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……おかしい。


 手応えがなさすぎる。大昔の湾岸戦争ならともかく、今、俺たちが相手にしている敵はこれほど弱くはない。今日の戦術士官は若くて優秀だと聞いていたが、明らかに経験不足のように思えた。

 そして、その勘は当たった。


『タリホー』


 ナミが叫ぶ。ついで彼女は発見した敵を攻撃リストに登録した。瞬時に、その情報は戦術画面に転送された。我々の飛ぶ遙か下、地面すれすれに飛ぶ、ゆらゆらと揺れる機影が八。光学迷彩で機種までは判別できなかったが、小型の戦術戦闘機のようだ。最初の奴は囮。本命は雲の影に隠れて、こっそりと背後に回り込むつもりだったらしい。


「エンゲージ」


 俺は交戦を宣言する。素早く機体を半ロール、逆さまになったところでサイドスティックを引く。スプリットS。Gメーターは六から七の間を揺らめき、俺は歯を噛みしめて体を押さえつける激しい力に耐える。たちまち機体は七千フィートも降下した。振り返る余裕などない。それでもバルザムたちが追って来る気配には気づいた。


 若いってのはいい。俺のような年寄りには、激しい機動は体に堪える。奥歯を噛みしめて苦痛を堪えた。そのかいあってHMDの向こうに敵の姿を捉える。

 レーダーは自動的にルックダウンモードに入り、ミサイルにデータを流し込み始めた。その頃になって、ようやく敵もこちらに気づいたようだ。だが、もう遅い。編隊が二つに散開する。こちらのレーダーを妨害する為、ジャミングを奏で始める。レーダー画面はノイズで真っ白になった。が、それも一瞬。ハルがノイズを除去。再びロックオン。シュート。HAMRAM発射。ミサイルは、敵機のケツ目掛けて獰猛な牙を剥き出しにして追う。敵、死にものぐるいで機動《dance》する。地上スレスレでの死の舞。よし、五機撃墜。生き残った三機は、全速力で戦場を離脱していった。だが彼らが選んだ行く手には、αワンのチームが手ぐすね引いて待ち構えている。


 これで終わりか。


 終わりにして欲しい。心底そう思った。

 極度の緊張状態が続いた後、突然その状態が終わると人は気が緩む。経験上、その瞬間が一番危ないと身にしみていた。

―ハズなのだが、歳を取るとそんな大事なことも忘れてしまうようだ。


(上空より敵機)


 死に神に心臓を鷲掴みにされたというのは、こういうのを言うのだろう。見上げる。上空に黒いシミのような影。まさに死に神の姿だった。ハルの乾いて冷たい声が追い打ちを掛ける。


(機数八、攻撃照準波感知)


 近い。高度三万フィートからのパワーダイブ。機種は大型の戦術戦闘機。速度はマッハを超えていた。トロトロと編隊を組んで飛んでいた俺たちは逃げ切れない。


 AWACSは何をしていた。


 これほど接近されるまで気づかないというのは、どういうことだ。俺は憤りを感じる。が、理由はすぐに判明した。戦術モニターがブラックアウトしている。AWACSとのリンクが絶たれていた。撃墜されたか。


(ミサイル接近)


「ブレイク!」


 俺とカナンは左へ、バルザムとナミは右へ急旋回。敵が放った短射程ミサイルも、俺たちを追って二手に分かれる。後方レーダーが捉えたミサイルは四。バルザムたちに向かっていったのも、四発のミサイルだった。


(敵、後方に二)


 急旋回の最中でも、ハルは冷静に状況を分析して伝える。こっちはそれどころではない。ミサイルを交わすことしか頭にない。

 警告ブザーが鳴りやまない。ミサイルは離れない。着弾まで二秒。速度を下げることも、旋回を緩める事も出来ない。Gメーターは6、7、8、と上がっていく。頭から血が引いていく。視野が狭くなって、景色が色を失った。グレイアウト、だ。耐Gスーツが下半身を締め付ける。意識が朦朧としてくる。


(防御システム作動)


 ハルがチャフとフレアをばらまく。効果なし。高度なAIを搭載したミサイルには、この程度の誤魔化しなど通用しない。俺はGに耐えながら、左手のスロットルレバーを指でまさぐる。セレクターを発達型デコイに切り替え、リリースボタンを押し込む。


(デコイ放出)


 機体にコバンザメのように張り付いていたデコイが飛び出す。カナンの機体からもデコイが発射されるのが見えた。

 発達型デコイは、ラプターⅢのアフターバーナーに似せた赤外線信号を放射する。ミサイルはその欺瞞信号に騙された。デコイは機体が旋回する方向と反対側に飛び去り、自爆。三発のミサイルを道連れにする。だが、一発のミサイルが欺かれず、旋回をゆるめ掛けたカナンの機体に突き刺さった。


 閃光、続いて爆発。


 すぐ近くを飛んでいた俺の機体にも、衝撃波と破片が襲う。機体が激しく揺さぶられた。と、グラリとバランスを崩す。あっと思う間もなく、失速状態に陥った。


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