第十五話 すべては霊とか呪いのせいなのね。そうなのね
「皆さん、犯人がわかりました」
そう探偵が言うと、さざ波のように人々の中に驚愕が広まっていった。
大勢の視線を一身に受け、探偵は被害者の妻をスッと指さす。
「奥さん」
「ひぃっ」
呼ばれた女性は小さな叫び声をあげる。
疑惑がこもった視線が、今度は女性に注がれた。女性はふるふると首をふる。
探偵はためるように息を吸って、ゆっくりとセリフを吐く。
「あなたがおっしゃる通り、これは悪霊の仕業だったのです……」
「除霊をしましょう」
こうして、陰惨な殺人事件の幕は閉じたのだった。
【すべては霊とか呪いのせいなのね。そうなのね】
「あの~、係長。元の作者に怒られないですか、これ」
ファイルの物語を読み終わり、こわごわと小牧が言う。
探偵ものの推理小説をトリックとか関係なしに霊の仕業にして終わらせたのが気になるらしい。
本間にとって、こういうのは日常である。
「何を言っているんだ。推理作家が手放した事件の物語を真剣に扱う必要なんてない。むしろ、真面目にトリックを考えて思いつくようなら、自分が推理作家になってるさ」
「ですけど……」
小牧は腑に落ちなさそうに、明るい茶髪を指でいじる。
「物語の本文やセリフに『十年前に殺された同級生の霊の仕業』とか『村に代々伝わる掟を破ったがための呪い』とか『竜神さまの祟り』とか出てきたら、そのまんまその所為にすれば物語は終了する」
「でも、それはもうミステリーじゃなくなりません?」
小牧は不満げだ。
「物語本文に『これはミステリーというジャンルです』と書いてあるか?ないだろ」
「トンチみたいですね……」
「トンチじゃあないさ」
小牧が納得しづらいのもわかる気はするが、物語終了課としては割り切らないと仕事が終わらない。
本間は係長として言わなければならないと続ける。
「いいかい。本文に言及がなければ霊や超能力といった非現実的なものを使うことができないが、逆を言えば言及さえあれば使い放題なんだよ。使えるものは何でも使って終わらせるのが、物語終了課だ。
あらゆる手立てを駆使すれば、終わらない物語なんてないんだよ」
「そう……なんですね」
納得したのは8割程度というように、少しの疑念を残しつつ小牧はうなづく。
今はこれくらいでいいだろう。
大量の未完作品を取り扱う内に、終わることだけに執念を燃やすことになる。
「係長、ちょっと」
本間が声の方へ振り向くと、課長が手招きしていた。
「課長、どうかいたしましたか?」
机の前まで行くと、課長はにっこりと笑った。
課長は普段から笑みを絶やさない人だが、改めて笑顔を向けられるとそこはかとなく圧を感じる。
「本間係長に出張を頼みたくてね」
「出張? ええ、それは行きますが、どこへ……」
物語終了課は、物語を終了させるのが務めだ。
文章を書くだけなので、出張することはほとんどない。
あるとしたら研修だが、係長レベルで行くようなものではない。もしそうなら、新人の小牧が適任だろう。
「角戸 完という作家に覚えある?」
「ありますよ。未完作品産出の常習犯ですから」
怪獣とか主人公が転生した案件で被害をこうむったが、それ以外にも未完作品を多数よこしている。
先ほどまで小牧と話題にしていた話も、元は角戸 完の作品だ。
「そう。未完作品ばかりでまったく完結させてくれないからね。出版社の担当と共謀して、彼をホテルに缶詰め状態にしてあるんだ」
「はあ」
それは、いいんだろうか。いろいろと。
「係長には角戸 完の監視を頼みたい。ちゃんと物語を終わらせるようにね」
「えっ」
課長の笑みが深くなる。
「『あらゆる手立てを駆使すれば、終わらない物語なんてない』、そう言いましたよね?」
(滅多なことを言うもんじゃないな)
本間は後悔した。




