美容室に向かって走れ!
「待って! 行き過ぎっ! 戻って! そこを右っ!」
「なんだよ。どこだよっ」
「ちょっと待って! 道分からないくせに先に行かないでよっ!」
「お前歩くの遅えな」
「佐藤君が早すぎるんだよ! それに佐藤君は手ぶらだけど私は教科書がたくさん入ったおっもーい鞄も持ってるんだからね?」
「しょうがねえな」
佐藤君は引き返してくると「ん」っと言って手を差し出してきた。
えっ、何……。
手を繋いで歩くって事?
えっ、どうしよう。
何かチョット照れちゃうな……。
勇気を出して手を握ってみた。
「違う」
払いのけられた。
「鞄をよこせ」
そっちか。
鞄を渡したら佐藤君は前に向き直して、しゃがみこんで「乗れ」と言ってきた。
「え?」
「早く乗れよ」
「乗れってどこに!?」
「肩だよ。またがれ」
「ええっ!」
「お前歩くの遅えから肩車で行くぞ」
「無理ですっ! 肩車なんて物心ついてから一度もやった事ないしっ」
「俺がちゃんとつかまえてるから大丈夫だ」
「でもっ、佐藤君裸だし、私結構重たいし、それに佐藤君のうなじにおまたが」
「ごちゃごちゃうるせえな! 早く乗れっつってんだよ!」
しゃがんだ佐藤君の盛り上がった肩の筋肉は座り心地が良さそうでちょっと乗ってみたい気もしてきた。
私は意を決して佐藤君の肩にまたがった。
すると佐藤君は私の両脚をグッとつかんで軽々と立ち上がった。
私はバランスを崩しそうになって後ろに倒れそうになったので反射的に佐藤君の頭部をガシっとつかんで何とか助かった。
「おい、前が見えない」
「あ、ごめんっ」
どうやら佐藤君のおめめを覆い隠してしまっていたみたい、手を上の方にずらした。
「道を教えろ」
「はいっ! じゃあ、まっすぐ進んで次の角を右に!」
佐藤君は私の指示通りに進んでくれた。
「次は左!」
「次は右!」
佐藤君は歩くのが早い。私を乗せても重そうなそぶりもせずに軽やかに進む。すごいな。
肩車は凄く楽だし、視線が高くなって大女になった気分になれて楽しい。
あんなに高く感じたこいのぼりにだって手が届きそうな気がする。
でもやっぱり恥ずかしい……。
だって、おまたが……。
私の……私のおまたが佐藤君のうなじに当たってるんだもん。
恥ずかしいよ……佐藤君。
それに道行く人たちみんなが見てる。
私、恥ずかしすぎておかしくなっちゃいそうだよ……。
「次は?」
「交差点を渡って次の信号の所を右に曲がって……あとはまっすぐ進むだけ……。ミミー美容室って言う看板があるから……。そこが私のお家だよ……」
「よし、じゃあ走るからしっかりつかまってろよ」
「え? まって、きゃああああああああああああああああああ!!」
ω
「あった! ミミー美容室ってかいてある。ここだな? お、大丈夫か?」
逆さづりになって放心していた私に気づいた佐藤君が後頭部からゆっくりと地面に降ろしてくれた。
何がおっ大丈夫か? よ。ムカつく……。
私はすぐに体を起こすと佐藤の肩をグーで叩いた。ポコポコポコポコ何度も何度も叩いてやった。
「佐藤君のバカーっ!! 佐藤君のバカバカバカバカバカーっ!」
「何だよ」
「何だよじゃないよ! 佐藤君がすごい速さで走り出すから私後ろに倒れたんだよ!? パンツ丸出しだったんだよ!? 止まってって言っても全然止まってくれないし! 何十メートルも丸出しのままだったんだよ!? ご近所中にパンツ晒したんだよ!?」
「パンツくらいいいだろ。具が見えてるわけじゃねえし」
「私女だよ! 16歳の乙女だよ! そういうの一番気にする年頃なんだよ! 全然良くないよバカーっ!!」
「キーキーキーキうるせえ女だなっ! だったら俺も脱げばいいんだろ!」
「へ?」
「これでおあいこだからな!」
佐藤君は素早くベルトをゆるめズボンをサッと降ろすと足をばたつかせた。
足から脱げてひょいと飛んだズボンが私の顔に覆いかぶさり視界を塞ぐ。
それがゆっくりとずり落ちて、再び視界が戻った目の前に現れたのは白ブリーフだった。
川の水で湿っていたせいだろうか。
白いブリーフ布地に薄っすらと小さいウインナーの影形が浮かんで見えているような浮かんでいないような……。
頭が真っ白になった。
「よし、入るぞ」と美容室の扉の方へ行く佐藤君。
「ちょ、待っ!」
「たのもうー!」
カランカラン♪
開いた扉。
店の中から目を丸くしてこちらを見るお母さんとお客さんがみえた。
「「きゃああああああああ変態ー!!」」
取り乱す母にハサミでも投げつけられて佐藤君が怪我でもしたら大変だ。
すぐに佐藤君の前に割り込んでお母さんに顔を見せた。
「お母さん! 違うのっ!」
「実鈴っ!? どうしたのその顔っ!!?」
「顔?」
指摘されて、何となく違和感があった鼻の下を触ってみたら指にべったりと血が付いていた。
「殴られたの!? その変態に!?」
「違う! 違うの! これはちょとのぼせただけ! ただの鼻血! そしてこの人は変態じゃないの! ただの学校の……」
「ただの学校の?」
「クラスメイト……」
「クラスメイト?……ならいいんだけど……何で鼻血? ていうか何してたのアンタたち? 何で裸? 何でアンタが男子のズボンを持ってるの? ていうか2人ともその髪どうしたの!? 何でこんな汚れてるの!? えっ、まさか。いじめ!?」
「お母さん落ち着いて! これには色々事情があって……」
お母さんにはお客さんの散髪の続きをしてもらってその間に事情を聞いてもらう事にした。
佐藤君が溺れたヤギを助けた話をしたらお母さんもお客さんも凄いねと言って褒めていた。
佐藤君はお金がなくて散髪を自分でやっていて変だから切ってあげて欲しいとお願いしたら「この後もう一人予約が入っているから、その後だったらいいよ」と快くOKしてくれた。
待ってる間にお風呂に入って汚れを落としてきてと言われたけど、佐藤君は嫌がったのでげんこつ飴でつって無理やり風呂場に入ってもらった。
「ちゃんと洗剤使って洗ってね?」
「おお!」
「全身綺麗にしないとげんこつ飴あげないからね?」
「おお!」
「全身綺麗にしてからお風呂に浸かるんだよ?」
「浸からねえし!」
「なんで!? 気持ちいいよ!」
「川に入るのとおなじだろ? いちいち浸からんし」
「そんな事ないよ! せっかくお気に入りの入浴剤入れたのに! 高かったやつ」
「うるせえ、だまれ!」
「とにかく5分以上はお風呂に入って浸かってね! 早く出てきたらげんこつ飴あげないからね!」
「はあ? さっきはそんな事言ってなかっ―――」
「とにかく浸かってね! また後でね!」
「おいっ!」
私は佐藤君がグズグズ言う前にその場を離れてキッチンへ逃げた。




