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駅前で

 エリナが降り立った北・ヨークタウン駅。


 街の最北端に位置したターミナル駅で、コンクリート製の巨大な駅舎は、街の表玄関として威厳に満ちていた。やたらに広い駅前広場。その中央には、巨大な日時計があり、その周りにはいろいろな花が植えられていた。

 そして、肝心な市内へ便はいいようで、改札口を出ると左手に路面電車の電停が、右手にはバスターミナルが備わっている。


 初夏の昼下がり……列車からの客が各々で散らばってしまうと、駅前は静かなものだ。

 先ほど列車の中で話しかけたレジスターも、挨拶(あいさつ)をそこそこに交わすと路面電車に乗っていってしまった。


〈遅いな……〉


 彼女は一人、駅の入り口の巨大な柱にもたれかかり(たたず)んでいた。

 待ち人が一向に現れない……。

 駅の時計を確認したが、既に約束の時間から三〇分近くも()っている。

 今日は、太陽はぽかぽかと頭の上。目を閉じると、少し眠たくなってくる。


〈何か飲んで待っていようかな……〉


 横目でちらりと見たのは、駅前広場の片隅を利用したオープンカフェだ。


 カラフルなパラソルが幾つも並んでいる。

 待ち合わせ客を(ねら)って、営業しているのだろう。今も数人の客が、会話を楽しんでいたり、新聞を読んでいたりと思い思いに時間をつぶしている。


 そこで待っていても良かったのだが、彼女は一人わざと目立つように、駅前にいることにした。

 何せ、手紙のやり取りのみであったので、待ち人とは写真でしか――それも二〇年ほど前の――顔を見たことがなかったのだ。

 だから、できるだけ目立つように立っていたかった。

 とはいっても、随分長い時間、立っているのはさすがにツラい。


〈やっぱりあそこで……あッ!〉


 その時、ブロロロロロ~~と、エンジン音を(とどろ)かせながら一台のサイドカーが現れた。

 そのサイドカーは、エリナとは少し離れた場所に停車すると、操縦者が下りる。

 そして、周りを確認し始めた。様子からして、どうやら誰かを迎えに来たようだ。


〈グラウ・エルル族? ひょっとして、あの人かな?〉


 ゴーグルを上げ、顔を覆っていたマフラーを下ろしたのは女性であった。


 グラウ・エルル族。褐色の肌に鋭く尖った耳が特徴の種族だ。

 そして、美男美女ぞろいだと言われるぐらいで、その女性もエリナが見ても奇麗に感じる。神秘的な緑色の瞳。金属のような光沢のある褐色の肌。

 ちなみに、エリナの種族は、人類人口の二割を占めているヒューリアン族と呼ばれているモノ。(ほか)の種族と区別できるとしたら、耳が丸いことぐらいだ。


〈タイプ・ゼロの人かな? たしか、ケイト……〉


 一瞬、その女性は待ちくたびれているエリナを見た。

 彼女は、すかさず微笑み返す。

 ようやく来た、と安堵感に浸ったが、その女性は軽蔑(けいべつ)するモノを見るかのごとく顔をしかめると、用がないとばかりに、さっさとサイドカーに(またが)ると走り去っていった。


「なによ、あの態度。世界一、寛大な種族じゃないの? グラウ・エルル族って……」


 さすがに先ほどの女性の態度には腹が立つ。だが、腹を立てたところで、エリナの状況が変わることはない。

 さすがに待つのも疲れてきた。


〈やっぱり、自分で向かおう〉


 彼女はふと足下に置かれた旅行カバンから、一冊の手帳を取り出した。


「タイプ・ゼロの行き先は……と、あった。D地区四二番街六番B……」


 彼女は取り出した手帳をペラペラとめくり、目的のページを見つける。

 そこには簡単な街の地図と、目的地『タイプ・ゼロ』と言う場所の印が付いていた。


「どうやっていくんだろう……」


 ふと周りを見回す。

 目に()まったのは、駅の左手にある路面電車の入り口だ。

 たしか、他の乗客を見ていたが、大半の人間がその『路面電車』に乗り込んでいくのを目にしていた。

 これに乗ればいいのだ、そう考えたが……どう乗るのか分からない。

 何せ初めて見る乗り物だ。そして、乗ってどこに行けばいいのか分からなかった。

 再び、手にした手帳の中から、情報を拾おうとする。

 どうやらこの手帳(アンチヨコ)は、エリナのためにいろいろな知識を記述してあるようだ。だが、『路面電車』に関しては素っ気ないモノだった。


「えっと、路面電車……『迷うのでわたしは使わない』って、何これ? 使えないじゃないの」


 そして、バスのところを読んでも、『複雑でよく分からない』と同じようなことが書かれている。


「もう……仕方がないわ。こう言うときは、人に聞くのが一番か……」


 ペラペラとページをめくると、『人に道を尋ねるときの注意事項』と書かれた場所があった。

 そこにはこんなことが書かれていた。


 街で人に道を尋ねるときは、種族を注意すること。

 余計なことばかり言うホワイト・エリオン族は、あまり好ましくない。一方的であるため、自分がわかればそれでよい、と言った傾向がある。

 また、一見、冷静で親切そうなグラウ・エルル族にも注意が必要。彼らの冷静(れいせい)は、他の種族に対して無関心であることなので、相手にされない。

 無難に、ヒューリアン族を見つけて聞いた方がよい。


 と……。

 中に出てきたホワイト・エリオン族というのは、グラウ・エルル族の同系列の種族だ。同じように耳が長く尖っているが、肌は白く、美男美女が多い種族だ。あの列車の中であったトランジット=レジスターさんも後で考えれば、このホワイト・エリオン族だったのだろう。

 そして、路面電車の入り口にいた駅員らしい人物は、そのホワイト・エリオン族だ。


 エリナは一瞬迷ったが、仕方がなく、この駅員に行き方を聞いてみることにした。


「D地区四二番街? 桟橋屋に何か用かね」


 大きなビスマルク髭を蓄えた初老の駅員が、鼻息も荒く聞き返してくる。

 初老と言っても、かなりの歳なのだろう。何せ、ホワイト・エリオン族もグラウ・エルル族も、ヒューリアン族に比べると実に三倍近い平均寿命があるのだ。


「えっと、働きに……」

「桟橋屋でかね? 雑用係かね、それとも、まさか事務職ではあるまい」


 見下した態度で、彼女を見る。

 その言葉の裏には、ヒューリアン族の女。しかも、子供にそんなことができるわけがない、と思っているからだ。このホワイト・エリオン族は、人一倍プライドも高く気性は激しい傾向にある。そして、ヒューリアン族を下等な種族と見ているのだ。


「いえ、わたしは飛行機乗りに……」

「何ッ! 貴様がホーネットだと!?」

 これでもかとばかりに、目を開けて駅員は驚く。

「ヒューリアン族がッ! ましてや、女が勤まるはずがない」 

「何で、そんなに驚くんですか!

 わたしが、飛行機乗りになるのが何か悪いことでもあるんですか?」


 さすがに頭に来る。彼女は声を上げた。

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