第七十二話 部下達は、係長(の不在で仕事が溜まること)を心配している
「はーい。第一回アンポンカン係長を助けて、年度末を乗り切る会議!!」
バンッと、小牧はコタツテーブルを叩いた。遠藤は拍手し、角戸も遠慮がちに手を叩く。
一人暮らしの角戸の家に三人は少し多いが、収まっている。
「あの~。俺の夢に係長がいるんだろ。『インセプション』とか『パプリカ』みたいな感じってこと?」
角戸がおずおずと手を上げる。
「はいっ! 何のことかわかりませんけど、そういうことだと思います!」
小牧にぶった切られて、角戸の手がしおしおと下がっていく。
角戸は飲み込まれた世界が夢だと思っているが、物語終了課の小牧と遠藤は真実を知っている。
「忙しい年度末に係長がいない所為で、仕事がたまりにたまって大迷惑です。まったく何で係長分も仕事してサービス残業しないといけないんですか!! 絶対に明日から仕事をしてもらいます!」
再度、小牧がテーブルを叩いた。
遠藤は同意して頷く。
「係長は、原稿用紙十枚以内でほとんどの物語を終わらせるという変な技術を持ってますから」
「そうですよっ! 年度末にその謎技術を使ってもらわないと、私たちが休日出勤をする羽目になるんです!」
小牧が心配しているのは、係長本体ではない。
本人が聞けば悲しく思うだろう。
「あの~。それで、どうして俺の家に来るんだ?」
今更ながら、角戸は理由を問う。寝起きのぼんやりした頭でドアを少し開けたら、強引な訪問販売よろしく足をねじ込まれ、侵入を許してしまったのである。
「肝心の夢の内容が重要なんです。吐いてください」
小牧がそう言って、角戸の肩をボールペンのケツでつつく。
夢オチでの強制終了は時間を止め、問題を先送りにするだけだという。続きを書いた途端、物語の最初の部分に戻る。
係長が飲み込まれた件の未完の物語は回収され、危険だということで物語終了課でも閲覧できなかった。
内容はもう作者に根掘り葉掘り訊くしかない。
内容を知り、終わりへの道筋をつけ、上司を動かす、それが部下らの思惑である。たとえ終わらせることが出来る解決策があっても、当の物語のデータか紙がない限り、物語に干渉できない。
「え~、え~。よく覚えてないよ~。なんか急に襲われたし」
角戸の金髪の頭が揺れる。
「夢なのでしょう。深層心理でしょう。以前に書いた物語に似ているものがあるでしょう」
小牧は角戸の肩をボールペンで強めにつつく。ノックされて、カチカチと音を立てた。
「あ、それ、係長にも言われたけど、実験的な作品でそこまで書いてなくてさ。って、あの話が夢の中に?」
「内容だけ話してくれればいいです」
疑問をバッサリと切られ、角戸の肩が落ちた。




