本編
自己紹介します。
俺は大納教佑、17歳。
魔法が生活の一部になっているほど当たり前に存在している世界に在る国の一つ・ランドファール王国の…いわゆる豪商の家に生まれ育った、現在は王都立魔法庁付属学園高等部は魔法科学科に通う しがない男子高生です。趣味はお菓子作り。
長くもなければ短くも無い、どうしたって校則に引っかかりようもない模範的な髪型の真っ直ぐな黒髪に、若干吊っているようにも見えなくもない切れ長の目は焦げ茶色。朝も昼も夜も深夜も早朝も関係なく、トイレと食事とお菓子を作っている時以外は何かしらの本を読んでいるせいでガンガン落ちた視力を補うためにノンフレーム眼鏡を掛けてます。…え?睡眠?…ああ、たまに意識失うことがありますけど、読み始めるといつまででも読んでるんで“寝てる”って自覚はあんまり無いんですよね…。
魔法とは何か、どこからくるエネルギーで、どうやって使っているのか…と言う、幼い頃から抱いている素朴な疑問を解決するためにとりあえず興味の赴くまま適当に勉強していたら、魔法庁…つまり、国どころか世界単位で有能な魔法使いたちが集い、様々な事象を研究または新たな魔法式を開発等々しているまさに“魔法”に関する最高機関になるんですけど…、その魔法庁が設立し運営している中高一貫のこの学園に何故か主席入学を果たしてしまった、あくまで普通の男子生徒です。
顔も含め、俺みたいな奴そこらへんにいくらでもいますから…。
どれだけ食べても贅肉が付かない体質らしいんですけど、逆にどんッッ…ッだけ鍛えても まっッ…ッたく、筋肉つかないんで、でも身長は低くはないから見た目結構かなり相当ヒョロヒョロです。さらに日焼けも出来ない…あ、なんかの病気とかじゃなくて、普通に赤くなって火傷するんで…。…なので、日に焼くことも出来ないから、肌は女子が羨むほどの美肌で美白だったりしてます。
女子に間違えられることはないんですけど、…それが悩みと言えば悩みですかね…。……
「…っあ♪!見てっ!叶くんよ!叶が来たわっ!」
「きゃー!叶くぅんー♪」
「いやぁーん♪叶くんこっち向いてーっ♪♪!」
「今日も素敵よ叶くんん~♪♪」
「お早う、可愛いレディーたち。今日も元気そうな姿を見れて、僕はとても安心したよ☆」
「「「「キャ-----♪♪♪!!!!」」」」
…すみません、嘘つきました。
俺の目下の悩み、コレでした。…
正門から昇降口まで続く学校のグラウンド…と言うよりも、もはや城の前庭と言った方がよほど相応しい、手入れの行き届いた緑あふれる美しい道を歩いて登校していた俺の後ろへと、女子たちが突然一斉に色めき立って黄色い悲鳴を上げる。
…誰が登校して来たかなど見なくても分かる。
「…はぁ…。…」
つきたくもない溜め息が勝手にこぼれてしまい、俺は一つ、大きく息を吸ってから静かにゆっくりと吐き出した。
止めていた足を返して、今歩いてきたばかりの綺麗な石畳の道を振り返る。
「ああ、やっぱり教佑だ。お早う。今日もいい天気だね☆」
「…おはよう、ウィル。相変わらず笑顔が眩しいな?…」
俺に気付いたらしい奴…叶ウィルソンは、いつも通り魔法で出した光でキラキラと演出させた胡散臭い笑顔をさらに大きく浮かべながら、謎に小走りで近寄ってきた。
「あはは!ちょっとしたサービスじゃないか。やっぱり“王子さま”には、キラキラしててほしいもんなんでしょう??」
「いや知らないし どうでもいいし…。大体お前、“王子”じゃないじゃん」
俺の横に着いたと同時に、後ろ首に体重と共に乗せられたウィルソンの右腕を にべもなく払う。
「つれないなー」なんてふざけたことを言う奴など気にせず歩き出せば、一向に消す様子の無いキラキラ効果魔法を纏わせたまま、無駄に優雅にウィルソンも歩き出した。
ウィルソンとは中等部からの付き合いで、ある人物が切欠で交流を持つようになった…たぶん、友人?だ。…色々非常に、非ッッッ常に、本当マジで果てしなく面倒くさいが、根は悪い奴じゃない。…うん、根は悪い奴じゃない。…うん。…
奴は、いわゆる貴族と呼ばれる家の生まれ…と言ったら何となく誤解されそうだけど、庶子でも妾腹でもなんでもなく普通に嫡子で跡取り息子。爵位は、確か伯爵だか侯爵だか…?…まぁ、いずれにしても上級貴族。
人好きのする柔らかで端正な顔に大体いつも笑みを浮かべていて、左耳下辺りで一つに纏められた肩よりも長い金髪はビックリするほどサラっサラ。で、やけに太陽光に光り輝いているけどそれって絶対魔法使ってるよな…?
