異世界で日本人に遭遇するって、宇宙人に遭うより凄いよね?
「黒髪……?」
大陸の中程にある大きめの国、クロイツェル王国でいつものように魔獣討伐依頼を請けた私達は、同じく依頼を請けたと言う『ロア』と言う人達と宿屋がかち合い、テーブルに着いた一人にマジマジと眺められてそう言われた。
この国でもまだ金髪碧眼が主流ですが、一応茶色の髪や茶色の瞳の人もいたりします。
ですが、黒髪はまだ見た事が無いのでこの反応も仕方が無いっちゃ仕方が無いのですが。
「何でしょう、まだ観察されてますが」
「ある意味要注意人物って一目で見抜いたんじゃねえか?」
「む。こんな可愛らしい私を捕まえてそんな失礼な」
オーラン先輩にそう言い返せば、ヴィーがクスクスと笑い、ギルニット隊長とリクト隊長がニコニコと笑い、ジェイド隊長は無表情で、オーラン先輩は溜息を吐いた。
くそ。
「噂では、ロアって集団は王子様が混じってるって話しですよね」
「へえ、そうなんだ」
「ま、珍しい事じゃねえよな」
リクト隊長からもたらされた情報にヴィーが答え、オーラン先輩がそう言って笑う。
まあ、王子様なら家にもいますしね。元が付きますけど。
「つうか、この国では討伐組はそれぞれに名前付けるんだな?」
「はいっ!名前は『いちると愉快な仲間達』が良いと思いますっ!」
ちゃんと手を上げてから発言したと言うのに、オーラン先輩に頭を叩かれた。
「何だ、愉快な仲間達ってっ!」
「絶妙な名付けですよね?」
そうして笑いながら食事をして酒を飲み、部屋へと上がる。
全員が私達の部屋へと入って来て、ヴィーの遮音の魔法で遮った後話しを始めた。
「ずっと観察されてましたね?」
「ロアのメンバーの中で黒髪ってのが意味があるのかもしれねえな?」
「もしかしたらこの国って事かもしれないよね?」
「えー、それは勘弁して欲しいです」
食事をしながら、酒を飲みながらこちらでもロアの観察をしていた。
向こうもこちらを伺いながら食事をしてたので、やっぱり私のこの黒髪が何かあるんだろうって思ったんですよね。
取り敢えず警戒を怠るなと皆から釘を刺された私は、何だか面倒な事になりそうで嫌だなあと思ったんですよねえ。
そうして翌朝、受けた依頼を熟す為に宿屋を出てリドルに跨れば、調度ロアのメンバーが宿屋から出て来る所でした。
「おはようございます、清々しい朝ですね!」
「お、おはようございます」
「私達は今からフェルリアに向かう所ですが、皆さんは?」
「……わ、我々は」
「何してんだ?朝から女誘っ、て……」
昨日私を見て思わず声を上げてしまった人がいたので声を掛けて見たんですが、調度宿屋から出て来た人に遮られました。
長い金髪を後ろで一括りにして、着ているシャツのボタンをお腹の近くまで開けている色っぽいお兄さんでした。いっその事着なきゃいいのにっ!むしろ脱げばいいのにっ!何て思いながらも、にっこりとほほ笑みます。
「おはようございます」
私を見てぽかんと口を開けていたフェロモン兄さんは、私が声を掛けた事で我に返ったらしく、挨拶をしただけだと言うのに何故か警戒された。
「私達も魔獣討伐組で、いちると愉快な仲間達と言います。よろしくお願いしますね」
「……行くぞ」
「はい。では失礼します」
フェロモン兄さんと私の間にオーラン先輩が入って来て声を掛けて来るので、フェロモン兄さんに挨拶をしてリドルを歩かせる。
背中を追ってくる視線を感じながらも、そのまま街を抜けた。
「てめえ、自分から近付くんじゃねえっ!」
「でもこれではっきりしたじゃないですか。私の黒髪がヤバいって」
「うん、まあいちるの言う事も一理ありだね」
「そうだな。何を警戒すればいいのか明白になっただけでも動きやすい」
「いちる、エルヴィエント様から離れるなよ?」
「はあい」
ヴィーと並んでリドルを走らせながら、その周りを皆が囲むようにした後移動を開始しました。ヴィーを守りながら面倒な私もそこに括り付けとけ作戦です。
まあ、守られる対象は一纏めにしておけってのは鉄則ですからね。
そうしてフェルリアへと移動しながら、出会った魔獣を討伐しながら進み。
フェルリアで討伐依頼を正式に請けた後、もう一度街を出ました。
フェルリアからさほど離れていない、アレニアと呼ばれている森の中にエイドラと言う魔獣が巣食っているらしいのです。エイドラってのはリュクレースにはいなかった魔獣で、何て言うか、見た目が気持ち悪い奴です。
緑色の肌をしてて六つ足で、やけに長い耳が生えてて。
俊敏な動きと凄い跳躍力、そして瞬発力のある魔獣なんですよ。
ただ見た目が気持ち悪いんだよなあ、せめて毛が生えてりゃ良かったんだけどなあと思いながらも、アレニアの森に入り、エイドラの巣穴を探しました。
「北西から七体、南東から五体」
そう言うとジェイド隊長とオーラン先輩が北西へと走り、ギルニット隊長とリクト隊長が南東へと走った。
私達はその場で立ち止まり、皆が戻って来るのを待ちました。
いやあ、良かった、見なくて済みそう。
ロアが来たら面倒だからって事で、私は今日の討伐に参加するなと言われたので、こうしてヴィーを守る事に徹しております。
守る必要があるのか?何て思いますが、念の為、一応みたいな?
