詩ちゃんの恋
「虐め? ナイナイ、そんなの私が許さない」
「そうなのですか?」
「うんうん」
翌日学校で詩ちゃんに話しかけた。
昨日結構喋ってくれたので行けると踏んだらあっさり落ちた。
詩ちゃんが仲間になった、タタタタタタターンと頭の中でお兄ちゃんのやっていたゲームの音が鳴る。
「それで、それで、詩ちゃんの好きな人ってどんな人なの?」
「え! 何々?」
「きゃあああ、いるの、誰々?!」
私と詩ちゃんが話しているのを友達が聞き耳を立てていた。
「ふ、ふぇええええ」
詩ちゃんが周りを見回しビビっていた。
しかし……本当中身は完全に小学生だよなあ、この娘……容姿とのギャップが凄すぎる……中学生となんて……大丈夫かなあ?
恋愛マスターの私がこの娘を導かないと……とは言え私も恋愛ってした事無い……ただ耳年増なだけだけどねえ……。
お兄ちゃんの持っている数々のエッチな本により私は知識だけは誰よりも豊富だった。その為か、皆から恋愛相談をよくされていた。
それでさらに知識が増え、今や私は恋愛マスターとしてクラスに君臨していた。
皆が注目している中、少しでもヒントがあればと思ったのか詩ちゃんが運命の人の事を喋り始めた。
「夏休み、引っ越して来たばかりの時に声をかけられたのです……見た瞬間、あ、この人だ……って思ったのです」
「この人?」
「はい、グランマが言ってた運命の人の事です」
「見ただけでわかるの?」
「そうです、あ、でもその後公園で握手したです、そしたらビリビリって電気が走ったです」
「静電気じゃない?」
「ち、違うです!!」
詩ちゃんは椅子から立ち上がり向きになってそう否定した。
身体が大きいので怒り方にも迫力が……なぜこれで虐められるって思ったのかなあ?
「ごめんごめん、それでなんで探す事になったの? 連絡先交換しなかったの?」
「交換しようって言われたです、でも私スマホ持って無いから……来週またここで会いましょうって……」
「来なかったの?」
「違います……私が行けなかった……です」
そう言うと詩ちゃんは悲しそうな表情に変わった……。
私はその先を聞こうとしたが……昼休み終了のチャイムがなってしまう。
「ねえ詩ちゃん、帰りその公園に行こう、何かヒントがあるかも知れないし」
「……はい……です」
そして放課後私は詩ちゃんと二人でその公園に向かった。
ちなみに既にうちのクラスの女子達は詩ちゃんの運命の人に夢中になっている。
つい調子に乗って恋愛マスターの私が二人をくっ付けると宣言してしまった。
「それで、なんで行けなかったの?」
公園に向かう道すがら、詩ちゃんに昼休みの続きを聞く。
すると詩ちゃんはまた暗い顔になった……。
「グランマが倒れてしまったです」
「そうなんだ……」
「なんとか手術で無事だったです……だから私一人で帰ろうとして止められましたです」
「親御さんに?」
小学生とは言え6年生なんだから新幹線にでも乗れば全国どこからでも帰れるでしょう? 過保護かな?
「違います……空港の人にです」
「空港?」
「パスポートが無いと駄目って言われたです」
「まさかの海外! お、お婆さん何処の国の人?」
「グランマはフランス人と日本人のハーフです」
「まさかのおフランス!」
「はいです……パスポートが無いと乗せられないと言われたです」
「いや、入国したんだから持ってたでしょ」
「お母さんがいつも持ってたので……黙って空港に言ったから……」
いや、えっと……な、なんかちょっとこの娘……天然?
「お母さんが直ぐに帰れない程お婆さんが大変だったってことか……」
「はい……えっと……チンチンこうそくって言ってましたです」
「…………は?」
「チンチンこうそくって」
「心筋梗塞じゃない?」
「あ、そうです、それです」
「…………」
なんか私……ヤバいくらいの子供に関わってしまったかも知れない……。
詩ちゃんと公園に向かいながらこれからどうしようと頭を抱えた。
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