過去と力
4
勇斗が玲子と戦ってから2週間近くがたった。
しかし、いまだに勇斗と玲子は同じ部屋だった。
といっても厳密には同じ部屋ではない。
戦闘の次の日のことだ、勇斗と玲子は新たな部屋に移された。
そこは、扉をくぐるとリビングらしきものがあり、その横には各人の部屋があった。
二人はなぜわざわざ一緒の部屋なんだろうと考えたが、案内したのはスーツを着た男だったため聞いても無駄だと判断して何も言うことなくこの部屋にいる。
さすがに1週間も一緒にいると、お互いのことが否が応でもわかる。
玲子は朝に弱いタイプではないためいつも決まった時刻に起床する。
勇斗はいまだに朝が弱く起きる時刻もまちまちである。
そして二人には時間だけが大量にあったのでお互いのことを語り合っていた。
「…おはよう。」
「おはよう、相変わらず遅いわね。」
この挨拶も慣れたものだった。玲子は朝食をすでに済ませているので、勇斗は冷蔵庫にある朝食を温めて食べた。
ふと勇斗は部屋を見渡した。テレビにソファーは前もあった。しかし、冷蔵庫に電子レンジ、さらにはキッチンとここはすでに一つの家のようだった。
朝食を食べ終えた勇斗は何をするでもなくテレビをつけてその前のソファーに座った。玲子はキッチンの近くにあるダイニングテーブルにいつもいる、ここに来る前から家事をしていたらしくキッチンの近くのほうが落ち着くらしい。
ここ2週間はあの男からも連絡もなく、ただ1日1日が過ぎていくだけだった。
そんな日が今日も続くと思っていた。
「1ヶ月前に行方不明になっていた少年が発見されました。場所は…」
勇斗は目を見張った。テレビに映っていた少年が勇斗が初めて戦った少年だったからだ。
「どうしたの?そんなテレビを見つめて。」
「こいつ…俺が初めて戦ったやつだ。」
「それって、炎を使っていたやつだよね?」
「そうだ。俺は戦いに負けたら研究所送りだと聞いていたんだがな。」
「私もそんな感じに聞いていたわ。」
「ということはこいつは研究所から逃げたということか、意外とやるな。」
「意外って…」
「初めて戦闘したやつに負けたんだぞ?結構弱いと思ったんだが。」
「それはマスターが特別だったからだよ。」
こう言ったのは勇斗のつけているブレスレッドの炎だった。勇斗たちは炎とも打ち解けていた。そして炎は勇斗のことをマスターと呼んでいた。はじめは勇斗も抵抗していたがすでに諦めていた。
「マスターの能力に驚かないやつなんてめったにいないさ。」
「特別ねぇ…といっても今は炎しか使えないだけどな…
なぁ玲子、お前の能力コピーさせてくれよ。」
「いやよ、なんであんたなんかにコピーされなくちゃいけないのよ。」
二人は炎から勇斗がどのようにコピーをするかを聞いていた。
それは、まず相手の能力を認識する。次にその能力を自分が受ける。そして、その能力を持つ者の本質を理解する。この3工程だ。勇斗に深く理解されるのが嫌なのか、玲子はコピーされることを拒んでいる。
「…このままじゃ俺、ただの炎使いだよな。」
「なんだい、マスターはほかの能力も使いたいのか。」
「そりゃそうさ、せっかく自分がたくさんの能力をつかえるんだ、いろいろ使ってみたいさ。」
「なら試してみるかい?」
「何をだ?」
「私に記録さている能力をコピーできるかさ。」
「「お前能力もってたの!?」」
勇斗と玲子は声を揃えていった。
「あれ、言ってなかったか。」
「言ってないよ…」
「私はマスターの力の制御が本分ではない。私の本来の力は“構築”何かを創り出すことさ。」
「創り出すってことは銃とか剣とかか?」
「まぁ、そういったのも可能だな。使う人間が作れたらだけどな。」
「なるほど、使えるかどうかはその人しだいってわけね。」
「そう言うことさ。さてマスター、試してみるかい?」
「もちろんさ。」
「んじゃ、ちょいと待ってくれよ。このブレスレットのままじゃ能力を見ることもできないからな。」
そう言うとブレスレットが光り始めた。強い光に包まれ、勇斗たちが目を閉じ、再び開けるとそこには勇斗とうり二つの少年がいた。
「さて、準備オッケーだぜ。」
「オッケーってその姿…」
「具現化するには何か姿を真似なくちゃならんからな。一番身近にいたマスターを真似させてもらったのさ。」
「な、なるほど…」
「さて、能力を教えるとするか。“クリエーション”」
炎がこういうと、炎の右手に銃が現れた。
「これが私の能力だ。出力を抑えているからまぁこんなものだろう。」
「いや…十分すごいけどな。」
「そうかい?それは褒め言葉として受け取っておく。さて、んじゃマスター耐えてくれよ?」
「え?」
そう言うと炎は銃口を勇斗に向けた。
「そうだったな、相手の技を受けなきゃいけないんだったな。よし来い!」
それを言った瞬間に炎は躊躇なく引き金を引いた。
銃声が部屋に響き渡った後、勇斗は倒れた。
「ちょっと!あんた殺してないでしょうね?」
「大丈夫だ、今撃ったのは衝撃弾だ。少しすれば目が覚めるさ。」
「そう…ならいいけど。」
「うぅ…」
