表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

桟橋屋タイプ・ゼロ再び その2

「わたくし、エリザベス=シュトラッサーともうします」


 とにかく自分の名前とこの街に来た理由。大学のための下宿屋周りをしていることを説明した。その途中で道に迷ってここに来たと……。

 もちろん、テリーの後ろを付いて来たなど、口が裂けても言わない。


「大学生!?」


 二人とも、そこで二人はびっくりしてリジーを見た。

 どこかで体験した気がするが……もうなれている。だけど、気になるのは、説明している間、エリナという子が終始、ニタニタと笑っていたことだ。


「悪いが、オリバー=スミスという人は知らないねぇ」


 一応、話の中にでっち上げた下宿先の名前が出てきた。

 まだその設定が生きていたのか……リジー自身も半分忘れていたが、嘘を突き通さなければ、バレてしまうだろう。


「シュトラッサー? シュトラッサーってあの……」

 レジスターは別のことで引っかかったようだ。


「あッ」


「ルイス・ヴォート社のシュトラッサー氏かね」

 しかし、もっと別の隠していたことがバレるとは思わなかった。

「……ご存じなんですか?」

「ご存じも何も……」

 レジスターは含み笑いをした。だから、嫌だったのだ。


 その会社名を出たときに、嫌な予感がした。

 シュトラッサーなんて、北方の国ではありふれた名字だが、このコンスティテューション連邦では珍しい。とはいっても、名字がすぐに『ルイス・ヴォート社』と直結するのは、彼が言う()()()()では難しいはずだ。

 あの関係者ではない限り……。


〈何者なの? この人?〉


 確か渡された名刺には『貿易商』と書かれていたが、本当かどうか怪しい限りだ。


「ルイス・ヴォート社って何ですか?」


 無邪気にエリナが質問をした。


 リジーは人の気も知らないで、と思っていたが、彼女が説明するよりも、このおしゃべりなホワイト・エリオン族が説明し始めた。


()()()()飛行艇のメーカーだよ」


 嫌がらせか、と思えるぐらいに『大型旅客』とはっきりと発音をした。


 確かに彼女の実家は飛行艇メーカーだ。祖父の時代は、である。


 あくまでも彼女の中では、翼が付く乗り物はすべて作っている。その中には大型飛行艇も含まれている、と言う認識だ。

 手広く広げたのはあの父親だ。

 元々は大型飛行艇一本だったが、小型機も下請けで製造していた。

 それが気に入らなかったのか、父親は自社で開発できるよう技術者を集めた。

 そのために、強引と言われるようなヘッドハンティングしたのは聞いている。そうやって集めた優秀な技術者を集めて、小型機、ひいては軍用機の分野に入り込もうとした。だが、いきなり挑戦するハードルが高かった。


 ちょうど海軍の新型機の開発競争に挑戦し……失敗した。


「お宅は()()()()()()の開発は不向きのようですな」


 そう担当した海軍士官に言われたらしい。


 性能面ではライバル会社の機体とは一線を画すものだったらしい。が、デザインが気に入らないだの、難癖が付けられたらしい。追加の要求にもなれていなかった。


 そして決定的だったのは、量産能力に欠ける。と、言うものだ。

 それは仕方がないことだ。元々、大型の飛行艇なんて大量生産するようなものではなかった。

 一機一機、手作りが基本だったところに、いきなり何百機の機体と、その予備部品の発注を処理する能力を求めるのは酷な話だ。


 リジーは物心ついたときから、そんな父親を見てきた。

 でも、父親は諦めていないようで、たまに新規開発があると聞けば飛びつき、失敗を繰り返している。ただ不思議と経営が傾くようなことまではない。まあ、その辺のサポートは母親が厳格に全ういているのがあってのことだ。


