第百十三話 重く受け止めております
夕食を終えて、本間はソファーへ腰かける。隣に姉が来て、端っこに追いつめられる。姉との間にクッションとしてサメのぬいぐるみを置いたものの、取り上げられてしまった。 大きなソファなのに、半分も使ってない。
サメのぬいぐるみらの方が、大きな顔で悠々とソファーを占領している。自分よりサメの方が地位が高いように思える。
テレビをつけて、ザッピングしチャンネルを合わせる。
この時間はニュース番組が主だ。すぐに目的のものが見つかる。
テロップで『民間への不当な圧力か。今田大臣会見』と張り出された。
画面に映るのは、厳つい顏で七三分けの五十代の男性。文部科学大臣、みかんの父親である。
『この度は、国民の皆さま方にご不快な思いをさせたことをお詫び申し上げます。非常勤職員とはいえ、公務員が作家の方々に心無いことを言ったのは残念でなりません。非常に重く受け止めております。今後はこのようなことがなきよう周知徹底をしていきたいと存じております。私からは以上です』
よどみない大臣の弁舌に、ざわざわとした音が聞こえる。テレビでは映ってはいないが、記者が多く来ているのだろう。
質疑応答が始まる。
『大臣。ただの非常勤職員ではなく、大臣の家の執事だと聞いたのですが、それについてどういうご所感をお持ちですか』
記者の質問は、マイクが悪いのかぼそぼそとした声しか聞こえない。
大臣は表情を崩さず、一文字の口も微動だにしなかった。
『日本には思想・信条の自由というのがあります。雇用主が被雇用者に対し、強制することはできません。私も彼のそういう思想については、週刊誌で始めて見ました』
『関連となりますが、ご息女は未完サークルの会長だとか。物語終了課に対抗していることに関して、どういうふうに考えていらっしゃるのでしょうか』
『失礼ですが、お子さんはいらっしゃいますか』
質問に質問で返されて、ムッとしたのか単に意表を突かれたのか、記者はすぐに返答をしなかった。
やがて、耐えきれなかったのか沈黙を破る。
『おります』
『お子さんとあなたで思想や考えは完全に一致しますか』
『いいえ』
『私もそうです。娘が私と真逆な考え方をしようとも、私は娘の思想・信条の自由を尊重しておりますし、そうするべきと思っております』
他にも質問があったが、同じようなことの繰り返しだった。
大臣の返答は順当なものだ。葉梨もみかんも警察に逮捕されるような酷く悪いことをしているわけではない。
作家と物語終了課にとっては迷惑だが。
「なんだかなあ」
大臣としては良い返答だ。しかし、みかんの親として、これでいいのだろうか。
人の家の事情に立ち入るのはと思いつつ、保護者代わりに呼び出された過去も思い出す。当たり前のように対応していたが、おかしい。
親がしっかりしないから、もしくは親子関係がうまくいっていないからだろう。
(文句を言う筋合いはある)
姉に押しつぶされ、ソファーの上で小さく体育座りしながら本間は思った。
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翌日。朝食後に、本間はスーツに着替える。
普段使うものではなく、行事で使う用の紺のスーツ。(いつものは、物語世界に行ったりしているのでヨレヨレだ)
それに袖口がほつれていないシャツを着る。しまらない格好ではいけない。
「よし」
スーツの裾を伸ばして、自分の部屋を出ると姉がまだパジャマのままでいる。
「続、いいわね」
姉がにこやかに言ってくる。少し照れくさく「ああ、まあ」と口の中で返す。
「お休みなのにどこへ行くの?」
みかんは姉の友人だ。迷惑をかけられているから、文句言ってやろうと正直に言うのもなんだろう。
「みかんの親にご挨拶を」
姉の笑みが固まる。
「うぇっ」
ネクタイを引っ張られ、本間は鵜飼いの鵜状態になった。




