口元に耳を近づけたショータン。
するとショータンの顔がみるみる青ざめていくのが私にもわかったし、クラスの皆にも伝わったみたいで教室は急に静まり返っちゃった。
「ヒィ!」と驚き、腰を抜かして尻もちをつくショータン。
「し、ししっ、ししし……、しんでるっ」
「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーー!!!」」」