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生活のススメ(番外編)  作者: よる
異世界道中記
6/25

異世界から日本に帰りたいって、思わないのはいけない事ですか?

リクト隊長から『反省しなさい』と言われ、今部屋の中で正座させられてます。

何でだよう、間違ってないと思うんだぜ?


「……気を遣わせてしまってすまなかった」

「いえ、我々もお気持ちはわかりますから」


ヴィーのおじいちゃんの治世がめっちゃくちゃだったので、リュクレースはとんでもないくらいに荒れてたそうだ。

まあ、私が来た時もまだ立ち直ってる最中だったみたいだから、わかるっちゃわかるんだけどね。


ヴィーはとっても、とってもリュクレースの事を大切にしているんだ。


そこで生きる全てを守りたいって願う程に。

それが出来る立場と権力を持ってたからこそ、それを最大限に生かして生きて来た。

だから、ラルフォルトみたいにただ居丈高に声を荒げるだけの王子が許せないんだろうって思う。


「この辺りの国って、魔獣討伐を行うのは民間に任せるのが普通みたいですね」

「そうみたいだね。まあそれも一つの手ではあるね」

「まあ、兵士や騎士を育てるよりは安く上がりますからね」


ふむふむ。

確かに年間通して金が掛かる兵士や騎士より、時期になった時に報奨金出した方が安いか。


「王子が討伐組に入ってたのはこの国が初めてだろ」

「あんなでも一応は国の役に立ってるって事か」

「まあ、もしかしたらあれでもましな方なのかもしれないねえ」


リクト隊長のその言葉に、何だかとっても微妙な空気が落ちた。

うーん……。


「明日にはここを出ましょう」

「だな。この国出ちまってもいいかもな」


リクト隊長とオーラン先輩がそう言って。


「所でいちる」

「はい」

「反省したかなあ?」

「しましたっ!」

「そうか。何を反省出来たのか教えて貰えるかな?」

「勿論です!あの時私、『怒られてやんの』ではなく、『ざまあっ!』って言って笑うべきでしたね?」


そう言ったらヴィーとリクト隊長が笑い出し、ギルニット隊長とジェイド隊長が笑いを堪え、オーラン先輩が溜息を吐いてた。


「よし、今後も励むように!」

「はいっ!」


リクト隊長に笑いながらそう言われ、やっと正座から解放されました。

皆が部屋を出て行くと、ヴィーが私を抱き締めます。


「いちる、ありがとう」

「どういたしまして」


相手が王子だと名乗った以上、私達のあの態度は不敬罪以外の何物でもない訳ですよ。

ラルフォルトの偉い所は、それを理由に私を断罪しようとしなかった所でして。まあ、あれでもちゃんと考えてるって事なんでしょうね。


私達は他国には干渉せず、介入もせずで過ごしていますので、ヴィーのあの言はちっと入り込み過ぎって奴でして。

なので私がわざと茶化したって訳です。

まあ、ラルフォルトのあの熱さに、ヴィーもちょっとだけ熱くなっちゃったんでしょうね。


本当に、物凄く珍しい事ですけど。

きっとヴィーは、ラルフォルトが気に入ったんだと思うんですよ。

確かに、真っ直ぐで人間臭くて良い奴だと思います。


「あの子と話しをしなくてもいいのかな?」

「あー。神崎さんは日本に帰りたいみたいなので、私はお役に立てそうにないんですよね」

「……いちるも、帰りたいと思ってた?」

「んー……取り敢えず生きる事に必死でしたからねえ。言葉が解らないからとにかく出される物を口に入れて、何とか凌いでたって言うか」


そうなんだよなあ、帰りたいって言う前に、ここは何処なのかってのが重要だったけどまあ、自分に起こった状況を把握する前に色んな事があり過ぎてねえ。


「皆に、私は元気だよって言いたかったですねえ。きっと心配してたでしょうからね」


お兄ちゃん達とお姉ちゃん達にそれだけ伝えたかったな。


「ま、もう生きてるとは思えないんですけどね」

「ああ、寿命が違うと言っていたね」

「はい。日本じゃ百超えてる方が珍しいですから。大体七十から九十くらいみたいですし」

「……そうか」

「はい」


黒騎士になりたいと思ってからは、日本の事を懐かしくは思っても帰りたいと思う事は無くなったからなあ。


「明日、朝早く出ますか?」

「……ロアが出てからの方が良いかな。逆方向へ」

「わかりました。じゃあちょっくら神崎さんとお別れの挨拶して来ても?」

「わかった」


ヴィーはそう言って私のおでこにキスして「怪我はするなよ?」と言ったので、お見通しっすかと笑ってしまった。

まあね、これがラストチャンスっぽいですからね?

カミル君とは是非手合せを願いたいのですよ!


