お昼休みは屋上で
私は昼休みによく屋上でお昼を食べる。此処はほとんどだれも来ない、いわゆる穴場スポットと言うやつだ。
ただ一人を除けば…だが、
「やっぱり居た」
私が屋上のドアを開けると、髪で目が隠れてしまっている男の子がこっちを向く。
「君島さん」
私の名前を呼んだ彼は、何事もなかったように元の方向へ向き直る。
私はため息をつくと、彼の元へと歩いていく。
「よ、山田」
彼の名前を呼びながら、私が彼の横に腰を掛けると、彼は少し距離を開ける。
「ここで飯、食っていいか?」
私がパンを右手にそう聞くと、彼は無言のまま頷いて、鞄をあさり始めた。
「ん、ありがと」
許可をもらうと、私はパンの封を開けて、口へと運ぶ。
私がパンを食べていると、彼は弁当箱を取り出し、蓋を開ける。
「…いただきます」
小さな声で言ったその言葉を聞き逃さなかった私は、彼の弁当の中身に目を移す。
そこには、栄養バランスも考えられてるんだろう中身が、綺麗に並べられていた。
「いつもながら、本当に愛のこもった弁当だよな」
私は彼に話し掛けるが、返事もなくお弁当を食べ始める。
「それ、山田の母さんが作ってるのか?」
私が彼に少し近づいて質問すると、彼は首を横に振る。
「まさか、山田が作ってるのか?」
今度は首を縦に振る。
「すげーな、私なんて卵焼きもろくに作れねーのによ」
私の話を聞いてか、彼の口元が少し緩んだ気がした。
これを機に、と、私は恐る恐る口を開く。
「な、なあちょっと、ちょっとだけもらってもいいか?」
彼が少しの間、硬直するとゆっくり首を縦に振る。
彼がお弁当の蓋を取り出して、装うとしてくれる。
「ちょっと待って、私、箸持ってない」
その言葉に私と彼は手を止める。少しして、彼が諦めようとして、箸を口元に持っていこうとすると、とっさに私は彼の手をつかむ。
「山田、その、ごめん!」
私は我慢出来ずに、彼が持っている箸に向かって口をもって行き、そのまま食べる。
「う、うっま!」
その声も聞こえないのか、山田は硬直して、私の顔を見る。
「ご、ごめんな?」
私も自分の顔が赤くなっているのに気づき、目を背ける。
しばらく無言が続いて、私は立ち上がった。
「なんか、ほんとごめんな。でも美味しかったよ。ありがと」
その言葉でやっと我に返ったのか、彼の口が動く。
「あ、あの。別に嫌とかじゃなかったから。その…」
彼が言葉に詰まった時、不意に風が吹き、彼の真っ赤な顔が見えた。
「うん。やっぱりお前、髪切った方がいいよ。」
彼が髪を整える姿に笑いながら、一言だけ残して、私は教室に帰っていく。
「また明日な」
「う、うん。また明日」