「御社は()()()の生産に力を注ぐべきだ」


 と、忠告されそれ以来、海軍では相手にされなくなった。

 そして、海軍内では小馬鹿にされている。


 それを、彼が言う()()()()では知り得ない情報だ。

 海軍に出入りしている商人ならまだしも、ましてや貿易商が知っているのはおかしい。


 このレジスターという男。海軍の関係者に違いない、とリジーはにらんだ。


 一般市民に紛れて情報収集する武官がいる、という噂はちらほら聞いたとがある。

 この人はそういう仕事をしているのではないだろうか、と……。


「スゴい! そんなお嬢様なんですね」


 無邪気にエリナは言う。


 確かにリジーはお嬢様だ。だが、何かといえばシュトラッサー家の人間、お嬢様と、別格扱いされたことに嫌気がさしていた。

 自分が嫌がっても、家の名前は付いて回ってきた。


 高校の飛行機クラブに入ったのも、一人の人間として扱ってほしかったからだ。

 母親からは危険だと反対されたが、機体の中では家柄なんて関係がない。

 その人の能力がすべてだ。

 生きるのも死ぬのも……。


〈この子に分かってもらうのは無理か……〉


 リジーにはエリナが自由そうに見えた。


 そして、自分の悩みなど分からないだろうと、感じてしまった。

 これ以上ここで、話すことはない。先ほどの気付け薬の副作用はもうなくなっている。

 立ち上がって退散することとしよう。


 ジリリリリン。

 ベルが鳴った。電話のベルだ。

 エリナが受話器を取り、簡単な挨拶をする。


「そうです。はい……そうです。はい……そうです。いいえ……そうです。はい……」


 最初は笑っていたが、深刻そうな顔に変わっていく。


「そうです。はい……そうです。はい……」


 彼女の目が泳いでいる。

 なぜかその目線はリジーに止まった。

 そして、上から下までじっと見つめて、靴で目線が止まった。


 リジーは何で自分を見たのか、理解できないでいると、また風が目の前を通り過ぎていった。と、突然、エリナの目の前に女性が立っていた。


 いつの間に現れたのだろう?


 突然のことで一瞬、理解できなかったが、後ろからでも判る尖った耳と透き通るような白い肌。ホワイト・エリオン族の女性と分かると、魔法でも使ったのか、と判った。


「貸して……」


 その女性は静かに言った。


「はい…………………………」


 それから黙ったまま受話器を握っている。


 一応、相手の話を聞いているのか、時たまうなずいている。電話口だから相手には判らないだろう。そして、店の中をあっちこっち見回し始めた。

 こちらもなぜかリジーに止まった。また上から下までじっと見つめて、靴で目線が止まる。


「……では、明日迎えに行きます」

 と、電話を切った。


「何かあったのかね?」

 レジスターの問いに、その女性は舌打ちする。


「最低……」


 そして、ただボソッとつぶやいただけだ。それ以上言葉を発さない。

 いつものことだと諦めているのか、レジスターはエリナを見る。


「実は警察から電話で……アルさんが、警察に捕まったそうです」

 エリナが応え始める。


「アル君がか? 一体どうして?」

「なんでも、カジノで暴れたとかなんとか……あれ? 犯人を捕まえただったかな?」

 こっちも負けず劣らず要領を得ていない。


「とにかく、アル君は使えないんだな」


 エリナとあの女性がうなずいた。


「今日の仕事は、彼じゃないと務まらないからな……」

「どんな仕事なんですか?」

「エリナ君には難しいことだよ」


 そう言われたが、彼女はますます興味がわいたようで、食いついてきた。

 それを察してレジスターは説明を続ける。


「輸送作業だ」

「輸送なら、わたしでもできます」


 そうエレナは強く言ったが、隣にいた女性がボソッと呟いた。


「無理よ。ケイトが使えない」

「あッ」

 と、エリナが桟橋へ続くドアを見る。


 誰かまだ別の人間がいるのだろうか?


