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物語終了課  作者: lachs ヤケザケ 
悪役令嬢に転生したが、元の乙女ゲームをRTAany%でクリアしたので内容がさっぱりわからない
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第九十四話 悪役令嬢に転生したが、元の乙女ゲームをRTAany%でクリアしたので内容がさっぱりわからない

 異世界転生、異世界転移。

 一般の日本人が異世界に行く話が人気だ。人気ということは、それだけ書かれる物語が多いということであり、未完の物語も多いということである。


 主人公は現代日本人とだいたい価値観を同じくする者であり、話しやすいとか事情をわかってもらいやすいとかのメリットはある。

 あるものの……。

 本間はため息をつく。


「出でよ! コントローラー!」


 主人公の悪役令嬢は、天に手を上げて祈っていた。

 あまりどうにかなるとは思えない。

 少女漫画でしかお目にかかれない豪奢な縦巻き金髪ロール。意志が強そうなツリ目。紫色のドレス。まあ立派な悪役令嬢である。名前をイザベラという。

 広い部屋、光沢のあるベルベットのカーテンに椅子。木細工の施されたテーブル。壁には大きな絵画。

 まあ一般的な貴族の部屋だろう。


 例によって、本間は物語の中にいる。

 角戸 完が、女性ファンが欲しいという邪な理由で書いた物語だ。

 確かに、悪役令嬢ものは女性に人気だ。

 前世でプレイしていた乙女ゲーム又は漫画の中に転生し、悪役としてのバッドエンドを回避するため奔走するジャンルものである。

 たいてい、元の乙女ゲームでの悪役令嬢はプレイヤーのヒロインをいじめたり邪魔したりし、最後にはそれをとがめられ、国外追放となったりする。

 普通はプレイしていた記憶から、そのバッドエンドを回避しようとするのだが。


 悪役令嬢は絵画に張りついて、人差し指でつつきまくっている。


「待った。何してるんだ」

「壁抜けバグを試しているのですわ。コントローラーがないなら、直接連打するしかないじゃない」

「壁抜けバグ?」

「壁を抜けて、普通なら行けないところに行ったり、ショートカットするバグ技ですわ。学園の医務室に一気に飛べるはずなのに」

「……」

「なんですの! 乙女ゲームでも移動しないといけない系ゲームは大変ですのよ!」

「そうですか……」

 

 作者は本当に何をしたかったのだろうか。

 この悪役令嬢は自分にふりかかる危機どころか、ストーリーさえわかっていない。

 何せこの御仁は、乙女ゲームをRTAany%でクリアしているからだ。

 

 RTAとはリアルタイムアタックの略。any%とは『なんでもあり』という意味である。

 つまりは、バグでも何でも使ってどれだけ速くゲームを速くクリアできるかを競うものだ。(ということを本間は悪役令嬢から知った)


 そのため、文章スピードはマックスの速さ。ムービーは当然の如くスキップ。ストーリーの整合性がとれなくとも、ゲームのフラグが回収できればいいので、イベントを飛ばす。

 それで、ストーリーや登場人物をきちんと把握しているはずがない。


 そして、突発的な事態だったので、本間は物語のデータを取っていなかった。本間も内容がわからない。


「おかしいわね。日記に行動終了と書いても、一日が終わらないわ」

「内容はゲームであっても、ゲーム世界じゃないからな。諦めよう」

「メニュー画面オープン!!」

「諦めなさい」


 願ってもメニュー画面とかセーブ画面とかは出て来ない。


「それより、本当に悪役令嬢の最後を知らないのか? こういった乙女ゲームなら、断罪され追放されたり、ヒロインの攻略対象に殺されたりするものだが」

「まったく覚えがないのですわ。わたくしが悪役令嬢とわかったのは、縦ロール金髪の見た目だけ」

「プレイヤーキャラの主人公のこともよく覚えてないみたいだし、悪役はもっと覚えてないか」


 本間の言葉に、悪役令嬢のイザベラは何か閃いたように指を鳴らした。 


「そうだわ。悪役令嬢はゲームのプレイキャラクターじゃないもの。できるはずがないわ。ヒロインを捕まえて協力させればいいのですわ」

「いやー、どうかな。試してみてもいいとは思うが……」


 悪役令嬢もののヒロインは、本当に性格がいいものと反対に悪いものがいる。ヒロインも転生してきたという可能性もある。

 悪役令嬢に協力的かどうかわからない。


「大丈夫ですわ。このゲームは18禁のPC版と全年齢のプレスタ版があるのですけど、窓から見える家の屋根の色からいってPC版」

「は、18禁?」


 驚く本間をよそに、悪役令嬢は続ける。


「選択肢を間違えると、ヒロインは死ぬかいやらしい目に遭うのですわ」

「何その悪役よりハードモード!」


 作者を殴ろう。

 助走をつけて、思いっきりハリセンを叩き込みたい。


「ムービーをスキップしようとも、わたくしは正しい選択肢を知ってますわ。ヒロインを導き、ヒロインからの好感度を上げて、わたくしもハッピーエンドですわ!」


 ほほほほほほ、と羽の扇子であおぎながら悪役令嬢は笑った。

 登場人物がアイデアを出してくれるというのはありがたい。少なくとも、物語との矛盾点はそうないだろう。

 

「それで、本当に正しい選択肢は覚えているんだよな」


 念のためだが訊いてみる。

 自信たっぷりに悪役令嬢は、ビシッと扇子を本間に向けた。 


「もちろんですわ。上、上、下、下、左、右、左、右ですわー!」


 登場人物は悪くない。作者にそう作られただけだ。


 作、者、を、殴、ろ、う。



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