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野生の男子高校生 後編

「あいたたたた~」

地面から顔をあげたら、すぐ目の前にヤギがいた。

 メエ゛エ゛エエ

「きゃあ!」


 さっき溺れていたヤギだ、元気そうでよかった。

 ふとそばを見た。

「ぎゃあ!」

 すぐそばにはうつ伏せでまっすぐに伸びている佐藤君がいた。


「佐藤君!」

 背中を揺らし声をかけるもピクリともしない。


 うつぶせの彼をくるりと裏返してあおむけにしてみたら・・・チクビだっ!?

 小さいチクビ!

 上半身裸なんだから乳首があってもおかしくはない。

 でも、同級生の……異性の……チ、チクビ……そんな事はいまどうでもいい!

 頭を振って煩悩を飛ばす。

 

 佐藤君は白目をむいていて鼻からは透明の液体が流れ出て、口からは泡を吹いていた。

「ひゃあ! 佐藤君!! 起きてっ! 誰かーっ!!」

 周りには誰もいない。

「佐藤君! 起きて!」

 肩を揺らしたり、必死にほっぺたを往復ビンタしたりした。


 そしたら佐藤君の瞼がピクピクして、そのあとゆっくりと目を開けた。

「よかった、生きてた‥‥‥」

 安心して力が抜けた私は地面にぺたりとおしりをついた。


 佐藤君は体を起こし、手の甲で口元のよだれを拭った。


 焦っていて気にならなかったけど少し落ち着いた今、改めて佐藤君を見ると物凄く変な髪型になっている。

 長く伸びてピンと立っているところもあれば、短くちぎれたところや禿げているところもあり、ところどころちりちりにちぢれている。

 なんて言ったらいいんだろう。

 管理者に見放されて何年間も放置されボロボロに荒れ果てた空き地って感じのヘアスタイルだ。


 でも、それでも結構様になっているからやっぱイケメンって凄いな‥‥‥。


 そんな事を想いながら見とれていると佐藤君と目が合った。

 彼はギラッと睨んできた。

「おまえは誰だ!! 何で邪魔した!! 殺す気だったのか!!」

「私はただ佐藤君が‥‥‥」

「なんだって!? 声がちいせえよ!!」

「佐藤くんが死のうと‥‥‥」

「はあ? もっと大きい声でしゃべれあ!!」

「死のうとしてたから‥‥‥」

「ああ!? もっと腹から声出せっつってんだろメスブタ!!」

「佐藤君があ!!! 死のうとしていたからあ!!! 助けただけえええええええーっ!!!」

「うわ、目に唾が入った」

「あっ! ごめんなさい!」


「両目に入った……」


 超クールタイプの目薬を差したあとのように目をギュっと閉じたりこすったりして苦い顔をする佐藤君。


「ごめんなさい‥‥‥」

「お前の唾は酸かよ!!」


 私のつばってそんなに危険なんだ知らなかった。

 申し訳ない気持ちになった。

 佐藤君は両目を真っ赤にして涙まで流して痛そうだ。

「だ……だいじょうぶ?」


「俺死のうとなんかしてねえよ‥‥‥散髪してただけなのに……くそっ……」


「散髪? そんなばかな! どんな散髪の仕方なんですか!?」 


「木の枝に髪を結んで体重の重みでちぎるんだよ!!」


「そんなの自殺にしかみえないじゃないですか! 危険すぎます!」


「お前に関係ないだろ! ていうかおまえ誰だよ! 帰れ!」


「私はあなたと同じクラスの耳川実鈴だよ!」


「みみみみみりりん? 何だよその名前、ばっかみてえ」

 

「人の名前を馬鹿みたいって……あったまきた……。フンッ」


 なんて失礼な人なの。

 私はスカートのポケットに忍ばせていたげんこつ飴の袋をとりだし二粒手の平に出して口に入れた。


 おいしい。

 

 イライラした時は美味しいものを食べていったん落ち着くといいとお母さんが言っていた。

 きなこのほのかな苦みとさとうの甘さがちょうどいい。

 さとうの甘み。

 さとう。

 佐藤くん……。


「何を食べているんだ?」

 佐藤君が物欲しそうな顔で私の口元を見ている。

 そうだ佐藤君がいつもイライラしているのは糖分の摂取がたりていないからなのではないか。

 だったらげんこつ飴を食べさせたら少しは良くなるんじゃないか。

 物は試しだ。

「佐藤君、これあげる」

「ん?」

 

