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彼女はとことん運が良い【8】


 一方その頃──。

 

 ミリアーノはイファの港街で出会った警邏隊けいらたいの中年男と肩を並べ、道を歩いていた。


 警邏隊の男がミリアーノに尋ねてくる。

「で? なんでお前は地下水路から出てきたんだ?」

 魔剣を胸に抱いたミリアーノはにこりと笑って答えた。

「ここに来る途中の山中で洞窟を見つけたの。宝箱がありそうだったから思わず入っちゃった」

「おいおい、いつの時代の冒険野郎だ? あの洞窟は関係者以外立ち入り禁止って書かれていただろうが」

 ミリアーノは顎に手を置き、真剣な表情をして考え込む。

「ほんと変な洞窟だったわ。なんか普通に歩いてきただけでこの港街に出ちゃったのよね。もしかしてあの洞窟は街への隠された転移ルートだったりして」

「隠しも何も、あれはこの町が管理している地下水路だ」

「絶対あれは転移ルートよ。魔法の呪文を唱えている間に──」

「洞窟を歩いて街の中ってか。まぁとりあえずそのまま呪文を唱えながら役所に行こうな。ちなみに身分証は持っているのか?」

「持っていません」

「いや、そこはハッキリと答えるところじゃないからな。ちなみに俺はそういう奴らを捕まえるお仕事をやっている」

「馬車の中に荷物ごと忘れてきちゃったの」

「その馬車はどこに停めてあるんだ?」

 ミリアーノは街の向こうにある山へと指を向ける。

「あの山の向こう」

「取りに戻れる距離か?」

「どこに停めたかもあんまり覚えてないから」

「適当だな、オイ。それで逃げの口実になるとか思うなよ」

「口実っていうか──あ、そういえばクレイシスが気を利かせて持ってきてくれているかもしれない」

「あぁそういうことか。お前には旅の連れがいるんだな?」

 ミリアーノは明るく笑って頷く。ぴっと人差し指を立てて、

「うん、そう。あたしにはクレイシスとフォル君っていう旅の仲間がいるの。たぶんもうそろそろあっちの方から来てくれる頃だと」

 そう言ってミリアーノは町の入り口を指差した。

 指の方向を見て、警邏隊の男がため息を吐く。

「関所か。あそこは今保険会社の奴らが占領してごたごたしているから──」


 町の中を、魔剣の魔力と相成って一陣の風が吹き抜けていった。


 男が口笛を吹く。

「風を操る魔剣使いが来たのか。今年の祭りは久々に盛り上がりそうだな」

 ミリアーノは小首を傾げて男に尋ねる。

「祭り?」

「あぁ。イファの港町で催される魔剣の公式戦だ」

「公式戦?」

「まぁ授与戦前の、ちょっとした大会みたいなもんだな。もうすぐ隣大陸で称号授与戦が始まるだろう? これはその前夜祭みたいなもんだ。シード権ってわかるか? この大会はこの国の王女様が立会いになられる。称号はもらえないが、ちゃんとした公式戦だ。優勝者には王女様直々の推薦状──つまり、称号授与戦の決勝に進出できるシード権がもらえるってわけだ。それに副賞としてホワイト号の無料乗船券ももらえる」

 ミリアーノの目がさらに輝く。

「ほんと!? ほんとにホワイト号の無料乗船券がもらえるの!?」

 男が肩を滑らせる。

「食いつくとこはそこなのか? 魔剣を持っていたからてっきり」

「受付所はどこなの? あたしさっそく出場登録したい!」

「その前に役所だ。お前が何者か分かってから──」


「待ちなさい」


 ふいに掛けられた威厳ある少女の声に、ミリアーノと警邏隊の男はその声の方へと振り向いた。

 腕の立ちそうな男三人を引き連れた町娘がミリアーノへと近づく。

 ちらりとミリアーノの手にする魔剣を目にした後、その少女は警邏隊の男に言った。


「彼女が何者であるかは手にした魔剣が証明しています。魔剣サラサ・ブルーはかつてこの国が誇った伝説の魔剣です。

 この者の身分は私が保証しましょう。公式戦の受付所まで連れて行ってあげなさい」


 ミリアーノは小首を傾げて尋ねる。

「あなた、誰?」


 その物言いに男が腰の魔剣に手をかけ、進み出る。

「貴様、なんと無礼な──」

 少女が手で制して止める。

 萎縮するように男は魔剣から手を離し、退き下がった。

 それを確認してから、少女はミリアーノに優しく尋ねる。

「その魔剣をどこで手に入れたの?」


 ミリアーノは手持ちの魔剣に視線を落とす。

「これのこと?」


「えぇ」


「これは悪魔の住む山で見つけたの。伝説の魔剣が眠っているって噂を聞いて、それで──」

 ミリアーノは視線を山へと転じた。そこに指を向けて示す。

「ちょうどこの山を越えた向こうに小さな村があるの、知ってる?」


「えぇ」


「その村にある山の中に不思議な洞窟があったの。その洞窟のトラップをくぐったり魔物やっつけたりしながら奥へと進んだら、この魔剣があったの」


「そう……」

 呟いて、少女が悲しく目を伏せる。


 それを見て、ミリアーノは小首を傾げて尋ねた。

「もしかしてこの魔剣、あなたの物?」


 少女が無言で首を横に振る。


「――そうよね。五十年も経っているってフォル君が言っていたし、あなたのはずないよね」



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