臨時ニュース
統一歴九四〇年、春――
コンスティテューション連邦の南。
エセック州のフランクリンは、シーズンオフだからかもしれないが、観光地としては閑散としていた。
エリザベス=P=シュトラッサーは、高校最後の春休みをそこで過ごしていた。
今の気分は……最悪だ。
自分としてはもっと別の場所で過ごしたかった。
ここはまだリゾート開発が始まったばかりで、施設は少ない――ゴルフ場とかでは、年頃の彼女では楽しめない。
ホテルで「海辺で、のんびりされてはいかがですか?」と言われて、ビーチチェアに座り、日光浴でも……と思ったが、海からの風は冷たい。
たしか『常夏の島』と銘打っていたが、一体何なんだろう。
これであったら、寒いかもしれないが、北のタヴリーチェスキー州のポチョムキンなどで、よかったのではないかと思っている。
あそこならまだウィンターシーズン中だから、スキーなんていいのではないか……。
〈それもこれもお父様の所為ね〉
ここを指定したのは彼女の父親だ。
大方、この未開発に近いリゾート地に投資でも考えているのだろう。父親の趣味と言っていい。
先に彼女を行かせて、素人目で見て回らせる。
そして自分は後で乗り込んでくる。よければ投資する。
〈どうせいつものことで、失敗するのに決まっている。
ちゃんと本業に専念すればいいのに……全く、なに考えているんだか〉
彼女は何度かそんなことをさせられて、その度に失敗しているのを見ていた。
まあ本業の方が順調に行っているし……自分のポケットマネーでやること。会社の金に手を付けないとを条件に、せっせとリゾート開発業に金をつぎ込んでいる。
今回のこの場の評価は……彼女的には、まだ決めかねている。
今の気分は最悪だが、ホテルの従業員やら村の人たちの人当たりはいい。季節さえ間違わなければ、問題なさそうなのだが、少し南寄りなのが気になった。
ドラグーンが襲ってこないのか、と……。
いざ投資したところで、ドラグーンに襲われて破壊されては元も子もない。
その辺はどうなんだろうか……元々、この島にはラジオの中継局があった程度だ。
このラジオ局は付近の船舶や航空機に方位や位置を伝え、その航行を補助する電波灯台としても使われている。
そんな重要な施設を置いてあるので、国が安全と認めているのだろう。
〈まッ、アタシが心配することではないか。どうせ、お母様に怒られるだけだろうし……〉
海辺での日光浴を諦めて、ホテルに向かう道を歩く。
どこからともなく陽気な音楽が流れている。
気がつくとフルーツを売っている店があった。その店先にラジオが置かれていて、そこから流れているようだ。
リジーはその音楽に合わせるように、鼻歌を歌いながら歩く。だが、その音楽が突然止まった。
バリバリと雑音が入り、男のアナウンサーの声が聞こえ始める。
『臨時ニュースをお伝えします。
当局の発表によりますと、ドラグーンの群れが確認されたとのことです。
現在、パイルの捜索をしておりますが、確認されておりません。
放送をお聞きになっておられる皆さん。
情報をお持ちでしたら、当局に連絡をお願いいたします。
繰り返します……』
リジーが、ドラクーンのことを気にしていたから現れた……なんてことはないはずだ。
ドラグーンが灰色の雲から現れるかどうかは、当局は常に監視している。
奴らの動向は、国民の生命に関わることだ。それに引っかかったのだろう。
ドラグーンの襲来は『採取』と言われている。
手順は、『パイル』と呼ばれる巨大なドラグーンが、採取を行う地帯へ現れて旋回を始め、残りのドラグーンを誘導する。
数日おいて現れるのが、『ショベル』と『ハンマー』の大群だ。
ショベル型はその名の通り、採取を行い、巨大な手で土砂や何から何まですくい上げていく。
ハンマー型はやや小柄であるが、破壊と他のドラグーンの護衛を行う。だが、今回、不思議なことがある。
パイル型ドラグーンが見つかっていないというのだ。
〈あんなデカイものが見つからないなんて、うちの国で『採取』が行われないんじゃない〉
どこの国かは分からないが、リジーは少し安堵した。
パイル型は中でも巨大で、翼を広げると一〇〇メートル近くもある。
そんなものが、見つからないことは、つまりこのコンスティテューション連邦には襲ってこないのではないか?
しかし、ドラグーンが現れたと言うことは、どこかで『採取』が行われると言うことだ。
それを思うと、何だか申し訳がない。
気がつくとその臨時ニュースは終わっていた。
そして、また陽気な音楽が流れ始める。
〈お父様が来るのは、明後日だったわね〉
リジーはホテルに帰らずに、もう少し島の中を散策することを決めた。




