ケイトとローナ
「わたしに、どうしろって言うのよ」
ケイトはナイト少佐の電話を受け取る。
時刻も遅くグラウ・エルル族としては、眠りに入ろうとしていた矢先だった。
とにかく彼が言うには、上からの電波の停止が出来なかったらしい。
そして、ドラグーンの群れが現れたというのだ。現在の距離からして、接触は五日ごと思われること。そこで、ケイトに何とかしてほしいと……。つまり、海軍側のオリバー=スミス海軍中佐に、何とか取り付くってくれないかというのだ。
結局はお役所仕事だ。休暇中で対応できないなんてことが、と……。
彼女は予想はしていたが、最悪な状態には変わらない。
バトル・オブ・ドラグーンが発令されたということは重要だ。これの発令により、付近一帯の火器自由使用が認められる。
どうすべきか話をしながら、浮かび上がった作戦がある。
「損害その他諸々は、陸軍持ちでいいわね」
その辺は押さえておかねばならない。
作戦……それは、ドラグーンの採取の混乱に紛れて、ラジオ局のアンテナを破壊するのだ。
返答は「責任を持ちます」とのことだ。
電話の向こうで、他の電話のベルが鳴り続けている。どうやらドラグーン対策室の要員か少ないのか、対応に手が回っていないことを伝えて、ナイト少佐は電話を切る。
ケイトはため息をつきながら、電話を置いた。
そして、辺りを見回す。電気が落とされており、薄暗い店内。エリナが来て以来、久しぶりに店の中は散らかっていた。収穫感謝祭のパーティーを先ほどまでやっていたのだ。
エリナはリジーと、アルはテリーと、それぞれ今は外に出かけている。
きっと二組とも、祭りを楽しんでいるのだろう。勿論、先ほどまで行われていたパーティーでは、グラウ・エルル族の名にかけて心配事を悟られないように努めていた。
再び彼女は電話を手にした。
「交換手さん。J地区九番街のレジスター商会に繋いでくれない」
はい。と、向こうは答えた。呼び出し音が長い。
「ケイト……」
ふと気がつけば、目の前にローナが立っていた。先ほどのパーティー中も一人静かに飲んでいた。気がつけば、いなくなっていた彼女か再び現れた。
外から漏れてくる光が、彼女の白い美しい肌を照らしている。ほのかに赤いのはアルコールの所為かもしれない。
「聞いていた?」
彼女の手が、ケイトの頬をなでる。そして「うん」とだけ声を出した。
「……ごめんなさい。今日はダメよ」
その時、電話が繋がった。
『今度は何事ですか!』
嫌みったらしくレジスターの声が聞こえてきた。
「実は……」
話を始めようとしたとき、ふとローナを見た。だが、彼女は現れたときのように消えていた。
翌日、街は大混乱に落ちていた。
ドラグーンがやってくる。
混乱する理由はそれだけで十分だ。ヨークタウンから出る者と、入ってくる者。前者は逃げ出す市民。後者は応援に駆けつけるホーネット達だ。
受け入れる他の桟橋屋は足りないと、悲鳴を上げている。我がタイプ・ゼロも売り上げアップと行きたいところだが、ある理由で断っていた。
あふれた者はロングソード半島の南に補給船――海上に浮かぶ桟橋屋と思ってかまわない――が展開しているので、そこでドラグーンを待ち構えることとなっている。
陸軍も航空隊を派遣したらしいが、元々ヨークタウンにある飛行場は郊外に滑走路が一本しかない小さなモノだ。待機場所も猫の額ほどの大きさだ。受け入れられる量に限界があるだろう。ただ陸軍の建築部隊がヨークタウンには駐屯しているから、彼等が頑張って広げる話があるそうだが……土地を持っているエリオンの教会が、首を縦に振るのは来年かはたまた……。
しかし、電波が奴らを集めているという情報が欠けているのか、該当のラジオ局はずっと電波を垂れ流しにしている。
昨晩、ケイトは、エリナとリジーが帰ってくるのを待っていた。寝ているとばかり思われていたので、かなり驚かれたが……。とにかく、二人には知っていることをすべて話した。
そして、ある依頼をした。
急遽、レジスターに頼んだこと。
その一、アドミラル州フッドまでの輸送の仕事だ。
通常、ヨークタウンから目的地まで、片道三日かかる。単純計算で往復六日。
それだけあれば、彼女たちを避難させることが出来る。
そう、エリナとリジーを、ドラグーンの採取阻止に駆り出すわけにはいかない。
勿論、ケイトの話を聞いて、二人とも参加を希望した。
しかし、エリナは一年前に体験して元気そうにしているが、ふとした瞬間、感情のコントロールが出来なくなることがある。リジーは社長令嬢だ。自分ではそう扱われているのを嫌っているが、危険な目に遭わせる訳にはいかない。
二人が納得していないのは十分解っているが、桟橋屋のオーナーとして命令をした。
機体を準備させて、押し込む形で乗せた。
今は桟橋の上で暖機運転を終えようとしている。いつもならタクシーボートで規定の海域まで行かねばならないが、バトル・オブ・ドラグーン発令時の特権で、どこからでも飛べることとなっている――事故が起きた場合は、両者の責任になる。
「貴方も不服?」
隣にいるローナは、いつもにまして無口だ。
ひょっとして昨晩の、あれを断ったことが原因かもしれないと……チラリと思ったが、それほど自制が聞かない人では無いはずだ。
やはり、ケイトが二人の気持ちをくみ取ってやらないことに、不満があるのかもしれない。
二人の機体が水面を滑り、飛び立っていった。
最後までテリーが機体に張り付き、リジーと話していたのをちょっと気になりはしたが……。
「貴方も不服がある?」
桟橋の端まで行って、見送っていたテリーがこちらに戻ってきた。
そして、ケイトの顔を見るなりばつの悪そうな顔をする。
何か企んでいる証拠だ。
「エリナちゃんから伝言です。
『リジーちゃんは外してください』
だそうです」




