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発令

「クジラの鳴き声ですよ」

「クジラの鳴き声……なるほど、そうか!」


 海軍士官も解ってくれたようだ。

 理解できていないケイトには彼が説明した。


「クジラは、潜水艦乗りの話では歌を唄っているとか。つまり集合の合図は……」

「歌だと言うことです。ラジオ局が()()()()()()が、奴らの集合の合図と一致したのでしょう」


 そう偶然、と思いたい。

 そんなこと人為的にされては、安全が解るまですべての歌なりメロディー……いや「電波すべてを止めろ!」と言う話になりかねない。


 それこそ国内……いや世界中が混乱する。


 そして、処分に困ってポケットに入れていたチラシ。そこに載っている周波数は、今、自分たちが言っているドラグーンが使っているモノと一致している。


 ナイトは急いで電話に取り付いた。


「使ってもよろしいですか?」

 の問いに、ケイトは……。


「うちの経理はうるさいから長距離はダメよ」

「陸軍の専用回線を使います。それよりも大丈夫ですか?」


 ナイトはやはり癖なのか、盗聴の件を心配した。

 ケイトは「そちらに聞いてみて」と顎で指す。そちら……


「この時間のデータは、削除するように伝えます」

 海軍士官は応えた。


 やはり盗聴をしていたのか。海軍側も抜け目がないな、と感心しながら、この街の交換局につなぎ、最寄りの陸軍の施設に接続してもらった。この先は、しかるべき手順をとり、首都コンステレーションの陸軍本部へ、さらにドラグーン対策室に電話をつないでもらう。


「どちらにおいでですか? 回線の接続が、あまりうまくいっていないようですが……」

 電話に出たのは、あのグラウ・エルル族の補佐官だった。


「雑音が多いのはヨークタウンにいるからだ。

 それよりも、今から言うラジオ局の電波の送信を停止してもらうように、手続きをしてくれ。

 ヨークタウン・ニューラジオ。周波数は……」


 とにかく、今できることはラジオ局に電波を停止してもらうことだ。

 マナ・ニウムの濃度分布図からしたら、危険地帯と安全地帯のちょうど間にこの街がある。もしも奴らを集合させる『歌』が偶然にもかかったら、この街が襲われるかもしれない。

 ラジオ局に直接乗り込んで止めてもらう、というのも考えたが、門前払いを食らうだろう。まだ、電波が奴らの会話に使われていることは、一般市民には公表されていない。陸軍、海軍のごく一部の関係者が分かっているのみ、と考えていいだろう。下手をすると「陸軍を名乗る変出者がロビーで暴れている」と警察に突き出されかねない。

 面倒でも、電波停止の手続きを正式に取った方が確実だ。


「ヨークタウン・ニューラジオですね。善処します」


 善処します、という言葉に何か引っかかるモノを感じたが、どうせグラウ・エルル族の妙な言い回しだろう。


 すぐに戻ることを伝え、電話はそこで終わった。


「私はすぐに本部に戻ります」


 ナイトはここにいるよりも、本部にすぐ戻り、対策を考えなければと思った。


 まずは、集合の合図である『歌』を突き止めなければならない。

 ヒントはある。

 その周波数は前から使われていたと考えると、この最近――フランクリン島が襲われた前あたり――発表されたモノなのだろう。それを突き止めなければ……。


「帰る? 今から?」

 ケイトが珍しく心配している。


 何かあるのかと思えば、すでに時刻は夕刻と言っていい時間だ。

 民間機は規定により夜間飛行は禁止されている。今から準備をしてもらうとしても、飛び立てるようになるのは、日が落ちた頃だろう。だとすると、明日、朝一番に飛び立てばいいと考えたが、首都コンステレーションには経由地を含めると二日はかかる。


 では、列車はどうだ。


「収穫感謝祭の時期よ。列車の切符なんて取れないわ」


 各駅停車を乗り継げばと考えたが、いつ着くか分かったものではない。


 やはり、無難に明日の朝まで待って飛行機を出してもらうか……。しかし、収穫感謝祭の祭日に仕事をするホーネットを捕まえられるかどうか微妙だ。


「補助席でよろしければ、私がなんとかできますよ」

 海軍士官が名乗りを上げた。


「この時期、海軍は連絡将校用に長距離列車の席を確保しています。その者に頼んで、同室に入れてもらうことが出来ます。ただし補助席になってしまうかもしれませんが……」

「かまわない。コンステレーションにはいつ着く便ですか?」

「明後日の昼です」



 荷物をまとめ、ノルト・ヨークタウン駅まで、オリバー=スミス海軍中佐に送ってもらった。

 駅に先に着いていた海軍の連絡将校はホワイト・エリオン族だった。彼は、スミス海軍中佐の話に、最初難色を示していたが、命令という形で承諾をした。


「幸運を。少佐」

「いろいろと手間をかけさせました。中佐殿」


 別れ際にスミス海軍中佐に、お礼を言っていないことを思い出した。

 情報交渉がうまくいかないときの隠し球であったが、情報将校なら食らいつくかもしれない。


「ひとつ、お耳に入れたいことですが……。

 ローニング社との取引の件。調べると面白いモノが出ますよ」


 そう言うと、スミス海軍中佐は目を丸くして驚いていた。



 相部屋となったホワイト・エリオン族のいびきに悩まされながら、列車は首都コンステレーションに入った。

 到着時間は……言っていたのよりも大幅に遅れた。恐らく、収穫感謝祭のための臨時列車などの兼ね合いだろう。

 陸軍本部に出頭したときは夕刻になっていた。


「少佐殿」


 出迎えたのは、いつものグラウ・エルル族の補佐官だった。

 ねぎらいの言葉とか無いのか、と思っても彼等の習慣にはよほど親しい限りは、存在しない言葉だ。だが、今日の彼は違っている。珍しく疲れた表情を見せているのだ。

 そういえば、ドラグーン対策室内の人の数が少ない気がした。


「ラジオ局の電波停止の件ですか……」

 珍しく歯切れが悪い。


「止められたのかね?」

「残念ながら……」

「どう言うことだ。二日もあったのに!」

 旅の疲れもあったのか、つい大声を上げてしまった。


「担当官がこの収穫感謝祭で、休暇に入られたとのことです。

 そのために手続きが出来ておりません」

「電波のひとつやふたつ、担当官がいなくても止められよう」

「法律上それが出来なくなっています」


 たしかに、軍部に権利はなく、すべての電波の使用権利は連邦通信委員会という組織の管轄だ。権力が一点に集中しないように、法律で決められているのが裏目に出たか。


「では、連邦通信委員会に出向いて……」


 ナイトは上着などを着直して、帽子を取ろうとした。そこを補佐官は止める。


「連邦通信委員会は現在、収穫感謝祭で休暇中です」


 行っても無駄だと、ほのめかした。そして……。


「実は、少佐殿が出頭される寸前に入った情報です」


 電文を渡してきた。


『ドラグーンの大群、灰色の雲より現れる』


 出現時刻と場所が記載されていた。監視している艦艇からの情報らしい。向こうは不眠不休で働いているようだ。

 恐れていたことが、起きようとしている。

 ナイト少佐の推測が正しければ、狙われるのは……。


「エンタープライズ州ヨークタウンに『ドラグーン撃退作戦バトル・オブ・ドラグーン』の発令をお願いいたします」


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