再開
8
いつもと違う匂いに気が付いた勇斗は目を開けた。目を開けた先にあったのは白い天井だった。これはあの施設と同じだ。でも周囲を見ると決定的にいつもとは違った。そこにあったのはあの部屋にあったものより格段に下の設備の数々だった。
勇斗の格好は自分がおぼえている限り着た覚えのない格好だった。というよりも病人の着る白い服だった。
勇斗が途方に暮れていると斜め前にあったドアが開いた。
「あ、起きたんだ。おはよう、勇斗。」
「お、おはよう。ってまさか凛!?」
「そうだよ。浅見凛だよ。
なんでそんな居もしない人を見る目で見るの?」
「だって…前ニュースで行方不明だって。」
「あぁ…あれね。あれは…」
凛が勇斗に言ったことを要約するとこうだ。
勇斗が連れ去られて数日、今度は凛が連れて行かれそうになった。
しかし、そのときこの施設「Professional Skills(P.S)」の人たちが助けてくれた。
そのままここで世話になっている。
そして、この前は町の郊外で戦闘が観測されていってみると勇斗たちAwakeがL.Aに襲われていたので助けた。
ということらしい。
「なるほど…そういえば玲子はどうなったんだ?」
「玲子ね、奥で楽しそうにしてるよ。」
「そっか…助かったのか。」
「勇斗ほど重症でもなかったからね。動ける?」
「うん、けがも完治したみたいだ。」
「そっか。ならみんなのところにいこ。」
勇斗は着替えることもなく病衣のまま凛に連れていかれた。
扉をくぐった先にあったのはいかにも普通の民家にあるようなものばかりだった。ただし部屋のサイズは普通の民家とは比べ物にならないくらい大きい。
勇斗が辺りを見回すと少し奥に楽しそうに笑っている玲子の姿が見えた。
勇斗はほっとしたように息を吐いた。
そして、玲子も勇斗に気が付いたようで、少し走った感じで駆け寄ってきた。
「目が覚めたのね。よかった。」
「おかげさまでな。玲子も無事でよかった。」
「私の心配はしてくれないんだな、マスター。」
「ん?炎か。お前はずっと腕についているんだから心配ないだろ。」
これから少し他愛もない話に花を咲かせた勇斗たちだった。
そしてその他愛のない話を終えてひと段落した様子で少し奥にあったダイニングテーブルに腰掛けたとき凛がそばに来た。(さっきまでは勇斗と玲子それに炎の三人だったので遠慮していたようだ)
「勇斗はどんな生活を送ってたの?」
「うーん、Awake同士戦うことがたまにあった以外はそんなに大きな変化はなかったな。」
「そうなんだ。てっきり実験台とかにされてるのかと思ってた。」
「まぁ負けてたらなってたかもな。」
勇斗は玲子と同じ部屋に住んでいたとは言わなかった。言っていたならおそらく大変なことになっていただろう…
「そういえば卓也はどうなったんだ?」
この質問をした途端に凛が顔を下に向けた。
「あぁ、やっぱりいいよ。」
「卓也は、勇斗が連れていかれたあとすぐに勇斗を追ってどっかいっちゃった。」
「凛もどこにいるかは知らないってことか。」
「…ごめんね。」
「いや、凛が謝ることじゃないよ。」
2人の間に少し沈黙ができた。
「…そういえばどうやって俺たちをあの場から助けたの?」
「それは私たちには魔術があるから。」
「“魔術”?」
「言うより見せたほうが早いよね。ちょっとついてきて。」
そう言って勇斗は地下に連れていかれた。
そこに広がっていたのは一面白に覆われた箱状の部屋だった。
家具らしきものは何もなく、部屋に入る前にデータの収集などを行う研究ブースがあるだけだった。
勇斗を研究ブースに待機させた凛はおもむろにバイザーを取り出してつけた。ちょうど右目だけを覆う大きさだった。
「それじゃあいくよ。ビフレスト!」
突如凛の前方数メートルの空間が歪んだ。そしてそのした方からは水蒸気が出て、その水蒸気が上に上がっていくとすぐに凝結して氷の塊となって前方に飛んでいく。
「ふう、こんなもんかな。」
「す、すごいな…それはどうやっているんだ?」
「さすがだね。“どうして”じゃなくて“どうやって”を聞くところ。」
凛の言ったことはもっともだった。“どうして”を聞いたところで得られるのは「ここで学んだ」くらいしかない。しかし“どうやって”だとその技への対処まで見つけることができる。
「これはね、自分の設定した立方空間の上半分を急激に冷却して下半分を急激に加熱
することで蜃気楼に似た状態を作って相手から自分の位置をわかりにくくするのと
同時に、加熱された空気中の水分を急速に冷却して個体として、冷却する際に得られた熱エネルギーを使って前方に打ち出す魔術だよ。
ここにきて少し経ったときに教えてもらったんだ。」
勇斗には理解が出来ていなかった。気体の加熱と冷却ならAwakeの中にもできるやつはいただろう、だがそこで得た熱エネルギーを弾丸の発射に使うことはまた別の能力だ。
勇斗にはコピーの能力がある。そしてこのコピーと炎がいることで複数の能力を使うことが出来る。つまり自分ならばこの技も再現できるかもしれないが、自分は特別だと複数から言われていた勇斗には自分以外にできるとは思っていなかった。
しかし、現実に凛は二つの能力を同時に、しかも自分よりも正確に放っていた。
自分は能力におぼれていたのか、勇斗はこう考えていた。
勇斗の思考時間は少し長く、その間に凛が勇斗のそばに来ていた。
「勇斗?」
「…あぁ」
「どうかした?」
「凛、お前も俺と同じコピーの能力なのか?」
「何コピーって?私は勇斗たちのようなAwakeじゃないよ。」
「じゃあなんで能力が使えるんだ?」
「それはこのおかげだよ。」
そう言って凛は自分の右手の中指に付けた指輪と目に付けたバイザーを見せた。
指輪といってもおしゃれをするための物には見えなかった。ただ青いだけのリングだった。
「これは感渉石。“感情”を“干渉”に変えることが出来る石だよ。そして、このバイザーはその干渉する部分を決める時に使う装置。」
ここから凛の長い説明が始まった。
要点はこうだった。
まず魔術の発動には感渉石が必要。
しかし、石があるからといって誰でもできるわけではない。
発動する場所、規模を演算できるだけの頭脳がないと発動できない。
さらに、演算できたとしても、それは到底実践中に演算し切れる短い時間ではない。
そこで、バイザーを使って脳波を測定し、演算をサポートする。
この時脳波を測定するのは発動する部分と目で見ている場所に違いがないかを識別するためである。
そして、バイザーと自分の脳で演算したものが感渉石に流れ込み、意図した部分に改変が生じるということだった。
ちなみにどういう原理で感渉石に流れ込むのかはわかっていないそうだ。
「じゃあ、そろそろご飯にしようか。」
「おう。」
2人は訓練室を後にした。
少し遅れました。申し訳ありません。
ここからは凛が本格的に登場して最初の三人が交錯していきます。
もちろん玲子も出ます!
誤字脱字等ありましたらコメントよろしくお願いします。
読んでくださりありがとうございました。