くじ引き
エリナ達は帰ってきた。
リジーの計画した飛行ルートで、往復六日間のところを、三日で飛んで見せた。まあ、ヨークタウンに着いたのは、すでに日が落ちており完全な規定違反だったのだが……バトル・オブ・ドラグーンの特例で罰金とまでは行かなかったようだ。
「あなた達……」
帰ってきた二人に、ケイトはそれ以上言わなかった。
その顔は、怒っているような、喜んでいるような……エリナには表情が読み取れなかった。だが、見直してみると、グラウ・エルル族の得意の無表情になっている。
「予備は必要よ」
ローナが横から入ってきた。
それを聞いてか、ケイトは何も言わずに店に入って行ってしまった。
「ローナさん、ありがとうございます」
お礼をそこそこに、エリナはケイトの後を追った。一瞬、あの仏頂面が笑った気がする。
「ケイトさん。すみません!」
薄暗い店内に入り、彼女の後ろ姿を見て、最初に出た言葉は謝罪だった。
彼女が自分たちを逃がすために、お膳立てをしたことは、解っていた。だけれど、自分の気持ちに嘘はつけない。
自分たちの機体は戦闘用ではないし、まだ見習いのままだ。ドラグーンが倒せないまでも、何かさせてほしかった。だから、こうして戻ってきた。
「エリナも一番はじめは、あなたと同じぐらいの歳だったかしら……。
そういうところだけ、あなた達はよく似ているわ」
ふと、呟くようにケイトは話し始めた。そしてゆっくりと振り返った。
「これだけは守ってちょうだい。無茶はしないこと」
「そのことでお願いがあります!」
「リジーのことね」
「もしものことがあっても、わたしには悲しんでくれる人がいません。
でも、あの子には家族がいます。
まだ会ったことはないですが……。
その人達をわたしの所為で、悲しませるわけにはいかないと思います」
「あなたはそれでいいの?」
「……はい」
応えるのに躊躇してしまった。だけれど彼女、リジーはこれ以上巻き込んではいけない気がしていた。
「あなたはどうなの? リジー?」
エリナが振り返ると、彼女が立っていた。
「ここまで一緒にやってきたのに、アタシをのけ者にするつもりッ!」
「そんなことは……」
ない、と言いきれなかった。
リジーの表情は逆光でよく見えないが「裏切られた」と言っている。
「グラウ・エルル族では、話が纏まらないときは、多数決で決めるわ」
ふいにケイトは言い始める。
〈多数決……〉
だとすると、この場での多数決をとるとなれば、リジーを参加させないのに自分。そして、ケイトも賛同してくれるだろう。
反対は……リジーだけだろう。
「残念ながら、今のところ一対一ね」
「えッ! ケイトさんは……」
「わたしは保留よ」
てっきり、エリナは賛同してくれるモノと思っていたので、彼女の発言に驚いた。
そして……。
「多数決で決まらない場合は、クジで決めるのがグラウ・エルル族のルールよ」
と、机の引き出しからあるモノを取り出した。
それはコップのような感じのモノで、その中に何本も棒が刺さっている。そこから何本か抜き出し、残りを二本にした。
「伝統的なくじ引きで、一本だけ先端が赤くなっているわ。
その赤い方を引いたモノの意見に従うのが、ルールよ」
二本になったコップを振って、どこに先端が赤い棒なのか、判らないようにした。
ケイトは、最後にチラリとエリナを見る。
目で何かを合図しているようだ。だけれど、どう読み取っていいのか判らない。
先に取れ。それとも相手に先に取らせる。はたまた手前を取りなのか……。
「では、二人で同時に……」
エリナは、よく分からないまま、奥側の方に手を伸ばした。リジーは自分の手前の方……。
一斉に引き抜く。
リジーの引き抜いた棒の先端は……赤くはなかった。
「と言うわけで、リジー。判ったわね」
その時のリジーの顔は見たこともない軽蔑のまなざしだった。




