帝の力
5
「“クリエーション”」
勇斗の手に銃が構成される。しかし、1分も持たずに消えてなくなった。
「まだまだだな。持続的に能力を発動させられていないな。」
「炎の翼は持続して使えるんだけどな…何が違うんだろう。」
「あれは断続的に“飛ぶ”ということを実行しているからな。持続させるのとはまた別の話になる。」
「断続と持続ね…」
勇斗は顔を沈めて考え込み始めた。
「んじゃ、私は休ませてもらうよ。出来たら呼んでくれ。」
「出来たらって…今のところ見込みないぞ…」
「まぁ、マスターは魔法石じゃないんだからすべての能力が使えるわけじゃないから諦めも必要だぜ。じゃあな。」
炎は勇斗の腕のブレスレッドに戻った。
「それもそうだな…もう少しやってみるか。“クリエーション”」
やはり勇斗の手にできる銃はすぐに跡形もなく消えてしまう。
勇斗はそのあと自分の気力が続く限りこの能力を行使した。
この能力に限らず能力の行使には気力やら体力といったものを使うことを勇斗は今日初めて身をもって知った。
勇斗が気力を使い果たして木陰で休んでいた時だった、勇斗の視界が急に暗くなったと思うと目の前に玲子の姿があった。
「なに疲れた顔してるのよ。」
「ずっと構築してたら疲れてよ…」
「あんたもバカね。能力を使うのに気力と体力がいるって言われなかったの?」
「…言われてない。今日初めて実感した。」
「そう…ちなみに何回くらい構築したの?」
「うーん…数えてなかったからな、100回は超えてるとは思うんだけど。」
「100回!?そんなにしたのによく意識があるわね…」
「マスターは気力じゃなくて魔力を使ってるからな。」
玲子と勇斗が会話をしていた時、炎が急にブレスレットから出てきた。
今日は勇斗の姿をしていた。区別がつくようにだろう、勇斗が黒い戦闘服の中に白いYシャツのようなものを着ているのに対して、炎は黒い戦闘服の上に赤いマントを羽織っている。
「魔力?そんなものがあるの?」
「あぁ、普通の人間にはないんだが、マスターは特殊だからな。私たち“魔法石”が持っているのと同じ“魔力”を持っているのさ。量は私たちには及ばないけどな。」
「そうだったのか…そんな話聞いたこともなかったぞ。」
「話してなかったしな。」
「…これ結構重要なことだよな?」
勇斗と玲子が呆れた顔をしている。炎はそれに対して「まぁマスターは気にしないだろう。」とか言っている。
勇斗は話がひと段落したかと思うと立ち上がり、構築を始めた。
「まだやるの?」
「あぁ、能力は使えなきゃ意味がないからな。」
「そうだマスター。指を銃の形にして指の先から弾丸を打つようなイメージをしてみてくれ。」
「ん?わかった。やってみるよ。“クリエーション”」
勇斗の手に銃が構築された。そしてその銃は消えることなく形を保っている。
「おお!できた!」
「なるほどな。」
「なるほどってどういうこと?」
「マスターはどうやらイメージを保つのが苦手なんじゃなくて銃口から弾丸が出るというのがイメージできてなかったらしいな。だから銃口じゃなくて指先をイメージしてやることで弾丸が出る場所が感覚的につかめたんだと思う。」
「なんだかわかるようなわからないような話ね。」
「理屈はいいよ、ほらこうやって銃もできてることだし。」
そういうと勇斗は近くの木に銃口を向けてトリガーを引いた。
銃口からは弾丸そのものではなく火が弾丸の形をして発射された。
そしてその火の弾丸は木に当たるとすぐに木を包み込み跡形もなく燃やした。
その木を燃やし終えると火は役目を終えたのごとく消えてなくなった。
「すごいわね…狙った対象だけを燃やし尽くすのね。」
「まぁマスターの今持っている能力は“炎”と“構築”だからな。構築をしたときに炎の力が混ざったんだろう。能力はもともと使用者の選んだものに対してしか効果がないから選んだ木だけが燃えたんだろうさ。」
「すげーなこれ。これで戦闘の幅が広がるぜ。」
「よかったな、マスター。おめでとうと言ってやりたいとこだが、悪い知らせだ。」
「どうした?」
「この近くに人がいる、しかも一人二人じゃない数だ。さらに殺気を放ってるね。」
「それはちょうどいいこの能力を試してやるよ。」
「ちょっとまって。つまりここにいる私も戦闘に巻き込まれるってことよね、それ。」