「エイドラが増えるってのは、確かにちょっと嫌だろうね」
「ですよねえ。せめてもう少し見た目に気を使ってくれるといいんですけどね」
そう言うとヴィーが笑い出す。
「どうやって?」
「んー……あの長い耳を縛ってリボンみたいにしてみるとか?」
そう言ったら更にヴィーが笑ってた。
「巣穴に入ったらそうしてみようね」
ヴィーがまだ笑いながらそう言った。
そうして戻って来た四人と一緒に、再び森の奥へと入って行った。
途中何度かエイドラの襲撃を受けたので、やたらとエイドラが繁殖して増えてしまったのが良く分かりました。
「他の魔獣がいねえもんなあ」
「負けちゃったんでしょうね」
岩がぽっかりと口を開けたようになっている洞穴の前で、オーラン先輩とそんな会話をし。
「あ、エイドラの長い耳をこう、頭上でリボンみたいに縛ってみて下さいね?」
「冗談じゃねえ、触りたくねえんだよっ!」
「えー?でも、そうすればちょっとは見た目的に可愛くなるかもしれないじゃないですかっ!」
「お前は魔獣に何を求めてるんだよっ!」
そう言ったオーラン先輩に頭を叩かれながらも、諦めきれずにリクト隊長にもお願いすれば「やだ」と一言返され。
ギルニット隊長は聞こえない振りでさっさと巣穴に入って行き、ジェイド隊長は私へと冷たい視線を投げた後入って行きました。
「……冷たいわあ……」
「いちる、その内機会に恵まれるかもしれないから、楽しみに取っておいた方が良いよ」
「そうかもですけど」
巣穴の前で待ってろと言われた私達は、大人しく戻って来るのを待っている訳ですが。
実につまらん。
四人と合流してからと言う物、出番が減ってしまった私は不服の不を発動したいと思います。
まあ、黒騎士の隊長三人と隊長クラスのオーラン先輩からしたら、私ひよっ子ですからねえ。実力不足だと言われてしまえば、もう何も言い返せない訳ですよ。
まあ、エイドラの場合は初めて知った魔獣って事で、まだ分かっていない所があるから仕方が無いんですけどね。
そうして不満気にしながらも、ヴィーと二人で待っていると四人が巣穴から出て来ました。
魔獣を狩った証として魔核と呼ばれる、魔獣が持つ魔力の源みたいな小石を袋に入れ、そうしてフェルリアの街へと戻りました。
エイドラの数はだいぶ減らせたようで、帰り道は襲われる事も無くすんなりと森から出られた。フェルリアで討伐成功の報酬を頂き、今日は何を食べようかと思いながら宿屋へと行けば、そこにはフェロモン兄さんがいらっしゃった。
「またお会いしましたね」
そう声を掛けると、フェロモン兄さんの後ろから可愛らしい声で「嘘……」と言う呟きが聞こえ。その後フェロモン兄さんの後ろから人が飛び出し、私はオーラン先輩に引っ張られ、ジェイド隊長が飛び出した人物の行く手を阻みました。
おっと、やべえ用心しろって言われてたんだった。
ジェイド隊長の前で足を止めたその人は、フードを目深に被った小柄な女性のようでして。
……ん?
「莫迦っ、何してるっ!」
フェロモン兄さんが慌ててその人を引っ張って後ろに追いやり、そうしてジェイド隊長と対峙した。
「いや、申し訳ない」
「あのっ、もしかして日本の方ではっ!?」
目深に被っていたフードを外しながらそう言って来た女性の髪は、確かに見慣れた黒だった。フェロモン兄さんがその行動にぎょっとして慌ててフードを被せようとしてたけど、驚いたのはこっちも同じで。
「え……日本人っ!?」
「ああ、やっぱりっ!私、日本人ですっ、神崎美弥と言いますっ!」
「うおおおお、何これ、凄い。えと、高野いちるです」
神崎美弥と名乗った女の子は、私の答えを聞くとボロボロと泣き始めてしまい。
ええと。
「話しをしてもいいですかね?」
「……一緒に聞こう」
「えー?でも、女の子ですし男の人は怖いんじゃないかな、とか思う訳ですよ」
「あっちにも変なのがいるだろう」
「ああ、いっそ脱げって感じですよね?」
ぼそぼそとヴィーとそんなやり取りを交わしながら、泣いてしまった女の子を慰めているフェロモン兄さんを眺めた。
んー……。
「何事だ」
食堂へと入って来た人が、この騒ぎに声を上げるのでそちらへと視線を向ければ、声を上げた青年も黒髪じゃあありませんか。
いや、でも眼が青いっすね?
遺伝子的に有り得ない色な気がしないでもないですが、こっちの世界ではありなんでしょうね、きっと。
「美弥、何故泣いてる」
青年がそう言いながら女の子へと優しく声を掛けたのを、思わずニヤニヤしながら見ちゃいました。もしかしたらあれですか、青春してたりするんですかね?
逆ハーレムお嬢さんでしたかね?
「……噂の王子っぽいですね」
「だろうね」
相変わらず警戒したままのジェイド隊長、オーラン先輩は私達の前を、ギルニット隊長とリクト隊長は私達の後ろからずっと眺めてました。
さてさて。
初掲2014,02,03.