第百六話 さよならスローライフ、こんにちは現実
何が終わらない原因なのかは、はっきりした。強制的に話の筋を変えないといけない。
今回の物語で、主人公は『過労死』とされているようなので、佐藤の時のように実は死んでいませんでしたという手は使えない。
「ふむ」
本間は腕を組み、宿屋の椅子を背で揺する。
主人公の近くにいては、自分で書く話の影響に入ってしまう。なので、わざわざ町まで避難したのだ。
ふくらんでない物語を閉じるのは困難だ。
当初、塩の能力をもって魔物退治するとか、権力者に目をつけられるとか、困っている女の子を押しかけさせるとか考えた。そして、問題を解決させて終了させようと。
だが――。
(絶対に文章量が多くなる)
深呼吸をして、メモにペンでささっと書く。
『そして、いつまでも幸せに暮らしたとさ。おしまい』
昔話や童話の最後としてよく使われるやつである。物語としてどうだろう、という良心はひねり潰した。
すべては作者である角戸が悪い。
すべては作者である角戸が悪い。
大事なことなので繰り返す。
読者らも角戸 完という作者名を見ただけで、『本を読む前から完結しないと知っている、風呂敷をたたむのが絶望的にヘタ、伏線が不良債権、起承転結のうち結は糸偏だけでほつれている』と非難していた。
こうした声を受けて、さすがに角戸も反省するかと思っていたのだが。
そうはならなかった。
角戸 完は変わらなかったし、逆にあまりの終わらなさと作者自身を楽しむような読者が出てきたのだった。
彼らは角戸 完VS担当者もしくは物語終了課のやりとりを、プロレスのように面白がっている。
最悪なことに、それに気づいた角戸と担当者が積極的にブログやツイッターに書くようになってしまった。
結果。
何も変わらず、未完の物語は増えた。
今までのことを思い出し、本間は現実世界へ帰る心を整える。
スローライフで癒された心はさよならだ。
「いい加減にしろおおおお!! 角戸おおおおおお!!」
相も変わらず雑然とした角戸の部屋。現実に戻った瞬間、本間は雑誌を取って丸める。
角戸がどたばたと靴を履いて、外に逃げるのが見えた。
すぐさま、本間は追いかける。
彼らの戦いはこれからだ。
次回は10月に更新予定です。
『ファンタジーの中の姉と妹に、現実に姉と妹がいる人は萌えない』もしくは『物語撲滅委員会、ただいま会員募集中』を書こうと思ってます。