「そうなるな。まぁ頑張ってくれや、私は休ませてもらうよ。」
そういうと炎はブレスレットに戻った。
それを見た玲子はため息をついた。そしてその目を勇斗に向けた。
そこには子どものようにはしゃぐ勇斗がいた。
玲子はもう一度大きなため息をついた。
「よし、Awakeを視認した。これより戦闘に入る。」
白い服を纏い、白い帽をかぶった白いマントを着た男が言った。
それに対して周りにいた男と同じ格好にマントがないだけの男たち約10名は敬礼で返事をした。マントを着た男が指揮官なのだろう、その指揮官が男たちの奥にいる白い服に茶色のマントを羽織り、茶色のイヤリングをつけて、マントのフードを深くかぶった男に言う、
「あなたにも、手伝っていただきますよMr.Land。」
男は気にもしていない様子で後ろの森を見ていた。
「くそ、独断専行を許可されてるからといって、なんなんだ。
まぁいい、作戦開始!」
その合図ともに男たちは一斉に勇斗たちに飛び掛かった。
勇斗と玲子は背中を合わせて周囲を警戒していた。
二人とも近くに自分たちに敵対する人間の気配は感じてはいるが、場所までは特定できていない。なので、上下左右すべてを警戒するという体力の消耗の激しいことをしている。
勇斗が左を向いた時だった、向いた瞬間に4方向から2人ずつ男が飛び掛かってきた。
「来たか、後ろは任せるよ、玲子。」
「ええ、あんたこそそっちは任せるわよ。」
そういうと2人は戦闘を始めた。
まず勇斗の右から来た男2人が剣を勇斗に向かって振り下ろす。
しかし、その剣が勇斗に触れることはなく玲子の左手から放たれた電撃によって男たちは森へ吹き飛ばされる。
玲子の電撃の音が聞こえた瞬間に勇斗は自分の今向いてる方向に向かって炎の玉を放つ。
その弾は1人の男に当たった。しかし、もう1人が剣を振り下ろす。
「くそ、“クリエーション”!」
そう勇斗が叫ぶと炎の玉を放っていた勇斗の左手に剣が現れ、男の剣を受け止める。
勇斗はその剣に炎の力を込め、その力で相手を吹き飛ばす。
その次に勇斗の正面から男2人が降りかかる。
勇斗は左手に込めていた力をすべて解除し右手に銃を構築する。
そして、敵が自分に降りかかる前に銃に込めた炎の弾を敵に撃つ。
連射された弾は見事男の急所をとらえ、一撃で戦闘不能に追い込む。
一方、玲子は右手の敵を吹き飛ばしたあと、自分の前方に電撃でシールドを張っていた。
玲子には近接戦闘で剣に勝てる能力はない。なので、剣のリーチに入ってしまうと、対処が出来なくなる。そこで、電撃でバリアを張りつつ、そのバリアから電撃を放出し、敵に攻撃を仕掛けている。しかし、能力は肉体から離れたところから打つこと自体が難しいだけでなく、離れれば離れるほど威力が落ちる。この通り玲子は敵に決定打となるダメージは与えられていない。
勇斗は玲子が後ろで苦戦しているのを少し後ろを振り返った時に確認していたが、銃で撃った敵以外には決定打を与えていなかったので、左右から襲い掛かってくる敵の対処が限界で、玲子を援護する余裕がなかった。
そのときだった。
「ランドキュービック。」
勇斗と玲子は一瞬にして土の箱に閉じ込められた。
そして、その箱の上に茶色いマントを羽織った男が下りてきた。
剣を持っていた男たちが土の箱の前で停止する。
「なんだ、これは!」
「土の箱のようね…」
「土か、なら俺の炎で!」
勇斗は自分に宿る力を右手に集中し土に向かって撃った。
しかし、土の壁は少し綻びた、箱全体はおろか穴が開く様子もない。
勇斗は続けざまに炎を撃ったが、壊れる様子はない。
「無駄だ。俺の土の壁は貴様程度の炎では壊せない。」
男の声が土の箱の中に響く。
「くそ!炎、どうにかならないのか?」
「…」
炎から反応は帰ってこない。
「魔法石に頼っても無駄だ。この箱の中は魔力が使えない。魔力が使えない魔法石などただの石でしかない。」
「くっ…」
そのとき玲子がぐったりした様子で倒れこんだ。
勇斗はそれを咄嗟に受け止めた。
「玲子!?」
「はぁ…はぁ…、なんだか息が苦しくて…」
「言い忘れていたが、その中の空気は有限だ。すぐに酸素が無くなってお前たちは死ぬだろう。」
男の言っていることは嘘ではない。ただ、こんなにも早く玲子が倒れたのは、電撃のバリアを長時間張っていたためかなりの気力と体力を消耗していたところに、この酸素の少ない空間に囚われたためであった。
