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みつばち

作者: 里山 根子君

スミレは、つい三日前に、成虫ななったばかりの、ミツバチです。

 この時期は、レンゲにサクラ、ナノハナなどの、ミツバチの好きな花がたくさん咲いています。

 スミレは、年上のミツバチの後をついて、あちらの花、こちらの花と、ミツをせっせと集めては、そのお礼に、花に花粉をつけてあげていました。

 年上のミツバチは、花を見つけて帰ると、八の字ダンスを踊って、ほかの仲間たちに、花のある方向を教えるのです。

 スミレは、ダンスを見ただけでは、花のある方向がわからないので、年上のミツバチの後について、花のあるところへ向かうのでした。

 五月になると、リンゴにアカシヤなど、たくさんの花が咲いて、ミツバチたちは、より忙しくなりました。

 そしてスミレは、そのころになると、八の字ダンスは踊れないけれど、年上のミツバチたちのダンスを見て、花のある方向がわかるようになりました。

 スミレたちの後にも、新しいミツバチたちが成虫になって、仲間がどんどんふえました。

 アカシヤの花の咲くころ成虫になった、イチゴは、スミレに連れていってもらっては、 花のミツをいただいて、お礼に花に花粉をつけてあげて、せっせとはたらきました。

 アカシヤの次は、クリにトチと、花はだんだんと少なくなりましたが、おいしいミツが獲れました。

 けれども暑い夏も過ぎて、九月になると花の数が、すっかり少なくなってしまいました。

 八月の終わりごろ成虫になったカリンは、やはりスミレとイチゴに連れられて、まとまった花がないので、あっちの花、こっちの花と、ミツを集めて飛びまわっていました。

 そのころになると、スミレは花のあるところを教える八の字ダンスが踊れるようになって、イチゴは、そのダンスを見て、花のある方向を知ることができるようになっていました。

 ある日の夕方は、夕焼けがとてもきれでした。

 その、夕焼けを見ていたスミレが、明日は、いつもより遠いところまで、花を探しに行ってみようと思いました。

 よく朝スミレは、まだ暗いうちに巣を飛び出しました。

 空気が湿って、ひんやりしているので、とても飛びにくかったけれど、スミレは、夢中で東に飛びました。 

 山を三つ超えたときです。はるか東の山から、朝日がのぼってきました。

スミレは、暖かい朝日を体いっぱいに浴びると、やっと元気がでてきました。

 けれども、スミレと同じころ成虫になった仲間は、もうほとんど残っていませんでした。

 スミレは、山の峰の陽だまりで少し休んでは、また、東へ向かいました。

 すると、急に目の前がひらけて、こがね色の田んぼが、ジュウタンのように広がっていました。

 広い田んぼの中に、鮮やかな緑色の畑があちこちにありました。

 スミレは、吸い込まれるように、その緑色の畑に向かって、飛んで行きました。

 そこは、広いカボチャの畑で、黄色い大きな花がいくつも咲いていました。

 カボチャの花は、甘くておいしいミツをたくさん持っていました。

 スミレは、大急ぎで、巣のある西に向かって飛び立ちました。

 けれども、スミレは、夜が明ける前から飛び続けて、くたくたに疲れていました。

 それでも、スミレは、来たときよりもスピードを上げて、必死で巣に向かったのです。

 何度も気を失って、地面に落ちそうになったのですが、いつもの見なれた景色が見えてくると、いちもくさんに巣に飛びこみました。

 イチゴとカリンも巣の中にいました。

 スミレは、最後の力をふりしぼるように、みんなの前で、八の字ダンスを踊りました。

 三回目のダンスを踊り終わると、スミレは、全身の力がぬけて、巣から落ちてしまいました。

 地面にたたきつけられたスミレの周りを、イチゴとカリンにたくさんの仲間たちが、心配そうに囲んでいました。

 するとスミレは、みんなに「早く行きなさい」と大きな声でいうと、そのまま動かなくなってしまいました。

 泣いているひまはない、スミレに言われたとおり、仲間たちはいっせいに、東に向かって飛んで行きました。

 いくつも山を越えると、スミレが教えてくれたとおり、黄色いジュウタンのような田んぼの中に、緑色のカボチャの畑があって、数えきれないほど黄色い大きな花が咲いていました。仲間たちは、大急ぎでミツを集め始めました。

 みんなが夢中でミツを集めていると、時々大きなハチが飛んでいるのが見えました。それは、アシナガバチでした。

 仲間たちが、ミツをいただいてそろそろ帰ろうとしたそのとき、カボチャの花から飛び出したカリンは近くにいたアシナガバチに気づかずに、思いきりぶつかってしまいました。

 攻撃されたと思ったアシナガバチは、カリンめがけてとびつこうとしたそのとき、イチゴがアシナガバチにとびついて、足に噛みつきました。

 イチゴも首を噛みつかれて、地面に落ちてしまいました。アシナガバチは、空高く飛んで逃げて行きました。

 カリンが、イチゴの近くまで行きました。

 イチゴは、息をするのもやっとだったのですが、最後の力をふりしぼって、「早く帰りなさい」とだけ言って、二度と動かなくなってしまいました。

 カリンは、イチゴの上を三回まわると、言われたとおり、空高く飛び西の方角に思いきり飛んで行きました。

 勇敢なミツバチたちのおかげで、巣にはたくさんのハチミツが集まりました。

 カリンはあくる日、明るくなる前に巣を飛びたって、東に向かいました。

 その日は、ひどく寒い朝でした。カリンは羽も傷ついて、体力も落ちていました。

 二つ目の山を越えると、突然、霧がたちこめて、辺りが見えなくなってしまいました。

 カリンの羽は湿って、体も冷えて、高い赤松の葉の上に落ちてしまいました。このときカリンは、高いところから落ちていく自分の姿を見ていたのです。

 何と、不思議ことだろうか、カリンのまわりには、スミレにイチゴ、そして、先に死んでしまったはずの仲間たちがたくさん集まっていたのです。

 そしてここでは、ミツを集める必要はなくて、いつもきれいな花がたくさん咲いていました。

 カリンは、体が冷えて力尽きて飛べなくなったとき、自分は死んでしまったのだとばかり思っていたけれど、けしてそうではなくて、生まれてくる前の世界に戻っただけでした。

 そしてカリンは、毎日大好きなスミレとイチゴとほかの仲間たちと、楽しく遊ぶことができました。

 

 


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