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「……ク……クソッ」
クルクルと駒のように回転する機体。意識が霞んだ状態では状況を把握することすら難しい。本能のまま暴れる機体を必死に押さえ込む。だが七つある多機能ディスプレイのうち四つが消え、残りも激しく明滅を繰り返すばかり。飛行管理コンピューター《FMC》もフェイル。中枢コンピューターが破壊されたシステムを切り離し、ダイレクトにコントロールしようとするが、油圧システムにも異常を示すコーションライトが点滅していた。灰色の大地と空が、交互に頭の上に現れては消える。駄目だ、墜ちる。
その時だった。ハルが中枢コンピュータに介入、生き残っているシステムを使って一瞬で機体を安定させた。
「…………」
間一髪だった。機体は高度百フィートで水平飛行に移った。しかし危機は去ったわけではない。警報ブザーは鳴り止んでいない。
(敵、接近)
とどめを刺しにきた。
機速は二百ノットを少し超えたあたり。まだボーとする頭で、俺はスロットルレバーをアフターバーナーの位置に押し込んだ。瞬時にP&W311が轟音をあげて吼える。レスポンスは大昔のジェット戦闘機とは比べ物にならない。それでも再びコンバットスピードに達するまで時間が必要だった。その時間を敵は与えてはくれない。
(ミサイル)
数は一。敵は一機が俺にとどめを刺し、もう一機がそのサポートに回ったようだ。速度の落ちた俺などミサイル一発で片づくと判断したのか。
速度が三百ノットを超える。だがマッハ三以上で迫るミサイルから逃れることなど出来ない。俺は咄嗟にサイドスティックを左へ倒す。横転。すかさず引いて左旋回。チャフとフレアをばらまく。デコイはもうない。
俺は歯を噛みしめて唸る。速度が出ていないので、大したGではない。しかし大旋回をやった後の俺の体は悲鳴を上げていた。
苦しい……
血液が下半身に降りていく感覚。老いた心臓が苦しげに喘ぐ。肺は締め付けられ、腕の毛細血管がプチプチと弾ける。痺れて指先の感覚が無くなりかけていた。全身の筋肉は強ばり、骨がミシミシと音をたてた。
それでも俺は操縦桿を戻せない。
カナンの機体が吹き飛んだ光景が脳裏を過ぎった。
死の恐怖。
それが俺を突き動かす。
絞られていく視界。
薄れていく意識。
肉体の限界は、とうに超えたと思った。
その時だった。
全身を苛んでいた苦痛が、フッと消え去った。
やられたのか?
最初はそう思った。
どれほど最強と呼ばれる戦闘機でも、その機体はとても脆い。小さな破片でも、充分な速度があれば、わずか数ミリの外版を貫く。至近距離でミサイルが爆発すれば、ひとたまりもない。死んだと気づく間もなく、俺は機体とともに消し飛んでいる。
しかし、すぐに違うと気づいた。
見慣れた棺桶のようなコクピット。右手は操縦桿、左手は手前に押し込まれたスロットルレバーの上に置かれている。ただ不思議な事にMFDの画面は全て電源が墜ちたように真っ暗になっていた。