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ボクとヒロノブとアオイ。

ヒロノブと共に部活に入ったタケシ。そこには意外なことに、2人と同じ中学に

通い、同じ部活に所属していたアオイもいた。中学時代、夢中に部活に取り組んだ

3人が再び揃ったことで、今後の部活動に期待を寄せるタケシであった。

「タケシ、そこ違う。」


「む。分かった。」


アオイが違うといえば、違うのだ。アオイがOKならば、OKなのだ。


「流石、女帝。ブランクを感じさせず。」


とヒロノブがおどける。


「うっさいわよ、ヒロノブ。あと、二度と女帝って呼ぶな。」


結局、ボクは部活に入った。勿論、ヒロノブも。

意外だったのは、アオイ、通称「女帝」も入部してきたことだ。

アオイもボクと同じ中学、同じ部活で、中二中三と同じクラスに

なったこともある。そして、ボクやヒロノブと同じく、先輩たちと

上を目指し続けた、やる気溢れる部員だった。ただ、ボクたちと

決定的に違うのは、アオイはボクたちよりもはるかに上手かった。

中一の夏合宿を終えてから、メキメキと力をつけ、三年になる頃には

満場一致で、部長に推された。

実力、申し分なし。品行方正。成績優秀。自分に厳しく他人に優しく。

趣味範囲で楽しむ部員にも、目標に向かって必死に努力する部員にも

分け隔てなく接する、愛され部長だった。

客観的に見れば、完璧超人であり、まさしく女帝だった。

実際、アオイは周りから尊敬、憧れの対象として見られていた。

ところが、ボクとヒロノブ、

特にヒロノブにとっては、全くそうではなかった。ヒロノブは度々、

アオイのことを「女帝」とからかい、よくアオイを怒らせていた。

怒るといっても逆鱗のごとくではなく、姉がやんちゃな弟を叱りつける

ような軽い感じの怒り方だ。真正面から「女帝」とからかうのは

ヒロノブだけであり、それがアオイには嬉しかったのかもしれない。

そんな彼女の姿を見ているせいか、ボクは他の部員のように必要以上に

アオイと距離をとることはなかった。

そんなわけで、ボク、ヒロノブ、アオイの三人の間柄はそれなりに

良好であり、三人が同じ高校に進学することも知っていた。

ただ、アオイが高校でも同じ部活動を続けるつもりだったのは

知らなかった。意外だった。

アオイの実力は、ボクやヒロノブよりはるかに上で、ともすれば

全国上位クラスの実力とさえ言われることもあった。事実、三年に

なる頃には、ボクの気の毒な脳みそでは言い表せないほどに、彼女の

技術は高いレベルに達していた。しょっちゅう練習をのぞきにくる

おせっかいなOBが、「アオイ一人がいれば、全国上位に食い込める」

と興奮するほどのものだった。

アオイがいれば、アオイにおんぶされていれば、アオイさえいれば。

そんな感じで、最後の大会前には部全体がアオイに頼るようになっていた。

相変わらず、ヒロノブだけは、彼女のことをからかっていたが。

そして、結果は県大会準優勝。涙を流しているボクとヒロノブのすぐ側で

アオイも泣いていた。でも、誰もアオイに労いの言葉をかけようとは

しなかった。結局、最後まで、アオイはボクたちの側にいた。

そんなアオイの姿をボクは、涙で潤んだ視界の片隅で見ていた。

それを見て、もうアオイは高校で部活を続けることはないだろうなと

何となく思っていた。


「いやー参った参った。女帝さまのハードトレーニングのおかげで

 ブランクをもう埋められちゃったよ。」


「女帝って言うなって部活のとき、言ったよね。」


そう言うと、アオイは肘でヒロノブの脇腹を小突いた。

うずくまるヒロノブ。訂正。

どうやら「ど突いた」と表現するのがいいのかもしれない。

うずくまるヒロノブを置いて、ボクとアオイは帰り道を歩く。

三人とも同じ中学だったわけだから、三人の家はそれぞれご近所同士。

その三人が、同じ高校に進学したわけだから、

帰り道もほぼ同じというわけだ。


「おーい。待ってくだせぇー。」


後ろから、ヒロノブのふざけた声が近づいてくる。

振り返ると、大した距離でもないのに、大げさなフォームで小走りに

こちらにやってくる。ボクは、ヒロノブが追いつくのを立ち止まって待つ。

アオイは、ヒロノブのことなどガン無視で、立ち止まらず一人で

歩き続ける。でも、ボクたちがすぐに追いつけるように、遅く歩いて

いることを経験から知っている。

着ている制服は違えど、そのほかのことは中学の時と同じだった。

同じ三人、同じ部活、同じ帰り道。

まさかボクが、まさかヒロノブが、まさかアオイが、

高校でも同じ部活を続けるなんて、思いもしなかった。

もしかしたら。もしかしたら、この3人が再び揃ったなら

今度はもっと上に行けるかもしれない。もっと上手くなるかもしれない。

そう思いながら、アオイとヒロノブと肩を並べながら

桜が散った帰り道を歩いた。


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