女子たちが言うには“青空を切り取ったかのように美しく高貴な色”だと言うブルースカイの瞳は涼やか。若干丸めだが、それがかえって柔和な雰囲気を与えてるのかも知れないな。
体格は着痩せする細マッチョ。少なくとも、絶対に俺よりはしっかりしている。……なんで俺、筋肉付かないんだろう…。…
ウィルソンは俺と同じ魔法科学科の2年で、クラスメイトでもある。ちなみに次席はこいつ。と言ってもそれはあくまでテスト上でのことであり、実技なら間違いなく奴のが強いし魔力も多い。
センスもずば抜けて高いし、直感型の天才なんだろ。
あ。あと、基本的に手は出さないが女好きだ。
自分の容姿が女性受けすると分かった上でさらに効果的な見せ方を研究してきては惜しみなく披露してキャーキャー言われる。それが大好きな優男(ナンパ野郎)。
物腰柔らかで絶対に女性を無下にしないから、どこへ行っても女性に囲まれている。
…女性ってほんと分からない…。こんなハーレム製造機の何が良いんだろう…。…
そんな感じで、ウィルソンは顔良し・頭良し・家柄良し、ついでに性格も…女性が絡まなければそんなに悪くないから、実力重視で学費も安いため階級関係なく生徒が通うこの学園で、主に玉の輿を狙う女生徒に人気が出ないわけがなかった。
「叶くんー♪」
「おはよー叶くんっ」
「おはよー」
「お早うございます」
「んもうっ!遅くってよっ!」
赤い屋根に白い外壁の、荘厳で厳格な雰囲気を醸し出す由緒正しき歴史ある学び舎へと足を運ぶ俺たち…正しくはウィルソンへと掛けられる女子たちの場違い感半端ない声は、通路から学び舎の窓からと絶え間ない。
隣りを歩く奴は声を掛けられるたびににこやかに手を振り、抜かりなく挨拶を返していく。
「待たせちゃってごめんね?皆お早うー。 …あれ?サフレちゃん、口紅の色変えたの?可愛いねぇ。とても似合ってるよ☆ ああ、お早うアイリ嬢。髪留めを新しくしたんだね?白は君を映えさせるために在る色だったんだね。とっても可憐だよ…。 お早う雪ちゃん。今日も君は麗しいね。…このシイの葉も、君の髪があまりにも美しいから触れたくなってしまったのかな?…ふふっ。妬いてしまうね」
…セリフは違うが、毎朝毎朝呆れを通り越して感心する…。
口紅の色って、あの子何か変わったか?髪留め?同じじゃないの?妬くって何に??髪に葉っぱが付いてただけだろ?? …て言うか、全女子生徒の名前覚える前に術式覚えて来いよ…。お前暗記物の書き取りで毎回点数落としてんじゃん…。…
きゃあきゃあと華やぐ空間の中心部にあって完全な空気と化している俺は、毎度のことながら精神的疲労による溜め息を禁じ得ない。
…自分には決して言われていないのに、このキャーキャーと甲高い声がガリッガリ俺の何かを削るのは何故なんだ…。…ウィルソン、お前マジでなんで平気なの…?…
校舎への道を三分の二ほど歩いた程度でまだ昇降口にも辿りついていないというのに多大なダメージを着実に蓄積していく俺に、全ての元凶は にへらっと癪に障る笑顔で、もうすっかり忘れていた先ほどの続きらしい話をしだした。
「…確かに、僕は王族ではないけどね。彼女たちが望むなら、僕は“学園の王子さま”になることも やぶさかではないんだ。 おかげで魔法の制御力と技術力も上がるし、女の子たちが笑顔でいてくれるなら、これ以上しあわせな事ってないだろ?まさに一石何十鳥?濡れ手で泡泡だよ♪」
「どんだけ利益得るつもりなんだよ。あと“粟”な? 泡はしっかり流さないと肌荒れる」
「あははは!教佑 肌綺麗だもんねー。手入れは何してんの?美容液とか使ってる??」
「女子とやれ」
「もちろん教佑に興味なんて無いよー。皆に教えてあげたいから聞いてるだーけ☆ 妬かないでー??」
