第五十九話 レベル1だけど頑張ろう
「せっかくなので、戦闘やってみましょうよ。初心者さんの反応が見たい」
アリスが本間のキツネの尻尾を引っ張る。
ぺしんと尻尾がアリスの手をはたくが、アリスはぬいぐるみにするかのようにギュッと尻尾を抱きしめた。
本間は深く深くため息をついた。
ゲームをしに来たわけではない。ではないが、ぼけっとしていると尻尾を遊ばれるだけなような気もする。
「やります。やりますよ。尻尾から離れて」
本間がアリスの肩を押すと、しぶしぶといった様子で離れていった。
GMは興味あるのかないのかわからないが、木に寄りかかって腕を組んでいる。斜に構えた態度だ。
「さて」
リベンジ戦だ。
本間はスライムを対象として杖でVの字を描く。
「風の刃」
鋭い風の音がして、一瞬切り裂くような弧が見えた。スライムに『6』のダメージを与える。
「おお」
些細だが、前とは大分違う。やれれば案外、面白い。
「バリアも使ってみてください。練習ですよ」
アリスの声がする。
本間は杖を上にやり、中空に円を描く。
「バリア」
半透明のドーム状のものが本間を覆うように出来上がる。スライムの攻撃は『1』となった。完全に防御するわけでもないらしい。
「風の刃」
再度の攻撃でスライムがフッと消えて、金貨が現れた。
「やりましたね! 金貨ですよ」
アリスが拍手した。
モンスターを倒すと金貨という報酬が現れる。ゲームではお馴染みの光景だが、実際に見ると妙でもある。
本間は金貨を拾う。幾何学模様が描かれた厚みのある金貨。
「お金は銀行に預けておくのよ」
「どうして?」
「死ぬとお金は半分取られちゃうから。保険ね」
昔やったゲームにあったな。死んだらお金を半分にされるやつ。
あれか、蘇らせるのに教会にお金をとられるやつだ。
何か違和感がある。
感覚を浮上させるように、金貨の表面の凹凸を指の腹で撫でる。
綺麗な金貨だ。それ以上でもそれ以下でもない。
べっとりも何もしていない。
ルーク、いや佐藤と会った剣と魔法のファンタジーの世界では、お金を洗った記憶がある。返り血も浴びた。倒した後もモンスターの遺骸は残った。
金貨は綺麗で、モンスターは倒されると消える。
アリスは木のモンスターの他にスライムと巨大なネズミを倒したが、返り血は受けてない。
この物語世界はゲームの世界を反映している。
当たり前か。
本間は金貨を親指で跳ね飛ばして、空中でつかむ。
「アリスさん。お金は三国共通なのかな?」
アリスではなく、GMが口を挟んだ。
「そうよ。そうじゃないと管理が面倒じゃない」
ごもっともである。プレイヤーの前でしゃべるのはどうかと思うが。
国ごとにレートが違えば、良いところにプレイヤーが集まるだけだろう。
本間は腕を組んだ。
タシタシと尻尾が地面を叩く。
「GMさん。プレイヤー同士が戦うところはどうなっている?」
「身体能力が高い連中がプレイヤーを止めているわ。本来のゲームは相手に触れることはできないのよ。そうでないと、セクハラ問題とか色々出てくるでしょ」
触られまくったので、よくわかります。
「そうそう。主にシティー・ロードという召喚術師が暴れまくって、プレイヤーを戦闘エリアから除外しているわ」
都道か。
モーションと言葉でスキルと魔法が発動するが、触れることができるということで強制的に止めているのだろう。口を塞いだり、腕をつかんだりして。
心底楽しく暴れているだろうことは目に浮かぶ。
「シティー・ロードに連絡できる?」
「プレイヤーは検索できて、どこにいるか調べて連絡できるのよ」
アリスが自分の画面をタップした。
(うーん)
タシタシと地面を叩く尻尾が止まる。
都道に連絡したくはないが、背に腹は代えられない。
本間はGMへと呼びかけた。
「ちょっと働こうか」




