表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

合宿前の梅雨

憧れの先輩であるケイコ先輩が副部長と付き合っていることを知り、鬱々とする

タケシ。しかし、そんな気分を吹き飛ばしてくれるかもしれないイベント、

合宿が間近に迫っていた。

「最近、何か調子悪いよね。」


いつもの帰り道。本格的な梅雨を迎え、今日もまた

大降りの雨が降りしきっている。用水路を流れる水音、

雨が地面や傘を打つ音、それらがいつもの3人の周りを

やかましいほどに纏わっていたが、アオイの声は、

はっきりと聞こえた。

ブランクを埋めたアオイは、相変わらず、毎日の練習で

腕を上げ続けていた。夏が終わる頃には、一軍加入が

ほぼ確定だろう。ヒロノブはヒロノブで、練習中にお喋りを

欠かさない不真面目さでも、それなりに上達していた。

そうなると、アオイの言葉が誰に向けてのものなのかは

すぐ分かる。


「この前の食中りが、しつこくてね。」


事実、ボクは数日前に、梅雨の湿気でやられた菓子パンを

食べて以来、食中り気味の症状が長く続いていた。それもまあ、

不調の原因の一つだろう。

でも、やっぱり不調の一番の理由は

ケイコ先輩のことだった。ボクは、憧れのケイコ先輩と

お近づきになりたいと思っていただけで、お付き合いとまでは

考えていなかった。だから、別にケイコ先輩と副部長が

付き合っていたとしても、それほどショックはないはず。

傍から見れば、アオイが言うように、二人はお似合いの

カップルだ。「お二人とお幸せにね。」そう割り切ってそれで

終わるのがベストなのは、頭では分かっているつもりだ。

それでも、ケイコ先輩が副部長と付き合っていることを

知ってからは、今まで以上に、ケイコ先輩の姿がボクの目に

映るようになっていた。

なるほど、確かに注意して見ると、部活中、ケイコ先輩と

副部長はよく一緒にいた。二人が一緒にいるのを見ると、

ボクの胸は何かこう、ぎゅうっと押し潰されるような感じがした。

副部長といるときのケイコ先輩の顔は、いつもより

楽しそうで嬉しそうで。笑ってる目、笑ってる口、くちびる。

見てはいけない、見るのはもう止めようと、ケイコ先輩を

視界の外に置こうとする。でも、ボクの見ていないところで

二人が何をしているのか気になってしまい、ついケイコ先輩を

目で追いかけてしまう。ボクの葛藤など全然知らないケイコ先輩は

いつもと変わらず、笑っている、副部長と一緒に。それを見て、

またボクの胸は、得たいの知れない何かに押し潰される。

こんなことを何度も繰り返しているわけだから、部活に

集中できるはずもなく、ヒロノブがブランクをほぼ完全にブランクを

埋めた一方で、ボクは未だにブランクを埋めきれずにいる。

それでもアオイは、粘り強く適格な指導を続けてくれていた。

こんなボクのために、一生懸命になってくれるアオイに、

一言ぐらいはお礼と不調で迷惑をかけていることへの謝りの言葉でも

言おう、そう思い、隣りに並ぶアオイの方に顔を向けた。

ちょうど、その時、反対側に並んでい人物からの声。


「大丈夫かよ。タケシ。あともう少ししたら、合宿だぜ。

 旨いもん、食べ放題だぜ。」


梅雨など全くきにしていないかのような、あっけらかんとした

ヒロノブの声だ。


「合宿で練習するんだけど。グルメ旅行じゃないんだけど。」


アオイの冷静なツッコミにめげることなく、

ヒロノブが反論しようと上半身を前にかがめ、自分の顔をアオイの方に

大げさに向けた。ヒロノブの顔が、ボクの胸辺りまで近づく。


「アオイさんは、ばっかだなー、馬鹿。合宿ていうのは

 いつもの練習の息苦しさから解放されて、パーっとやるもんなんだよ。

分かる?」


「アンタ、普段の練習で、息苦しさなんて感じてんの?

あんだけ、べらべら喋ってるくせに。」


「アオイくん。だからね、そこはね・・・。」


ボクを挟んで、アオイとヒロノブの合宿話が始まった。

そういえば、ケイコ先輩のことでほとんど忘れていたが

夏になるとボクたちの部は、合宿に行くことになっている。

間にいるボクのことは全く気にせず、二人の合宿話は、まだ続いている。

何も知らない人から見れば、二人が口喧嘩しているように

見えるかもしれない。でも、この二人から楽しげな雰囲気が出ていると

分かるのは、ボクたちが長い付き合いだからだろう。

何だかんだいって、アオイも合宿を楽しみにしているようだ。

このタイミングで、アオイにお礼と謝罪の湿っぽい言葉を言うのは

ナシだな。そう思い、ボクは二人の合宿話に加わった。


合宿の頃には、この雨空も晴れているだろう。

そして、合宿の楽しさで、ボクぼ心も少しは晴れているかもしれない。

そう思うと、合宿の日が待ち遠しく感じた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