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物語終了課  作者: lachs ヤケザケ 
敵が味方になると弱くなるが、味方が敵になると厄介
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第七十四話 姉は守りたい

 弟の歩き方は左ももをかばっているためか、不自然なものだった。顔には出ていないが痛いに違いない。

 かわいそうに。

 夏美が見上げると、何でもないという風に弟は笑いかけてくれた。


 都道は主人公である佐藤を殺し、物語を終わらせようとしている。それには弟と佐藤を離す必要があると。弟に物語を書かせるわけにはいかず、本気で殺す場面に弟がいれば、邪魔になるからだと言う。


『本当に殺す以外に方法はないの?』

 別れる前。夏美の疑問に、都道は口角を上げた。

『君が終わりを書けるなら、それでもいいのだよ』


 自らの身を危険に晒さずに、終わらせる。それどころか、人を殺さずに終わらせるなど難易度が高い。

 そもそものデスゲームの主催である黒幕を、どうにかする手段も浮かばない。あまりに強過ぎる。実行犯を倒せたとしても、指示した上がいる。

 そして『主人公補正』のある佐藤に、都道は勝てるのだろうか。都道が逆に殺されるようなことになったら――。 


(もし続なら、どうするだろう……)


 弟ならもしかしたら、という思いは、防災無線によってかき消された。


『こちらは――区役所です。区域内の佐藤 隆という名前の人は、一人で区役所まで来るように。一時間以内に来ない場合、もしくは本間と一緒に来たら、区役所内の人を殺す』


 都道の声だということは、すぐにわかった。よく通って張りのある声。

 佐藤の顔が曇る。弟も苦い顔をして立ち止まった。


「あのやろ、諦めてなかったか」


「本間さん、刀を貸してください」  


 佐藤から、先程まであったやわらかさが消えている。少し殺伐とした空気を感じて、夏美は後ろに下がった。


「一人で行くつもりか。相手の思うつぼだぞ」


「それ以外にできることがあります?」


「とにかくも、子供を危険な目に遭わせるわけにはいかない。俺が一人でいって、ぐっ」


 佐藤の拳が弟の腹へ入る。膨らんだ空気が押し出される音を立て、弟は鞄と刀を地面に落として、膝をついた。腹を押さえて、えずいたような息を吐く。


「子供と侮っているから、こうなる。前だってそうだ」


 震えるような声を出し、佐藤は刀を拾い駆け出した。  

 

「おい、佐藤!」


 弟はぐっと地面を押して立ち上がる。万全の状態でないのは、顔に浮かぶ脂汗から知れた。佐藤を追おうとする弟の前に、夏美が出る。


(止めないと)


 都道が本気を出すなら、弟が邪魔に入らないところ。弟が区役所へ行ってしまうと、都道が人を殺してしまう。都道は登場人物を作り物と断じているけれども、弟はそうじゃない。

 

(それに、都道さんが負けたら。死ぬようなことがあったら)


 夏美はスタンガンを握りしめ、スイッチを入れる。バチッという音がした。

 驚いた顔で弟は止まり、大きく舌打ちする。


「最近の若者ってやつは!」


「お願い、話を聞いて。続の親友の命にかかわることなの!」


 弟は怒りをあらわにした顔を歪ませた。口が半開きになり、そしてへの字に曲がる。


「何で俺の名前を知って」

「それも説明するから」


 弟が苦虫を噛み潰したような顔になる。逡巡は短いようにも、長いようにも思えた。弟の口が開く。


「わかった。言ってみろ」



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