異世界で忍者に遭遇するとは思ってもみませんでした。
「ほう?お前も日本人だと言うんだな?」
黒髪青年はひたすら居丈高な物言いをする人でした。
神崎さんに対するのとは大違いで、何かこう、ムッとしますよねえ。
「その通りだが何か?」
なので、ちょっと腹が立った私がそう言い返すと、あからさまにムッとした顔で私を睨んで来ました。ったく、余裕の無い奴ってのはつまらないですねえ。
リクト隊長なんて既に笑ってるってのに。
「……お前、俺が誰だか知らないのか?」
「ならお前は私が誰だか知ってるのか?」
ちょっと煽ってやったら、剣を抜こうとしたのでその手を蹴ってやったら、ロアの他のメンバーが動き始めた。私達を囲むように移動して来て、黒髪の青年が勝ち誇った顔をしてくるのを眺め。
「お前達莫迦だろ。こんな一般人が大勢いるような所で剣を抜こうとするなんて。勝負したけりゃ表に出ろ」
「……いい度胸だ。お前達、着いて来いっ!」
黒髪の青年がロアのメンバーにそう言って店を出て行くのを見送り、私はフェロモン青年に守られていた神崎さんに話し掛ける。
「何かごめんね?大騒ぎになっちゃったね」
「あの、いえ、こちらこそラルがあんな風でごめんなさい」
「いいのいいの。出てってくれたし、これで話が出来るもんね」
そう言いながら空いているテーブルを指して「あそこに座ろうよ」と言って神崎さんと二人、テーブルに着いた。
こちらは全員が笑っているけど、フェロモン青年には訳が分からない状態だろう。
勝負したけりゃ表に出ろとは言ったけど、私は自分が勝負したいなんて一言も言ってない。
ま、あのお馬鹿黒髪青年が戻って来るまでは静かだろう。
「あの、高野さん。高野さんはこちらに来てどれくらいですか?」
「あー、聞かれると思ったんだけどね。こっちに来てからはもう八十六年かなあ?」
そう言ったら神崎さんが絶句してしまった。
ああ、だよねえ、だと思ったよ。申し訳ない。
「偶々出た所がさ、チートな国だったんだよねえ。平均寿命が二百五十から三百とやらでね。どうやら私もそのチート国民になれたみたいで、今百十一歳なんだ」
神崎さん、それ以上目を見開いたら目玉落ちちゃうよっ!ってくらい、思いっきり目を見開いて凝視された。だよねえ、わかる、すっげえ良く分かるよ。
「……高野さん、私」
やっと戻って来た神崎さんがそう言った時、宿屋のドアが開かれ黒髪青年が入って来た。
ズカズカと音を立てながら歩いて来た黒髪青年は、私を青い瞳で見下ろしながら鼻の穴を膨らませていた。
「何をしている」
「何って、神崎さんと話をしてるんだけど?」
「ふざけるなっ!貴様、何故表に出て来ないっ!」
「えー?別に勝負したくないし、興味ないから」
「お前が表に出ろと言ったんだろうがっ!」
「勝負したいなら表に出ろって言ったんだよ。だから出なかった。分かった?」
その言葉にいきり立ったのか、黒髪青年が私を殴ろうとしたのを、神崎さんが止めた。
「ラルッ、止めてっ!私はこの人と話がしたいのっ、邪魔しないでっ!」
「駄目だ、認めない」
「どうして……どうして分かってくれないのっ!?」
「美弥こそ何故わからないっ!何度も危険だと教えたはずだっ!」
「この人は私と同じ日本人なのっ!」
「何故そんな事がわかるっ!?」
若者の青春ってのは、どうしてこう甘酸っぱいって言うか、きゅうっと来るって言うか。
思わずニヤけてしまうのは何故なんだろうか。
黒髪青年の言葉に神崎さんが悲しそうな顔をして黙り込むと、黒髪青年がとっても罰の悪そうな顔をしてた。そうだ、お前はちょっと反省するといいぞ?
「日本の人口は約一億二千万人。首都は東京。一都一道二府四十三県。海に囲まれた島国で、北は北海道、本州、四国、九州、沖縄が日本の領土である」
「お、前……」
「ま、日本人なら名前を名乗った時点でわかるんだけどね。ね?」
神崎さんへと顔を向ければ、とっても嬉しそうな顔で頷いてくれた。
ま、黒髪青年にはちょっとお仕置きした方が良いかもだねえ。
「なあ、お前を黙らせるには勝負しないと駄目なのかい?」
「……当たり前だ」
「じゃあちょっくら表行って来てもいいですかね?」
にこにこしながらヴィーへとそう言葉を掛けると、ヴィーも笑いながら頷いてくれた。
ジェイド隊長とオーラン先輩が立ち上がり、どうやら一緒に来てくれるみたいだと思ったら、二人から同時に頭を叩かれた。
「テメエ、何調子乗ってんだこの野郎」
「で、でもさっき私出番なかったし、大人しくしてたじゃないですかっ!」
「いちる、負けたらわかってるよな?」
ジェイド隊長の厳しい眼差しに、こくこくと頷けばもう一度頭を叩かれた。
くそ、今ぐらい格好付けさせてくれてもいいじゃないか。
黒髪青年を置き去りに、三人でそんなやり取りをしながら表に出たら、黒髪青年に神崎さんがこんな事は止めて、女の人相手に何をしようとしていると必死に言ってくれてた。
何て良い子なんだろう。
「神崎さん、危ないからちょっと下がってた方が良いよ?」
「高野さんっ!駄目ですよ、高野さんは女性なんですからっ!」
「いいのいいの。ま、おばあちゃんに任せなさいってね。言う事聞かない奴にはちょっぴりお仕置きも必要って事で」
ちょっぴりで済ます気なんて更々ねえけどな。
にっと笑いながらそう言うと、神崎さんはそれでも、だけどとか、でもとか言ってたけど。
フェロモン青年がそんな神崎さんを連れて離れてくれたので、フェロモン青年とは後で一緒に酒を飲もうと思う。
「んで?夕方の宿屋前の通りを塞いでおっぱじめようとしてるお馬鹿さんは誰かなあ?」
そう言ったら黒髪がムッとしながらも、着いて来いと言って歩き出すので今度は大人しく付いて行った。宿屋からあまり歩く事も無く空き地に到着した私達は、そこで勝負をするようで。
「全員対私一人ってどうよ?プライド粉々になりそうで面白いよね、きっと」
「貴様っ!いい加減にしろっ!」
「じゃあどうやって勝負付けるつもり?」
そう言うと黒髪青年が後ろを振り返り、メンバーの中でも大柄な、ギルニット隊長みたいな体格の青年を出して来た。
「お前などコイツ一人で充分だ」
「ふうん」
大柄な男を怖いと思う女ばかりだと思ってる馬鹿め。
こちとら見慣れてんだよっ!
