誘いを聞く
言葉にできなかった物を
二人だけに分かるように
言葉にした時
誰にも聞き取れない物が生まれる
鼓膜で聞かない音は
人間が使える音波に近い
その場は
何事も無かったかのように流れ
馬鹿話で盛り上がっている
さっきの事は
その場に確かにあったのに
聞こえないふりでもしているのか
疑問に思いながら見回しているが
そうでは無いようだ
それに気づいたもう一人は
その様子を見ながら
馬鹿話に笑っているように装い
優しく笑っていた
「またな」という声で
散り散りとなり
二次会派の人間が
スマートフォンを大勢で覗き込む
光景として一歩引いて見ながら
ある程度でそれをやめて
近くのコンビニへと歩いて行く
店内の雑誌コーナーで
興味が無さそうにページを捲る
もう一人が居た
さっきの事柄が事実であって
空想ではないことが
現実になってやってくる
店内へ入り
もう一人の後ろを通り過ぎ
週間少年誌の前で
それを手に取り
読まない読み方でページを捲る
雑誌を置く音が聞こえたから
同じように置くと
「まだ飲めるよね?」
少しだけ不満そうな声を
鼓膜で聞いた
近くにある
もう一人のアパートへ
二人は両手にビニール袋を持ち
移動した
鍵の音と分かっている匂い
もう一人には知らない匂い
芳香剤を使っても消えない
生き物としての人間の匂い
テーブルの上にビニール袋を置いて
手分けして冷蔵庫に入れる
おつまみ、ゴミ入れ、食器棚
グラスに500ml缶ビール
もう一人が買い物カゴに入れた
あの箱は何だったんだろう
疑問に思いながら
テーブルの上が
数時間前の居酒屋と同じになる
二人で乾杯するとテレビがついた
バラエティ番組であったが
何かを診断する内容であった
二人で飲みながら
質問に答えていき
診断結果に二人で笑う
いつの間にか
テーブルの90度を
二人の身体で作っている
冷たいのか、温かいのか
張り付くのか、分からない
半袖での接触は
離れることを躊躇する
諦めと期待と打ち上げ花火
分からないことにして
知らないことにして
少しだけ甘い物として食べたい