第五十七話 物語終了課の係長は職務を放棄した
散々尻尾を触り尽くして満足したのか、本間は解放された。
アリスは満足そうにほくほくとしている。
本間とて大人しく触られていたわけではない。
引き剥がそうとし、抵抗していたのだが、ステータス差があるためか引き剥がしは出来ず、怒鳴るとなぜか喜ばれてしまった。
しまいには耳をも触ろうと一生懸命ジャンプし始める。
少女が駄々をこねるようにしている見た目は大変愛らしいが、本間は少女の中身が年上だと知っている。
(なんなんだコイツは)
とは言っても、周りに他のプレイヤーらしき人物もいないため、仕方ないがあてにするしかない。
都道は嫌だ。都道よりはましだ。
「まあ、殺してくるプレイヤーじゃなくてよかった」
本間は独りごちた。
VRMMOはプレイヤー間の戦闘があるということは、小説で知っている。
「専用エリアじゃないとプレイヤー間の戦闘はできないの。安心して」
「へえ」
ゲームによって違うだろうから、プレイヤーのアリスに聞く方がいいだろう。
「全くこのゲームのことを知らないから教えてほしい。ストーリーと戦闘の仕方を特に知りたい」
アリスは頷くと、キャラクター名やレベル、HPが書かれたステータス画面を指で引っ張り大きくする。
タブレットを扱うように、スライドさせて画面を切り替えた。
世界地図らしきものが出てくる。
「ゲームタイトルの『スリーカントリーズ ファンタジー』の通り、三つの国がメインになるの。三国は対立していて、冒険者であるプレイヤーは一つを選んで所属する。その国のために他国のプレイヤーと戦ってもいいし、未開拓の大地に行ってモンスターを倒しにいってもいいし、家を買ってのんびりしてもいい。自由度の高いゲームよ」
「メインストーリーは?」
そこが肝心だ。ゲームをやりに来たわけではない。物語を終了させに来た。さっさと帰りたい。
「ないわ」
「ない?!」
そんな馬鹿な。
「ストーリーは自分で見つけていくの。例えばね。依頼を受けてドラゴンを退治した後、その場からペンダントを手に入れる。そのペンダントは依頼人の紋章が描かれていた」
心からこのゲームを楽しんでいるのだろう。アリスは自慢げに話す。
「このことから、関連づけるの。かつて人を竜化して戦争に用いたことがあるんですって。強かったものの、今は禁止されていると。この情報も辺鄙なところにある山小屋の日記からわかるんだけどね」
と、アリスは世界地図の北の端を指す。確かに、辺鄙そうだ。
「つまり、ドラゴンは依頼人の親類だったってことよ」
「それは悲しい話だが、そうやってストーリーをつくっていくのは面白そうだな」
本間はそう言いつつも、内心は別のことを考えていた。
情報をかき集めて物語をつくるというのは、今からでは無理だ。
レベル1ではこのゲームの世界を歩きまわれない。
外の現実世界の方が、ストーリーになりそうな情報をまとめたブログやサイトがあるだろう。
もしくは、始めからゲームを知っているプレイヤーが文科省の中にいるはずだ。
(俺にできることはない)
誰かが終わらせてくれるまで、待っているか。
本間は職務を放棄した。