「うぜぇ…果てしなくうぜぇ…」
「そうだ。放課後空いてる?ちょっと相談に――…、……」
何かを言いかけて言葉を切ったウィルソンは唐突に歩みを止めると門の方へと振り返り、あのクソ腹立つ笑顔をも止めて空を仰ぐように上を見た。
ウィルソンの真剣な横顔を見た後で俺もウィルソンよりも2、3歩進んだ場所で同じように空を仰げば。
間もなく、奴の挙動不審の理由を知った。
「―――…!――…!!――~…」
言葉は聞き取れないものの、間違いなく“空から”聞こえる女子の声。
それを聞いた途端、ウィルソンの顔は今日見たどの笑顔よりも優しく、柔らかく…そして、自然なものに。
対照的に、見上げるのを止めた俺の眼は死後3日は常温放置された魚の眼とそう変わりなくなったに違いない。
…何故ならば。
「…っウィルー!」
「心愛…っ!」
“本番”はここから始まるのだから…。…
「おはようウィルっ。今日もナイスキャッチ!だねっ」
「お早う心愛。当然だよ、僕が君を落とすとでも?」
「んーんっ。思ってないっ」
空からウィルソン目掛けて真っ直ぐ落ちてきた少女を風魔法を発動させ…たのはいいがウィルソン、風に舞う無数のバラの花びらの幻影はどう考えても必要 無……あーまぁとにかく、難無く受け止めた俺の友人(推定)の首に、奴に横抱きにされた少女…心愛・ロイコットが嬉しそうに躊躇なく抱き付いた。
俺はじわじわと襲い来る、今はまだ鈍い頭痛に、瞼を下ろして右手で軽くこめかみを揉み解す。
心愛・ロイコット。飛行通学の女生徒で、俺たちと同じ学科・同じクラス。成績はウィルソンの次。
実家は郊外に在るそこそこ人気のカフェを営んでいて、ウィルソンとは中等部から、俺とは幼稚園の頃から付き合いがある幼馴染だ。ちなみに、俺がウィルソンと話すようになった切欠の人物とはこいつのこと。
入学式の時にウィルソンに一目惚れしたらしいが、当時は心愛は俺たちとクラスが違ったし直接話しかけるのは恥ずかしいからと、「男の子だしクラスメイトだし何とかしてね!」という全くもって意味不明な無茶振りによって事ある毎に引っ張り回されダシに使われまくった結果、いつの間にか心愛抜きでも見かけたら声かける程度には関わりを持つようになったんだ。
毛先だけ巻かれた胸元まである赤い茶髪は昔から変わらず耳の上辺りの高さで結わえられたツインテールで、長い睫毛に縁取られた猫のように丸く、大きく、目尻だけ若干吊っている瞳は紅茶のように澄んだ葡萄色。顔つきは完全に可愛い系だな。
桜色の厚い唇は薬用リップだけでぷっくりふるふると潤い、丸めの頬は白く、そこも含めた身体つきは他の子と比べると微妙に肉付きが良いような気がしないでもないが…それを言うとウィルソンの変なスイッチが入って、心愛の魅力(主に抱き心地について)を延々3時間はマシンガントークされる。だけじゃなく、その後1週間は ふとした時に語りだすから、命が惜しかったらうっかりでも口にしてはいけない。
あと本人に言うのもNGだ。こいつすぐ無茶なダイエットに走って身体壊して、原因突き詰めたウィルソンに烈火のごとく怒られるから。俺が。
またもや勝手に出てしまう溜め息をつく。
気が済んだのか、ウィルソンに抱き付いていた心愛が横抱きにされたまま、奴から少し身体を離して俺に話しかけてきた。
「教ちゃんも、おはようー。まーた寝ないで本読んでたんでしょうっ。顔色、すっごく悪いよ?」
「…ああ、おはよう心愛。確かに、ちょっと頭痛いかもな。それじゃあ俺は先教室行って少し寝」
「ダメだよ!また倒れたらどうするのっ?危ないから、一緒に行かなきゃダメっ」
食い気味に遮られた、態よくここから離脱しようとしての言葉。
くっそ…!心愛お前この空気読め!読んでくれ!!
