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物語終了課  作者: lachs ヤケザケ 
成人男性は誘拐されないと油断してはならない
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第四十八話 おおかみ6

「夏美ちゃん、夏美ちゃん」


 肩を揺さぶられる。

 浮上した意識のすみっこで、先ほどまでの悪夢がこびりついていたようだった。

 あれは過去。嫌な思い出。

 

 ぼんやりとした意識で、目をこすり焦点を合わせる。

「休み時間、終わっちゃうよ」

 オレンジ色が鮮やかに見えて、ほっとする。過去にこんな色をした子はいなかった。

 

「あ、ごめん。ありがとね」

 休み時間に寝ているふりではなく、本当に寝てしまっていた。

 些細なことだけど、安心する。


 みかんはにこりとして、自分の席に戻っていった。


 机の中で、マナーモードにしておいたスマホが点滅している。

 電源ボタンを押すと、メッセージが浮かんできた。


『弟さんが誘拐された。位置を知らせてくれ』


 発信元は都道。

 授業開始のベルが鳴る。

 スマホと鞄をひっつかむと、とがめる先生の声を背に教室を飛び出した。



****



『位置情報ありがとう。動いたら、また知らせてくれ』

 都道の声は普段と変わりない。

 世間話をしているかのようで、弟が攫われたという現実感がない。

 けど、位置情報はいるはずの仕事場から離れている。


「あの……」

 口を開いたまま、言葉が出てこない。

 不安で電話を切りたくないだけ。邪魔してはいけないのに。


『後は警察に任せてくれ。大丈夫だよ』


「……はい」

 スマホを持ったまま、とぼとぼと通学路を歩く。

 

『ああ、そういえばね、弟さんから伝言だ。『愛している』だとさ。死んだら伝えてくれとのことだったのだが、録音しているから本間君を助けた後にあげるよ。本人の前で再生するといい。きっと、頭を抱えて面白いよ』


 たぶん、悲痛感をやわらげようとしてくれている。

 最後の方は、弟と話すような明るさだった。



 通話が切れた後のスマホを見つめる。

 今、弟に電話しても繋がらない。答えてくれない。いつものことができないのが、理解できない。 


 大丈夫。

 警察が動いているのだがら、任せればいい。大丈夫と自分に言い聞かせる。


 ふいに思い出す。

 死んだら伝えてくれ。愛している。

 はにかみ屋の弟が言うなんて、本当に。

 

 スマホを持つ手が震える。

 死んだら?

 もう二度と話せない。笑顔を向けてくれない。一緒に食事することもない。テレビを見て他愛のないことを話すこともない。

 

 いなくなって欲しくない人がいなくなる。

 そんなことは許されない。


 手を上げて、タクシーを止めた。

 開いたドアに滑り込む。

 目的地を告げ、こちらが女子高生だと見て不審な顔をする運転手に財布の中身を見せる。


「お金はあります。急いで!」


 運転手は黙って発進する。 

 鞄の中からノートを取り出し、数ページ破る。書き慣れたシャープペンシルをノックする。


 願うが叶うなら。

 もう一度。

 一人殺したんだから、もう一人殺したっていい。

 

 弟を連れ去ったわるいやつを、食べちゃえおおかみ。


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