「行って来ます」


そう言って部屋を出れば、リクト隊長とギルニット隊長が笑いながら立ってたので「お願いします」とお辞儀をして下に降りた。

階段を降りた所でジェイド隊長とオーラン先輩に頭を叩かれ、くそがっ!と言いつつ食堂へと入れば、ロアの面々がまだ酒を飲んでいた。


「おばちゃーん、お酒とおつまみよろしくー!」

「はいよ!」


ロアを無視してテーブルに座って取り敢えず三人分の酒とつまみをお願いし、そういや日本名を付けてなかった事を思い出して、二人に告げた。


「央太と仁さんで」

「ああ、あれか。わかった」


既に話しは聞いていたらしく、オーラン先輩はそう言って、ジェイド隊長は頷いて返して来た。リュクレース国民にとって本名ってのは、それだけ大切な物なんでしょうね。


「高野さん!あの、ご一緒させて頂いてもいいでしょうか?お話しさせて欲しいんです」


神崎さんが話し掛けて来たので、「勿論、いいよー」と答えて頷けば、よろしくお願いしますと空いてる椅子に腰を下ろした。


「央太さんと仁さん。この人は神崎さんだよ」

「よろしくお願いします」


互いを紹介しあった後、物凄い不満そうな顔をしたラルフォルトと、楽しそうな顔をしたベント君がやって来て、神崎さんを挟み込むように座った。


「そっちは明日の予定決まってたりする?」

「俺達、この街でもう一件の依頼請けました」

「そうなんだ。討伐組は今時期が稼ぎ時だしねえ」

「お前達は移動するのか?」

「まあね」

「え、何処かへ行ってしまうんですか!?」


ラルフォルトに答えれば、神崎さんが慌てたようにそう聞いて来る。


「そうなんだ。残念だけどね」


そう言うと、神崎さんは何かを悩みだし、そうして口を開く。


「あの、私も連れて行ってもらえませんか?」

「美弥っ」

「だって、同じ日本人だよ?それに、ラルより強かった」

「だからって着いて行くのは」

「でも、可能性はそっちの方が大きいよ」

「神崎さん、それは日本に帰る可能性って事かな?」

「はい。だって、異世界で日本人に会えるなんて凄い確率ですよね?それなら帰る事も可能なんじゃないかって思うんです」

「まあ、一理あるけど私は帰る事考えてないんだ。悪いけど」

「高野さんは心配じゃないんですか?私は家族が心配なんです!帰りたいんですっ!」


おおう……まあ、神崎さんの気持ちはわかるんだけど。

困ったなあ……。


「神崎さんは帰る方法を探したいんだよね?」

「そうです」

「それはどうやって?この国を出たらラルフォルトの威光は通じないけど?自力で戦う事は出来るのかな?どうやって食べて行くの?」

「そ、れは……」

「この世界では自分の事を自分で守るのは鉄則なんだ。魔獣がいる事が当たり前で、食われる事だって珍しい事じゃない。戦って自分を守らなきゃいけない。その覚悟はあるの?」


泣きそうに顔を歪めて俯いた神崎さんの眼から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。


「きついですね、高野さん」

「現実なんだよ。隣で笑い合ってた奴が次の瞬間に死んでる事だってあるんだ。お前らも知ってんだろうが」

「そりゃそうなんですけど」

「日本じゃ、そんな事無かったけどさ。ここが小説とかゲームの世界だと思ってるとあっという間に死んじゃうから」


ここに来たばかりの頃は、私だってそんな夢みたいな事考えてた。

世界一周なんてことが言えたのは、守って貰ってたからだ。


「た、戦えばいいんですか!?」

「は?」

「私も剣を持って戦えれば、連れて行ってもらえるんですか?」

「いや?足手纏いはいらない」


神崎さんは、泣きながら食堂を飛び出して行ってしまった。

それを追ったのは意外にもベント君だったと言う。


「……すまなかった」

「おっと、ラルフォルトがそう言うと思わなかったよ。どうした?」

「……いや。お前に損な役回りをさせた事くらいはわかる」

「へえ……」


やっぱラルフォルト、ちゃんと王子でもあるんだなあ。

ヴィーが気に入っただけはあんのか。


「まあ、気付いてると思うけど神崎さんは守られてんのがあってると思うよ?」

「……ああ」


あの子は剣を持った所で、自分の腕を切るタイプだ。

命を奪う事に躊躇ってしまっては、次の瞬間に自分の命が消える世界だから。


「所で、最後にカミル君と戦わせて貰えないかな?」

「……何故あれに拘る」

「強いから。損な役回りをさせた詫びって事でどうだろうか?」


そう言うとラルフォルトが溜息を吐きながら「わかった」と頷いた。

おっしゃ!


「で?どうする?今からじゃあれだし、明日街の外でどうだろう?」

「伝える」

「よろしく!んじゃ、乾杯!」


酒の入ったコップを合わせ、ラルフォルトと酒を飲みながらついでとばかりにこの国の話しをした。

クロイツェル王国ってのは、モルト河の支流が沢山あって、緑豊かである代わりに、こうして魔獣の被害が多い国なのだと言っていた。


「まあ、人が住みやすいって事は、魔獣も住みやすいって事だしね」

「お前達は、何処から来たんだ」


その問い掛けにジェイド隊長とオーラン先輩を見れば、頷いて来たので教える事にした。


「モルト河をずっと遡って行くと、ヨウグ連山ってのがあるんだよ。そこにリュクレースって国がある」

「リュクレース?」

「そう。ま、後で遊びにおいで。いちると愉快な仲間達の知り合いだって言ってくれればいいよ」

「……それで国に入れるのか?」

「話しは通しておいてやるよ?」


そうして笑い合いながら酒を飲んだ。

神崎さんは、この世界に来てからまだ一月くらいなんだそうだ。

そりゃあ、帰りたいだろうなあと思うけど。


日本に帰る方法ねえ……。

ああ、フラグニルに会えたら聞いておいてやろうと思った。

しかし、アイツに会える事あるんだろうか?


初掲2014,02,03.

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