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物語終了課  作者: lachs ヤケザケ 
ミステリーといえど、トリックなんてどうでもいいから終わらせたい
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第十七話 ミステリーはトリックと犯人を決めてから書こう

 作家にとって物書く最大の敵はネットサーフィンだろう。

 何か調べものをするのにかこつけて検索すると、止まらなくなる。SNSも、特にツイッターは敵だ。

 では、ネットがまだ一般的でなかった時代は良かったかというとそうでもない。

 そこには別の敵が存在した。

 名をソリティアとマインスイーパと言う。


 本間は角戸のパソコンを機内モードにしてロックすると、ソリティアとマインスイーパ、念には念を入れてピンボールも削除した。


「ひどい」

 ベッドの下を体で床掃除をしたせいか埃だらけな角戸がぽつりと言った。

「ひどくはない。書くことに集中できるようにしているだけだ。ほら書け」

 本間はそう言ってパソコンを元の持ち主に戻す。


「そうは言ってもどうしようもないんだ。俺と一緒でもう手の施しようがない。何も手段がない。もう駄目だ」

 ナメクジかダリの絵画の時計かと思われるほど、角戸は机に張り付いて溶けている。

 脊椎動物である自覚は持ってほしい。


「何かあるだろう。例えば犯人の想定は誰だったんだ?」

「完全な密室をつくることに必死で考えてない」


 頭痛がする。

 いや、ここで諦めるわけにはいかない。

 ここで諦めるとトリックも犯人も想定していない密室ミステリーが物語終了課の管轄になる。

 絶対に作家自身に尻ぬぐいをしてもらわなければ。


「壁に隠し穴があったりとか」

「地の文で壁、床、天井に穴はないと書いた」

「アリバイのない人は?」

「すべての登場人物にアリバイをつけた」

 ぐったりと角戸は言った。


 本間はひどくなる頭痛にこめこみを押さえる。

「アリバイは崩せばいい」

「カブトムシの姿をした館が舞台で、それぞれの足の先とツノの先に部屋があり、胴体が居間なんだ。宿泊している個々の部屋にいくのに居間を通らないといけないけど、居間に監視カメラを設定したんだ。誰もが被害者の部屋へ行ってないんだ。アリバイが客観的に成立してしまったんだ」


「どうしてそんな無駄な設定いれたの?普通、居間に監視カメラ付ける?」

「調子に乗っちゃって……」

 先刻の元気がどこへやらの状態である。

 本間は深く嘆息した。

「叙述トリックというのがあるだろう」

「監視カメラがそれを邪魔する……」

「うっ」

 客観的な視点があるのは苦しい。


「ああ、そうだ。刺されてから部屋に入ったとすればいいじゃないか。被害者は廊下の監視カメラのないところで刺されて、逃げるために自室に入ったが息絶えた。ドアの前の監視カメラではナイフがたまたま映ってない視点だったとかにすればいいし、どうしようもなく強引だが居間の監視カメラも誰かの影で見えないかったとかで誤魔化せ」

「内部から鍵をかけれている件はどうする?」

「ドアがオートロックだったでいいだろ」

「オートロック!?」

 角戸は衝撃を受けた顔を見せ、パソコンに向かいキーを打つ。

 まさかそこを想定していなかったのではあるまいが、終わるようならそれでいい。

 これで一件落着だ。




―数十分後―


「ど~~~う~~~し~~て~~ぇ~~、被害者のドアはオートロックではないと書き加えたんだこのアホがぁぁ―!!」


 本間は即席で作った新聞紙のハリセンで角戸のど頭をはたく。

「だってぇぇ。登場人物の皆、不思議がってるのに、オートロックで片付けられるのは悔しいじゃないかぁあ!!」

「うっさいわぁぁ――!!」


―り、り、り

 手首にくくりつけた鈴から警戒音が鳴った。


「角戸! 今すぐ、そのオートロックではないという文章を消せ!」

 角戸はBackspaceキーを連打するが、パソコンの画面の文字は消えずに増えていく。

(まずい。物語が暴走しかけている)

 本間は焦った。

 こうなったら、ミステリーとして終えるのは諦めた方がいいかもしれない。


「ほら、犯人は人間じゃなくてもいいじゃないか。未知の怪物とか宇宙人とか」

「犯人は人です。ホモ・サピエンスですと書いた。さらに言えば、霊や超能力とか超常現象はまったく本文に入れてない」


「しっかり、がっつり物語終了課対策してるんじゃねぇぇ!!」

 腹の奥底からの声が恨みを込め吐き出される。


「だって、物語終了課に行ってしまった話はことごとく霊とかの所業にされるじゃないかあああ!!」

「お前がほっぽりだすからだろうが―! 物語とペットは最後まで面倒見ろや馬鹿―!! あと、ペンネームを角戸完じゃなく角戸未完にしろおおおおお!!」

 二人の男の叫び声がうるさかったのか、隣の部屋からだろう壁からイラついたようなドンドンと叩く音がする。


「いいもん、いいもん。どうせなら物語終了課に嫌がらせをしてやる。この物語を終わらせられるものなら、終わらせてみろってんだ」

 こいつ開き直りやがった。

 本間は頭をかきむしる。 

「おい、こら。今からでも遅くないから、霊とか呪いとかUFOとか書け。魔法でもいい」

「嫌だね。これまで散々な終わりにされてきた報いを受けろ」

「終わらせることもできない奴が何言ってるんだ!」


―りーん

と二人の言い合いを遮るように、鈴から音がした。


「嘘だろ……」

 本間はうめいたが、鈴から確かに音がする。

 未完の物語が暴走して、人を飲み込む。その際に奏でられる涼やかな音。

 

 刀は不要だろうとそっと床に転がし、本間は心置きなく思いっきり頭を抱えた。




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