「そういえば、ケイトさんの姿が見えないが……」

「今日は……ワッフルのおじさんが来てから、なんだかおかしくて」


 レジスターの言葉に、エリナがテーブルの上のモノを指した。


 そこに目を向けると、お菓子の箱が置いてあった。

 リジーの記憶では、駅前のカフェで売っていた『ワッフル』とかいう格子状のお菓子だ。

 甘い匂いでおいしそうだなぁ~、と見ていたのを思い出した。


 その箱に名刺が載せてある。名前は、

『陸軍ドラクーン対策室 陸軍少佐キエフ=フランカー=ナイト』

 と……。


 ドラクーン対策室といえば、コンスティテューション連邦の首都コンステレーションにある陸軍総本部の部署のはず。新聞にそう書いてあったのを思い出した。


〈ここには海軍の人間に、陸軍の人間も出入りしているの?〉


 陸軍の本部と言うことは、エリートになだろう。

 たまたま入った桟橋屋であったが、そんな人たちが訪ねてくるなんて、好奇心が黙っていられなくなった。


「それ以来、お酒を持って桟橋に行ったきりなんですよ」


 エリナは心配そうに桟橋を見つめた。


「グラウ・エルル族が昼間から、飲酒とは感心しないね」


 確かに、汚い言葉だが『クソ』が付くほど厳格主義の種族が、昼間から酒をあおるなんておかしな話だ。

 彼らの宗教観からすれば、神様である太陽神が出ている真っ昼間に飲酒なんて、葬式と日食の時ぐらいのはずだ。


「そのケイトさんって方がいないと、どうして飛べないのです?」

 リジーはつい口を出してしまった。とっとと帰ればよかったのに……

「普通の飛行機乗りでしたら、行って帰ってくるだけでしょ? 簡単じゃありません?」


 彼女の言葉が不味かったのか、みんな「触れないように」と黙り込んでしまった。

 あの女性を除いて……


「この子、地図が読めないのよ」


 さっきまで明るい笑顔だったエリナが、しおれてしまった。


 どういうことなんだろうか?


 ホーネット、ひいては飛行機乗りには地図を読むことは必須だ。

 それができないというのは、自分がどこを飛んでいるかも判らないと言うことだ。

 現在地が解らないようでは、空の上で迷子になってしまう。燃料切れで墜落……それはつまり死に直結する大事なことだ。


 すぐに探してくれるほど、世の中、優しくない。よっぽど荷物が大事でない限りは……。


「それに今回の輸送は、ある場所に荷物を落としてもらいたい。正確にね」

 と、レジスターが彼女ではダメな理由を続ける。


「ポストマンですか?」

 リジーの言葉に全員の注目が集まった。


郵便配達人(ポストマン)がどうしたんですか?

 わたし、あまりこの地方の言葉には不慣れでして……」

「ポストマンは競技(ゲーム)よ。飛行機を使う」


 リジーはエリナにわかりやすいように説明を務めた。


 その競技は『ボム』と呼ばれる落下物を、どれだけ地面に書いた的の中央に落とすか、というモノ。

 正確な爆撃の訓練……というより暇つぶしに、模擬爆弾で目標にいかに当てるかというゲームをしていた。

 そこからヒントを得て、的の中心からどれほど近くに落とすか――近い順にポイントがつく――競う競技になった。だが、さすがに爆撃訓練の名前では競技にはふさわしくない。

 ちょうど同じことをしていた郵便配達人から、競技名は『ポストマン』となった。


 郵便物も運ぶのにも飛行機を使っていたのだが、山間部などの着水できないような場所は、空中から目標に――空き地など――向かって落としていたからだ。

 この競技は、飛行機乗りの早期育成のためにという名目で、高校の部活に国でも奨励されているのだが、まさか女子も参加するとは、考えていなかった。


 しかし、「やりたい」と言うモノは拒まなかったし、ちょうど技術が追いついてきていた。

 サーボモータや油圧装置の小型化がそれだ。

 これのおかげで、非力な女子でも飛行機が簡単に扱えるようになる。


 リジーがいた高校はその草分け的な女子校。


 彼女の母親は、それをやっていることは知っていたが、まさか自分の娘が参加するとは思ってもみていなかったようで、入部したと聞いたときの驚き様はなかった。

 そして彼女は、そこで飛行機のことを習ったのだ。


 さすがに――体が小さくて――操縦はできなかったが、サポート役で参加していたのだが……。


「じゃあ、航法とかもできるんでね」

 レジスターの言葉に、リジーはついうなずいてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