「ほら起きた。」
「ほらって…結構痛かったぜ?」
「そりゃそうさ、弾が当たったことに変わりはないだからさ。さて、次の段階だな。」
「本質を理解か…お前の本質ってなんだ?」
「今見せてやるさ。」
そう言うと炎は急に玲子に姿を変えた。
「ど、どうして私になるわけ!?」
「んーとな、私の本質を理解するにはこれがはやいからさ。」
そう言うと炎は勇斗に抱き付いた。
「ちょ!」
「あんたなにしてるのよ!!」
玲子は顔を真っ赤にして炎を勇斗から引きはがそうとした。しかし、炎に触れようとしたとき何かによって弾き飛ばされた。
「おっと、今の私には触れないほうがいいぜ。」
そう言うと炎は光輝いた。
「ん…」
「起きたかマスター。」
「そう呼ぶってことは炎か。」
「あぁ、すまん紛らわしかったな。」
炎は炎で形どられた人間になった。
勇斗は辺りを見回した、どうやら元いた場所ではないようだ。おそらく炎が見せているのだろう。
「それがお前の本当の姿か?」
「いや、これはただ人間というものに炎という情報を纏わせてるだけで私ではない。」
「お前本当に何でもありだな…」
「まぁな、これでも魔法石の一つだからな。」
「魔法石…ね。」
「そして、今からマスターに俺の過去を見せる。覚悟はいいか?」
「いいぜ、いつでも来いよ。」
「そうかい、じゃあいくかい。」
勇斗と炎は下に広がる風景に吸い込まれていった。
炎が7つ灯る。赤、青、黄、緑、茶、白そして黒。
「ここはどこだい?」
「さぁな。よくわからないな。」
炎しか見えないため誰が話しているかわからない。
「炎、これがお前の過去か?」
「そうだ、これが私が魔法石となった時のことだ。」
「魔法石になった…?」
炎は勇斗の言葉に頷き、下に映る炎を見た。それに続いて勇斗も下を見た。
「ようこそ。魔が支配する世界へ。」
「お前がここに連れてきた犯人か。」
「そうだね。そう言うことになるね。」
「どうして私たちをここへ連れてきたのですか?」
「君たちが一番適任だと思ったからさ。」
「適任?なんにだ?」
「魔を支配する法をつかさどるものにだよ。」
「魔を支配する法?どういうことだい?」
「そのままの意味さ、魔法を使うモノたちに君たちがふさわしいということさ。」
「全くもって意味が分からないな。」
「同じく。」
「私にもわかりませんね。」
「俺にもわからないぞ。きちんと説明しろ!」
「まぁそうなるだろうね。大丈夫きちんと説明するから。
まず、君たちにはこれから魔法を使うモノになってもらう。拒否権はないからね。
そして、モノになった時点で君たちは人間の概念をなくす。
でも死ぬというわけではないよ。新たな力を手に入れるのさ。」
「…ダメだ。俺にはさっぱり。」
「新たな力、俺には必要ないな。」
「本当かい?君はまだ力を欲しているんじゃないのかい?君の家族を治すことできる力を。」
「なぜそれを知っている!?」
「君たちのことはすべて調べさせてもらってるよ。」
「く!」
「さて、もうそろそろ時間のようだ。何度も言うようだけど、君たちにはこれから魔法を使うモノになってもらう。それに際して一つ選ぶことが出来る。」
「選ぶ?なにをです?」
「君たちの記憶さ。」
「記憶?」
「それはもしかして過去の記憶を消すか残すかということでしょうか?」
「その通りだよ、流石だね君の思考力には感服する。彼女の言った通りだよ、君たちには選択権がある。記憶を残すか、消すかだ。選びたまえ。」
「選ぶって言ったって…」
「俺は残す。この記憶は消すわけにはいかない。」
「私も残します。」
「俺は消す。こんな忌々しい記憶なんていらない。」
「僕は残すよ。この知識がどこで役に立つかわからないからね。」
「私は残すことにしましょう。」
「どちらでも好きにしろ。」
「あとはあなただけですよ?」
「あ…えっと…お、俺は消すぞ!こんな過去捨てたい!」
「みなさん決まったようですね。それでは行きましょう。」
「おい待て、貴様は何者なんだ。」
「私は先導者、導くだけで結果を残すことはできないのです。それではまたいつか。」
「待て!話はまだ!」
大きな光に包まれた。
「こうして私は魔法石となった。」
「唐突すぎて理解できないな…」
「まぁそうだろうな。でも、これで私の本質はつかめたはずだ。人間だったという本質が。」
「そう…だな。」
「どうした?浮かないようだが。」
「いや、お前は記憶を残したんだろ?」
「あぁ、よくわかったな。」
「なんとなくだけどな、でもこんなにしたやつを探したくないのか?」
「最初は探したさ。でもこの身体を悪くはないと思ってな。でもあったら殺すかもな。」
「そうか…」
「さて、戻るとしよう、この話はまたいつかな。」
再び光に包まれた。
「う…」
「あ、起きた。」
「よう、お前か…」
「大丈夫?結構眠ってたけど。」
「…そうなのか、炎は…戻ったのか。」
炎は眠っているのか反応がなかった。
勇斗も疲れたのかまた眠りに落ちた。
「ふふふ、そろそろ頃合いだな。
楽しみにしているよ。栖鳳君、そして炎。」