第四十六話 おおかみ5
目が覚めると強い不安に襲われる。
眠りに落ちる前の落下感がいつもする。地面がなくなったかのような、地に足がついても踏んでいるかどうか自覚がない。
人を殺しておいて、普通に生きれるなんてことはない。
そういうことが許されるはずがない。
いつか知られるはずと思いと、証拠はないのだから大丈夫という思いで揺れる。
あんな親は消えて良かったんだと正当化するも、命を奪われるほどのことかと冷徹な思考がものを言う。
何もかも吐き出してしまって、楽になってしまいたい。
誰にも話せるはずがない。
ただただ、濃縮した上澄みの言葉で、
「辛い」
とこぼした。
友人。その時は友達だと思っていた人は、
「あんたより辛い人はたくさんいるわよ。あんたは見た目はいいし、恵まれているわ。そんなこと言わないでよ」
と言った。
不幸自慢をする気はなかった。
不幸自慢というのは、相手が自分よりましだとちょっと思うくらいがいい。実の母はネグレクトだったというのはドン引きがすぎる。
ろくに世話もされず虫歯だらけだったのを治療されて、食べ物も十分に与えられてぼさぼさだった髪も普通になり、ましな見た目になっただけ。
更に母を殺したというのは、不幸自慢でなく犯罪だ。
何も言うことなんてできない。
それなのに、
「不幸自慢する気はない」
と口に出た。
―あなたと違って
それから、無視されるようになった。
それはそうだろう。音に出さなかった『あなたと違って』という毒が伝わってしまったのだろうから。私は最低だ。
ずっと授業をしてほしかった。
休み時間は寝ているふりで過ごした。
やっぱり、生きるのに向いていない。
そもそも、いないものだったのだから、いないものにして欲しい。
ふと、母のことが羨ましくなった。
食べられるのは嫌だけど、物語の中に入ってしまえば現実からはいなくなれる。