「素手かな?それとも剣?」
「剣で勝負だ」
「ふうん。じゃあ私は素手でいいや」
ニタリと笑いながらそう言うと、黒髪青年が再びいきり立った。
可哀想に。こんなお馬鹿青年に仕えなきゃいけないなんて哀れだ。
「よろしくお願いします」
大柄青年に向かってぺこりと頭を下げた後、風の魔法で一気に詰め寄り、目の前で飛び上がって顎に手を掛け、そのまま後ろへと落ちながら膝の後ろを蹴ってやれば、がくんと地面に膝を付けた。
「まずは一人目」
そう言って笑って見せれば、黒髪青年がぽかんと口を開けて私達を見ていた。
「次は?誰かな?」
笑いながらそう聞けば、我に返った黒髪青年が次々とメンバーを出して来た。
面倒だから一気に来てくれてもいいんだけどな。
そうして次々と撃破した私は、思いっきり高笑いしてやった。
「ほーっほっほっほっほっほっほっほっ!素手の女にコテンパンにされちゃうなんてっ!ほーっほっほっほっほっほっほっほっ!笑いが止まらんわあっ!」
これでもかってくらいの高笑いは、見学者達からも好評であった。
「いいぞ、姉ちゃんっ!」
「もっとやれっ!」
「どーもどーもっ!ありがとうございますっ!」
空き地周りに集まっていた皆さんに挨拶をしながら振り返り、満面の笑みで黒髪青年を見れば、とっても悔しそうに顔を歪めた後剣を抜いた。
「そうこなくっちゃねえ」
そう言いながら躊躇いもせずに抜剣すれば、眺めていた皆さんが遠巻きになる。
神崎さんが止めようとしたみたいだけど、フェロモン青年が抑えてくれるみたいなので、神崎さんの事はお任せした。
「ほら、来いよ」
「……愚弄するのも大概にしろっ!」
踏み込んで来ながら剣を振り下ろし、それを避ければ横薙ぎにしてくる。
一度下がってまた振り下ろし、今度は斜め上に切り上げて来る。
なるほど、お手本みたいな剣だ。
「いちる、三撃だな」
「ええっ!?」
「やれ」
くそっ!
のんびりと眺めているオーラン先輩とジェイド隊長から命令を受けてしまったので、仕方なく三撃で倒さなければならず。
三撃ってのは、リクト隊長の得意技の一つで、一撃目で剣を合わせ、二撃目で弾き上げ、三撃目で止めを刺す事を言う。
まあ、技量の差が無ければできない技なので、私は黒騎士相手には使えないんだけど。
黒髪の剣を避けながらいつ仕掛けるかを見計らい。
そうして三撃目で首へと剣を向けようとして止め、慌てて後ろに飛んだ。
体勢を素早く立て直して身構えれば、隣にオーラン先輩が抜剣して並んだ。
「こちらから仕掛けはしない。だが、主の身は守らせて貰う」
私と黒髪の間に割って入って来た焦げ茶の髪の男がそう言った。
おおお……何こいつ、すげえな。
「……やってみてえ……」
「俺もだ」
思わず呟けば、珍しくオーラン先輩が同意した。
良かった、頭叩かれなかったよっ!
割って入って来た男は名をカミルと言うらしい。フェロモン青年がベントで、黒髪はラルフォルト。黒髪はやっぱり王子だった。
「え、カミルさんって何処に潜んでたの?全然気付かなかったんだけど?」
「俺もだ。初めてだぜ」
オーラン先輩と話し掛けると、カミルさんは無表情のまま何も答えてくれなかった。
「あの、カミルさんてとっても無口で。気を悪くしないで下さいね?」
「いやいや、とっても気分を害したからちょっと勝負したくなっちゃったなあ」
「しょうがねえ、付き合ってやるぜ?」
「え……あの、でも」
「大体、最初っからカミルさん呼べっつうの。お前使えねえのなあ?」
「なっ、貴様っ!いい加減に」
「ねね、カミルさん、ちょっとでいいんですよ、相手して貰えませんかね?」
「俺はたっぷりがいいな?」
オーラン先輩と二人でカミルさんに猛アタックを掛けているのですが、悉く無視されてます。神崎さんのフォローも何のその、完全無視されてますが諦めません。
やっと反応してくれたと言うか、こちらをジロリと睨みつけたカミルさんは、ふっとその場から姿を消した。
「……忍者あああああっ!!!」
思わずそう叫んで喜べば、オーラン先輩から八つ当たり気味に「うるせえっ!」と頭を叩かれた。
相変わらず理不尽だと思います。
初掲2014,02,03.