 私はげんこつ飴を袋ごと渡した。

 手に取り眺める佐藤くん。

 どうやら初めて見るらしい反応。


「げんこつ飴だよ。おいしいよ」


「何! げんこつだと!?」

 佐藤君は袋のジッパーを開けると中を(いぶか)しそうに覗き込み、大きく口をあけ、袋から直に流し込んでモグモグした。

 食べ方がワイルドだ。


 モグモグモグ。


 すると佐藤君の表情はわかりやすく明るくなっていき瞳も輝きだした。

「何だこれうめええええ!?」


 佐藤君こんな可愛い顔もするんだ。

 赤ちゃんが初めてあまいものを食べた時の様なその表情をみていると思わず自分まで笑顔になっちゃう。

 

 

「もっとあるかごほっ、ごほっ、ごほっ ぶわっ、おええぇ」

 佐藤君が口からふいたきなこが私の顔にぶっかかった。


「きゃ! ちゃんと食べ終わってから喋ってよ! げんこつ飴はもうないよ!」


 顔に着いたきなこを払った。

 目に入らなくてよかった、きなこが目に入ったら痛そうだよね。

 何となく髪に触れたら、髪にもついてる!

 制服の胸元を見たら、胸元もきなこ!

 佐藤君っ!!


「げんこつ飴ッてうめーんだな。 チンビンにはかなわないけど、世界で2番目においしいものはげんこつ飴だ」

 

 こっちはきな粉まみれだって言うのに佐藤君たらもう……。

 でも……。

「喜んでもらえたようでよかった……」


 なんとなく佐藤君の胸元を見た。


 立ってる!?


 チ‥‥チ……チクビが立ってる!!


「佐藤君! チクビが立ってるよ!」

「あ? それがどうした?」

「なんで!?」

「は? しるかよ。ちくびは立つもんだろ?」


 やだ、私顔がめっちゃ熱くなってる、なんで!?

 とりあえずチクビは見ないようにしよう。

 もう帰ろうかな。

 

 げんこつ飴の空袋に書かれた文字を真剣に読んでいる佐藤君。

 今の髪形は似合っているとはいえ酷い髪型だ。

 

「佐藤君!」

「ん?」

「いつも木の枝にくくりつけて散髪してるの?」

「ちがう、さっき思いついた。伸びすぎてうっとおしかったからな」

 佐藤君の視線はずっとげんこつ飴の空袋を見ている。

 そんなに気に入ったんだね。


「危ないよ、ちゃんとしたところで切ろうよ」

「ちゃんとしたところってなんだよ」

「美容室とか、床屋さんとか」

「そんな金あるかよ」

 

 佐藤君は真由美先生の親戚じゃなかったっけ?

 真由美先生のお家はすごく金持ちって聞いた事あるけど、佐藤君ちは貧乏なのかな。

 

「私のお母さん美容師だから、佐藤君の髪切ってもらおうよ」

「いいよもう切ったし」

「それで完成なの!? そんな荒地みたいな頭で!?」 

「短ければいいんだよ! お前はその頭で人の事良く言えるな」


 はっとして髪の毛を触ってみる。

 土とか砂とかきな粉とか色々なものがついて乾燥してごわごわボサボサになっていた。

 手ぐしでとかそうにもひっかかって指が通らない。


「私のは洗ったら直るけど、佐藤君のは伸びるまで何か月もずっと変なままじゃん」

「俺がどんな頭してようがお前には関係ないだろ」

 佐藤君は立ち上がるとげんこつ飴の袋を折りたたんで制服のズボンポケットにしまいこみ川の方へと歩き出した。

「ちゃんとしたところで切ったらもっとかっこよくなるよ! 一緒に行かない!?」

「うるせえ」

「ただだよー!」

「しつこい、消えろ!」

「げんこつ飴もあるよー!」

 佐藤君の動きがピタリと止まった。


 そして回れ右をして戻ってきた。


「よし、行くか」

 そう言って手をのばしてきた。

 私が握り返すと力強く引っ張り上げて立たせてくれた。


 投げ捨ててあった鞄とヘルメットを拾って、私たちは私のお家でもある母の美容室へ向かうことになった。

 

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