確かに、過去何度も寝不足で所構わず意識失って倒れた俺も悪いけどさあっ!俺今は絶対大丈夫だからその気遣いは心底無用だ!迷惑だ!!
「そうだよ教佑。水臭いなー。心愛を心配させるなんてどういうつもりなんだ」
うざい真顔で追従するウィルソン。
…お前がどういうつもりだよ…。ここは、「そうだね。僕らに構わず、先行って休んでなよ」って言うのが普通じゃないの?お前に優しさは無いの??
俺はもう、げんなりとした顔しか作れない。
ズキズキと痛みを増していく頭痛に再び強く目を閉じる。
絡まれるのが嫌ならこいつらが来る前に登校するなり無視するなりすればいいだけじゃんと思うだろうが、先に行ったら水臭いと拗ねられ、無視したら嫌いになったのかと詰め寄られ……嫌いだと言えば心愛が泣いて、ウィルソンのウザさが振り切れる。
こっそりと先に行くという選択肢も、もちろん無い。あとで心愛がうざいから。そして何よりもウィルソンがうざいから。
…何でこいつら、こんなに俺に構ってんの…?
「教ちゃん、いいこと教えてあげようか。あのね、量は忘れちゃったんだけど、毎日ココアを飲むと身体に良いんだって。明日から作ってきてあげるから、飲んだ方がいいよ! あ、ウィルも飲む?」
「ありがとう。でも、僕はいいかな」
「あれ?ココア嫌いだった?…もしかして、本当はチョコレートも苦手…?」
「ふふっ、違う違う。どっちも大好きだよ?でも、どっちも僕には必要ないってこと。…だって毎日、僕は心愛を食べてるでしょ…?」
「!…もー…っ!」
うふふあははと二人の世界は終わらない。
俺の頭痛は酷くなる一方だ。お前ら朝から糖分過多なんだよ砂糖吐くわ。
これ以上は耐えられずに くるりと踵を返してスタスタと昇降口を目指せば、当然のようにウィルソンも心愛を抱えたまま、イチャついたまま半歩後ろを付いて来る。
…ああ、うん。お前が何だかんだ面倒見良いのは知ってるよ。俺も何度も助けてもらってるしな…。
だからほんとは文句言える立場じゃないんだけど、その厚意はひたすら要らない。気付いてくれ、俺全力で嫌がってる。
そんな願いも虚しく、とばっちりな衆人観衆に晒されながらも自分の下駄箱に辿りついた俺は…。
抱えた心愛を下ろすことなく風魔法を無駄に駆使して上履きに履き替えたウィルソンが、やはりその状態のまま、手ずから心愛の靴を脱がし、上履きに履き替えさせる様子を横目に見下ろして重たすぎる吐息をついた。
…ああ、いつもと同じ、いつも通りの登校風景…。
何も変わらない、平和な朝の景色だよ…。
だがな、やっぱり俺は思うんだ。
…お前らほんと、よ そ で や れ 。




