エピローグ
白い半月が、海上に浮いていた。
舳先に似た細い岩場に腰掛けると、俺は濃紺の海を眺めた。
「……終わったよ。賢太」
4年前、最愛の恋人が命を絶った。
『たかが3年だ。あっという間だから』
彼は、俺と一緒に渡米する費用を稼ぐのだ、と五龍製薬のアルバイトに応募した。
太陽が似合う健康的な男だった。なのに、亀龍島から戻った彼は別人のようにやつれて、精神を病んでいた。左肩には『R』の傷痕があり、訳を訊いてもただ泣くばかりだった。そして、ある冬の朝――始発電車に身を投げた……。
風が吹き抜ける。夜の終わりが近いのか。
天空には、弱い月明かりを逃れた星々が貼り付いている。賢太に教わった星座が幾つか見えたが、すぐに滲んで流れた。
単調な波音に包まれながら、数時間を過ごした。
空の色が変わる。月は消え、星が薄らぎ、藍と青の中間、深くて鮮やかな静寂の色が世界を満たす。
俺は、ゆっくりと立ち上がる。西の端が微かに白み始めている。穢された屍を晒したくはない。
「賢太、待たせてごめん」
夜から朝へと移ろう一瞬。清浄な空気を胸一杯に吸い込んで、空と海が溶け合う青い世界に飛び込んだ。
【了】
拙作をご高覧いただき、ありがとうございます。
このお話は、他サイトの投稿イベントに参加しております。
テーマが「青」ということで……
青……青……ブルー……
と、呪文のように唱えていたところ、不意に
『ブルータス、お前もか』
という、かの英雄が口にしたと(一説には、シェイクスピアが後年創作したとも)言われる台詞が浮かんだんですね。
そんな訳で、冒頭のレッドの台詞になりました。
最初は、ヒーロー戦隊の中の人間関係にしようかと思ったのですが、以前拙作でヒーロー戦隊(ショーの中の人)を扱ったので、ちょっと変化球にしてみました。
そうすると、互いを色で呼び合う必然性や、崖のある場所という舞台設定が必要になり、「某企業が所有する、外界から隔絶された孤島」となりました。
(ここからネタバレ含みますが)
横暴なレッドを自殺に追い込む作戦と見せかけて、グリーンは完全犯罪を企てます。
スマホに残ったデータに加え、監視カメラの画像から、犯人をブルーに被せる計画だったのですが――。
基地内の遺体と、データ・画像を第三者が見た時、殺人か集団自殺か、判らない惨劇が残りました。
拙いですが、巨匠クリスティの某作品の系譜の末席に忍び込めれば……などと図々しくも願う次第です。
とにもかくにも、8000字制限の中でしたので、情景や台詞を限界まで削りました。私の力量不足で、説明の足りない感は否めません。
ブルーこと颯真(一応、設定上は「青山颯真」と言います)が抱える秘密については、エピローグで明かされますが、もう少し伏線が必要だったかも知れません。
まだまだ反省点はありますが、短期間で着手した(更に、中断を余儀なくされた)割には、何とか文字制限内で書き上げることができて良かったです。
あとがきの最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、別のお話でご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。
2018.9.9.
砂たこ 拝
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追伸
このお話創作中に、胆振東部地震が発生しました。
私自身、創作が中断する事態になりましたが、幸い被害は少なく、お陰様で完成させることができました。
現在も、被災されている方々が多数いらっしゃいます。
被害に遭われた皆様にお見舞いを申し上げると共に、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。