第六十九話 魔王は親友と戦う
「君が佐藤 隆くんかな」
「何ですか、あなた」
否定しないなら本人だろう。仮に、本人でなくとも構わない。登場人物なら、何人でも死んでもいい。
都道は一切のためらいもなく、青年に向けて銃を撃った。
発砲音と同じくらいに金属音が聞こえる。刀の閃きが見えた。
佐藤の前に、守るように本間が立ちはだかる。
(漫画のように刀で銃弾を斬った!)
浮き立つ心に笑いが止まらない。
案の定、冷ややかな視線が本間から刺さってくる。
「逃げて警察を呼べ。狙われている」
(その青年が佐藤だと答え合わせしているぞ。馬鹿だな)
「やぁ。私が市民の安全・安心を守る警察官だよ」
「冗談ぬかせ」
「本当なのにな」
何なら警察手帳を見せて驚かせたい気分だったが、名前を知られるわけにはいかない。変に書かれても困る。
佐藤を殺す前に、押さえておかないといけないのが本間だ。
少なくとも引き離す必要がある。
現実のことを忘れていようとも、物語を書けば反映される。
過去、登場人物からの甘言で都合のよいように書かれ、救助に手間どったことがあると物語終了課長から聞いている。
夏美が書く話にバッティングすることは避けたい。以前はワインをしこたま飲ませて回避したが――。
『いくら君でも苦戦すると思うよ』
この話が入ったUSBメモリーを渡しながら、課長が言ったことを思い出す。
『物語世界では『物語補正』と『主人公補正』が働く。現実とは違うんだ』
例えば、刀で銃弾を弾いたりできるのは『物語補正』の効果だという。
『主人公補正』は、主人公が受けている恩恵らしい。敵からの攻撃が当たりにくい、当たっても無事または軽傷、死亡フラグは回避する、危機に陥っても誰かが助けてくれる、などらしい。
負の『主人公補正』として、親や兄弟が死亡するや殺されるがあるらしいが、どうでもいい。
本間を殺したいわけではないので、銃の代わりにナイフを出す。
対日本刀ではリーチ分不利だが、本間の性格上殺すまいとするだろう。決定的なところで隙が出るはず。
予想通り、本間がナイフを見て刃と峰を返す。峰打ちを狙う気だ。
(甘いな)
初手で潰す。
ナイフを回しながら、じりじりと距離を詰める。本間からは仕掛けてこないとわかっている分だけ楽だ。
ある程度近寄ったところで、一気に踏み込む。
左の胴を打とうとする刀を両手で持ったナイフで受け止める。重さを感じつつ、本間の太ももを強かに蹴る。加減なしでもろに受ければ肉離れをも起こすところだ。
まともに歩くのも痛くなる。
ただそこまではしない。
「っ!」
本間は顔を歪めて、バックステップをする。刀にとって有利な間合いまで後退した。
(甘かったのは自分か)
本気でやれば。いや、ハイキックで下顎を狙えば脳震盪を起こして立てなくなるはずだった。
都道は自嘲して、襲い掛かる刀をナイフ一本でさばく。フェイントをしようとしているのか、攻めあぐねているのか、一撃が軽い。片手でも受けられる。
だが、ナイフや蹴りまで届くところまでは近寄らせてもらえない。二度も同じミスはしないということか。
「やるじゃないか」
刀の間合いから離れて、都道は笑う。本間はしかめっ面をして刀を握りなおした。
殺すだけなら簡単だが、危害を加えずに無力化するのは難しい。
本間の後ろにいるが、佐藤は険しい眼差しでこちらを見ている。本人は隠しているつもりだろうが、得物を持っているのはわかる。
本間だけに時間をかけるわけにはいかない。
手は打った。夏美も本間に任せておけば、守るだろう。これで自由に動ける。
「では、またな」
都道はひらひらと手を振って、細い路地へと身を隠し駆ける。
「なにが、またなだ!」
予想通りの返答が後ろから聞こえてきた。