「玲子!」
玲子から返事が無くなり、勇斗は愕然とした。
「これであとはお前だけだ。早く楽になりたまえ。」
「俺は…また失うのか。凛に続いて玲子までも…
くそ!失ってたまるか!」
勇斗がそう叫んだときだった。ブレスレットが眩い光を放った。
そして、勇斗を包み込んだ。その光は一瞬で消えた。
勇斗は光が消えたと思うと、玲子を左手で抱きかかえて右手を頭上に向かって広げた。
「なにを無駄なことを。お前の力ではこの壁は破ることはでき…!?」
男は一瞬にして言葉を失った。
男は自分の作った箱の中から以上な力が行使されているのを感じて、急いでその場を離れた。
男が離れるのと同時に土の箱は跡形もなく吹き飛んだ。
茶色のマントの男以外の敵はこれを察知できていなかったので箱が吹き飛ぶのと同時に吹き飛ばされて一瞬で戦闘不能になった。
「なんだ…あの力は…それにあの姿はなんだ!」
そう言っている男が見ている先に居たのは玲子を抱きかかえた勇斗だった。
しかし、勇斗は全身から赤いオーラを放ち、眼は黒い瞳が真紅に染まっていた。さらに顔には魔法陣のような紋章が浮かび上がっていた。
「あれは…まさか。」
こういったのは茶色のマントの男がつけていたイヤリングが言う。
「お前、あれが何か知っているのか?」
「あれは“炎帝の顕現体”だ…」
「“炎帝の顕現体”だと?あの空想の魔力体を顕現させたというのか?」
顕現体とは、魔法石と同じように炎、氷、雷、地、風、光、闇の七つの帝がこの世には存在していたといわれ、その力を宿したものがこの世に産まれることがあり、その者たちが帝の力を使うときに現れる装束のことだ。しかし、今までに顕現体が観測された例はなく空想のものだといわれていた。
「そうだ、あれはまだ未完成だが、間違いなく炎帝だ。今すぐこの場を離れるぞ。あんなのと戦闘しても勝ち目はない。一方的に殺されるだけだ。」
「わ、わかった。」
そういうと男は人間の範疇を超えた速度|(おそらく能力)でその場を去った。
周りから敵がいなくなると、玲子は目を覚ました。
「うぅ…」
「大丈夫か?」
「大丈夫…ってあんたなにしてるのよ!」
玲子は顔を真っ赤にして勇斗を両手で押し飛ばした。
顔を真っ赤にしてうつむいていた玲子だが、すぐに勇斗の異変に気付いた。
「あんた…そのオーラはなに…?」
「これか?よくわからんが、急に体の中から力が湧いてきたと思ったらこんなんになったんだ。」
勇斗が自分の体から出ているオーラを見ていると
「んーよく寝たぜ。ん?なんだこの感じは。よいしょっと。」
ブレスレットから出た炎は唖然とした。
「マ、マスターそれは“炎帝の顕現体”か?」
「“炎帝の顕現体”?」
「ああ、私たち魔法石よりも強い魔力を持っている帝といわれるやつらが姿を表に出したものだ。
なるほど、だから、マスターには大量の魔力があったのか。」
「どういうことだ?」
「私がマスターの中に感じていた魔力の正体はそれさ、帝は莫大な魔力を持っている。その鱗片がマスターから出ていたんだな。」
「なるほど…俺はそんなにすごいやつだったのか。」
「それで、いつまでそんなのでいるつもりなの?」
「え?」
「私にだって見えるくらいの魔力を放ってるってことでしょ?それってすごい力を使ってるんじゃないの?」
「あ…どうりで疲れるわけだ。でもどうやって解除するんだ?」
「わからないでつかってたの!?」
「使うってより、お前を失いたくない一心で力がほしいと思ったら現れたからな。」
「なっっ!」
玲子はまた顔を真っ赤にしてうつむいた。
「はいはい、惚気るのはそこまでねー」
「「惚気てなんかいない!」」
「とりあえずマスターのそれを元に戻そう。」
そういうと炎は勇斗の背中に両手を当てて、魔力を注ぎ込んだ。
すると勇斗から出ていたオーラと紋章は消え去った。
「ふう、これでオッケーだ。でもこれ以上力が強くなったら私じゃ止められないよ。」
「わ、わかった。」
「あれは勇斗か!でも、あの周りにいるのはAwakeか!やっぱり騙されているんだな。」青いマントを着た男はこの一連を少し遠くから見ていた。
「勇斗、必ず助けてやるからな。この神庭卓也が!」
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