表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語終了課  作者: lachs ヤケザケ 
大学の入学式は、サメといい子でお留守番
102/119

第百二話 サメといい子でお留守番するワンコ

 姉が出ていって、ドアがゆっくり閉まるのを、本間 続はしょんぼりしながら見ていた。 

 姉の晴れの舞台を見守りたかったのだが、本人に嫌がられては仕方ない。

 化粧をした姉は見違えていて、一瞬身を震わせるほど綺麗だった。不埒なやからが出て来ないか心配だ。

 歓迎会は学生だけというのはわかっているが、見守れるところまでは見守りたかった。

 

 鍵をかけないといけないのはわかっているが、また姉が戻って来ないかどうか気になってドアを見続けてしまう。

 時間が経ち、もうさすがに戻って来ないと諦めて前に出るも、もしかしたらまたあるかもと後ろにさがる。

 無駄な一進一退を続けた後に、ドアの鍵とチェーンロックをかけた。


(今から来てもいいというなら、スマホに連絡が来るだろう)


 可能性が低いことを思う。

 だがゼロじゃないと思ってしまうと、甘美な妄想は頭から離れなくなる。

 本間はスマホの着信音とバイブレーションを最大にすると、ポケットに入れた。姉から一報があったら絶対に見落とさない。

 そして、ソファーへと腰を下ろした。


(何も手につかない……)


 姉が家から出てからまだ一時間も経ってない。

 姉の入学式に行くつもりだったので、予定は何もいれていなかった。

 ただただ時間が過ぎていく。

 

 落ち着かず、部屋を一周り、二周り、三周りしてからソファーへ戻ってくる。

 スマホは鳴らない。


(何かしよう)


 何かしている間に姉から連絡が来るかもしれない。

 撮りためていた海外ドラマの続きを見ようと、テレビをつける。

 

(いや、勝手に続きを見たら、姉が残念がるかもしれない)


 本間は地上波にチャンネルを変える。クイズ番組をしていた。


「……」


 映像が目の前にあることは認識すれど、頭に入ってこない。

 姉の不在が気になる。いつもソファーの端に追いやられはするものの、テレビを見る時はほぼ一緒だった。

 ソファーの真ん中に座っていると、とても居心地が悪い。なにかしっくりこない。


 本間はヴィレヴァン、IKEA、ニトリ、海遊館のサメのぬいぐるみたちを一匹ずつソファーへ座らせた。

 ヒレがうまいぐあいにソファーのひじ掛けにかかる。

 そして、本間自身はソファーの隅に座った。

 多少圧迫感はあるが、落ち着く。

 サメはトモダチ。 



 ぼーっとしていると、ピンポンとスマホが鳴った。期待してはいけないと思いつつ、いそいそとスマホのロック画面を解除する。


『ひま?』


 都道からのメッセージだった。

 八つ当たりをしそうになったが、『ひまじゃない』と返信してスマホをポケットに戻す。することがないわけではない。立派な『待機』というすることがある。

 とはいえ、手持ちぶさたなのでパズル雑誌を部屋から取り出し、無心で解いていく。

 ピンポンとまた鳴る。

 今度こそ姉だろうか。着いたという連絡でもいい。薄目でそっと画面をのぞく。


『ひっま?』


 都道だ。スマホをぶん投げたくなる衝動を抑える。

 ポケットにスマホを入れようとした時に、また通知音がなる。


『夏美さんの入学式の最中に』

『既読になるということは』

『家に置いてけぼり』

『かわいそうwww』


 イラっとして、ちゃぶ台返ししているスタンプを送る。サメが大笑いしているスタンプが送られてくる。

 十分ほどスタンプだけの応酬が続いた。


 

 昼過ぎたものの、姉からの連絡は来ない。

 遅めの昼食をつくることにする。

 スパゲッティを茹で、冷蔵庫の野菜とソーセージを炒め、トマトケチャップと合わせれば簡単なナポリタンができる。 

 トマトケチャップの香ばしいにおいがするまで炒め、コンソメを入れるのが好みだ。

 皿に盛り付けたナポリタンとフォークをテーブルへ運んだ。


「いただきます」


 手を合わせてから、ナポリタンをフォークに巻き付け口に運ぶ。

 味付けはケチャップとコンソメだけだが、うまい。茹で時間も少し長くしたので、もっちりとした食感。

 だが――。


「……」


 なにか足りないような気がして、フォークを置く。テーブルがいつもより広く感じて、寂しい。

 本間はソファーのサメを一匹づつ、テーブルに着席させた。

 四人用テーブルに三匹のサメ。

 始めからそうであったかのように、ふてぶてしく堂々とサメがいる。

 あまりの違和感のなさに、サメの前にカップを出し、コーヒーを入れる。いつもの癖で二人分をコーヒーメーカーでつくってしまっていたのだ。

 

「いただきます」

 


 そして、食べ終わった後に我に返る。

 椅子に座ったサメ三匹に囲まれた構図。一匹はヒレの先にコーヒーカップを抱えている。それを作り上げたのは自分。


(重症だ)


 本間は頭を抱えてテーブルに沈んだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