空中魚雷
翌朝、桟橋屋タイプ・ゼロでの準備が完了していた。
後はレジスターの到着を待つだけだ。
最終的には彼が持ってくるモノがなければ、作戦が始まらない。
ケイトが上空を見れば、すでに先遣隊らしいハンマー型ドラグーンが現れており、ホーネットが空中戦を行っている。
「来たわね」
エリナとリジーが店から現れた。
すでに昨晩のわだかまりは無くなっている様子だ。
結局、ケイトはクジを操作して、リジーを引かせようとしたのだが、後で彼女に説得された。
「もうドラグーンが来ているんですね」
空を見上げながら、エリナが心配そうにしている。
「大丈夫?」
ケイトはいざドラグーンを目の当たりにして、エリナが感情のコントロールがきかなくなるのでは無いか、と心配していた。
「大丈夫です。電波を止めさえすれば、ヨークタウンを守れるんですよね」
笑顔で彼女は応える。
「アタシがしっかり見張っていますから、大丈夫です」
続けてリジーが応えた。
〈この二人なら大丈夫そうね〉
心配はなさそうだ、とケイトは安心をする。少し自分が心配性になっていたのかもしれない。
そして、お待ちかねのモノが到着した。
「お待たせしました。道にドラグーンの死体が落ちていたモノで、回り道していました」
と、レジスターがトラックを引き連れてやってきた。
「まだ正式名称はありません。ですが『空中魚雷』と呼んでいます」
運ばれていたのは円筒形の物体だ。中央に小さな翼。後部に十字型に小さな稼働翼が付いている。固形燃料のロケットモーターで、目標に向かってまっすぐ突き進むらしい。対象物にわずかな電波を発射して、反射してくる電波が強くなると信管――いわゆる近接信管――が作動して内部の爆弾が破裂するとのこと。
何でこんなモノを持ってきたかと言えば、アンテナには機銃照射の効果が薄いからだ。
細い棒で組み上がったアンテナは、機銃の弾が隙間を通ってしまいかねない。機銃の炸裂弾も着弾しなければ効果が無い。
そうなると、何を持ってアンテナを破壊するかは限られてくる。
爆弾を落とすか、と考えたが却下となった。
さすがに爆弾とドラグーンの攻撃とは区別が付くし、爆弾を落としてラジオ局に損害を与えた場合、人的被害は無視できない。
アンテナのみ破壊するモノが無いか、とケイトはレジスターと相談したところ、これを運んできた。
まだ試作段階の『空中魚雷』……後の世で言うところの、空対地ミサイルだ。
「機体の接続は、専用の治具で接続します。
投下ボタンと連動して切り離しされますと、ロケットモーターが点火される仕組みです」
と、レジスターが連れてきた技術士官が説明した。
彼だけではない。他に数名、軍関係者らしい人物を連れてきている。
運ばれてきたのは二本。トラックから下ろされ、台車に乗せられようとしている。
たしか、ケイトが頼んだのは一本だったのでは、と思っているとレジスターが続ける。
「予備がある方がいいでしょう」
「いつローナから頼まれた?」
レジスターは、その問いに聞こえないふりをした。
「さあ、君たち。整備の女神様だ。彼女の腕前を見るまたとないチャンスだよ」
と、連れてきた軍関係者共々、整備棟へと移動を開始した。
接続作業はそれほど時間はかからなかった。だが、ぶっつけ本番だ。
目標のラジオ局のアンテナは市内に立っている。
それを破壊するのは、アルビオンの役目だ。
彼は朝からドリーアン族の習慣である瞑想をしていた。戦の始まりでは、特に高ぶる精神を落ち着かせる、という目的でよく行われている。
あの『空中魚雷』は、詳細な説明を聞いてみれば、一〇秒はまっすぐ飛ばなければならないらしい。
その間、じっとまっすぐ飛ぶなど、ドラクーンがいる中では、自殺行為だ。
まあそのために、彼を守るようにテリーを駆り出し、彼の戦闘機でアルの機体を護衛する。
それが、彼女の立てた最初の計画であった。だが、アルとテリーから反対が上がった。
アルは「護衛などいらない」と言うし、テリーはレジスターのことを警戒して参加したくない、と言う――彼は街のどこかにいるようだが、判らない。そこに、エリナ達の組も入ることになって、完全にシナリオが狂ってしまった。
とりあえず、アルは問題ないだろう。
問題はやはりエリナ達だ。彼女たちの護衛なら、テリーも引き受けてくれるだろう。
そして、予備の『空中魚雷』を積むとして、どう立ち回らせるか……。
混乱に乗じてラジオ局のアンテナを破壊するのは、犯罪まがりなことだ。
そんなことをさせるのは、今更ながら気が引ける。かといって、ドラグーンのまっただ中に突入させるのも……。
「……準備できたわよ」
いろいろと考えているうちに、ローナが作戦の準備をしてくれたようだ。
店内に無線電話の予備を据え置いてくれた。これで作戦中の飛行機とのやりとりが出来る。
レジスターの方は、自分の店に臨時の司令部を作ったらしい。
てっきり桟橋屋タイプ・ゼロを、接収なりするかと思ったが「民と官はちゃんと分けるべきだ」とそちらに移動した。
向こうとは電話でやりとり出来るので問題ない。
それに該当のラジオ局が電波を出しているかどうかは、ラジオを付ければ判ることだ。
手始めに、テリーと連絡を取る。
『今、忙しいんだが』
ヘッドフォン越しの彼の声は荒れている。
こちらの要望を断って、どうやらドラグーンとの空中戦の真っ最中のようだ。
「忙しいところごめんなさいね。ちょっと頼みたいことがあるのよ」
ちょっと皮肉っぽく言ってみる。
『手短に!』
電波の受信が悪いのか雑音がひどい。
それに無線の向こうでは、機銃の音がけたたましく聞こえてくる。
「今から、こちらは離陸するわ。護衛を頼みたいのよ」
『兄貴は断っただろ!』
「アルじゃないわ。エリナよ」
『な……って、……聞こえ……』
ますます電波が悪くなる。
すぐさまローナが外のアンテナを見に行ったのだが、改善されない。整備の女神でも、不得意なことがある。
「エリナの護衛を頼んだわよッ!」
ありったけの声でマイクに叫んでみた。聞こえただろうか?
とにかく、二機を離水させることにした。
まず、アルビオンの機体。次いでエリナの機体。
ほぼ師弟同士なので、それぞれ別の機体だが動きが同じに見える。
アルには離水後すぐにラジオ局に向かうように指示している。エリナ達は上空待機だ。
部屋の中にいては状況がつかめない。
ケイトは店の外に出た。そして、ラジオ局がある方角を見る。
アルの機体が見えた。
下から見るのと、上から見るのとでは状況が違うので、一度アンテナをやり過ごし旋回、陸側から海に向かうようにして目標に定める。
街の上空は、ドラグーンはあまりいない。
『発射する!』
急に無線が繋がった。アルからの報告だ。
空を見上げると、『空中魚雷』のロケットモーターの火が見える。
そして……。
「命中した!」
ケイトは、つい声を上げてしまった。
見事に命中し爆発。
アンテナの破壊が成功した。
「これで……」
電波が止まったはずだ。チラリとラジオを見た。何も言っていない。
成功したようだが、何かおかしい。
ずっとバリバリと雑音をたれ流していたヘッドフォンからも音がしない。
気がつくと、アンテナを確認に行っていたローナが無線をいじっている。
「……停電しているわ」
彼女は確認してぼそりと呟いた。
第3章 狂ったシナリオ【終】




