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 目的地到着まで、あと五分。

『エネミー、オンステージ』

 AWACSの中は冷房が効いているのだろう。戦術士官の声まで涼しげだ。こっちは強烈な日差しで下着がじっとりと汗ばんできた。戦術モニターに視線を落とすと、グリーンで描かれた円の縁に小さな光点がポツポツと現れた。


『αワン、エンゲージ』

『αツー、エンゲージ』


 各小隊が、次々と交戦宣言をする。


「βワン、エンゲージ」


 俺も宣言。戦法は単純だ。長距離ミサイルを撃って、すぐに逃げる。そして頃合いを見計らって、また攻撃。これを繰り返す。


(HAMRAM1、HAMRAM2スタンバイ)


 耳元に囁くような声。ハルは機体に接続されている間一切喋らない。俺とのコミュニケーションはモニター上にテキストで表示するか、もしくはコンピュータの合成音。どちらにするかはパイロット次第だが、俺は音声に設定した。戦闘中に一々モニターを見ている暇などない。


 AWACSの戦術士官は、各機に攻撃する敵を振り分けた。データは機の戦術コンピュータを通して、兵器庫ウェッポンベイに格納されたミサイルの弾頭にインプットされる。HMDに攻撃準備完了のサイン。トリガーを引く。


「フォックス・ワン」

『フォックス・ワン』

『フォックス・ワン』

『フォックス・ワン』


 まるでエコーがかかったように、カナン、バルザム、ナミが宣言した。

 各機から二発ずつのHAMRAM。合計八発。

 兵器庫ウェッポンベイから押し出されたミサイルは、ロケットモーターに点火、凄まじい加速で飛び去った。すぐに見えなくなる。俺は機体を緩やかに右にロール、高度を下げながら待避する。安全と思われる場所で編隊を組み直した。


 再び戦術モニターに視線を落とす。画面には、俺たちの発射したミサイルの他に、幾筋もの長距離ミサイルの描く航跡が表示されていた。ミサイルから送られてくる位置データは、AWACSが受け取って俺たちに転送してくる。航跡は黄色に塗られていたが、ある程度進むとブルーに変化した。ミサイルが慣性巡航に入った。ロケットモーターでマッハ三まで加速して、巡航用のEBRJ《外部燃焼ラムジェット》に切り替わる。初期加速にロケットモーターを使うのは、単にラムジェットがマッハ二以上でないと作動しない理由からだ。


 HAMRAM《高速中距離ミサイル》は最終的に音速の六倍に達する。六十キロをわずか三十秒たらずで飛び抜けてしまう計算だ。最速と言われる高高度偵察機でも、その最大速度はマッハ四。それよりも遙かに速い。ミサイルの弾頭部は空気との摩擦で七百度を超える高温になるらしい。それでどうやってセンサーが敵を捉えるのか不思議なのだが、目標を見失うことはまずない。敵を示していた光点は、一つ、また一つと画面から消えていった。


 攻撃は、敵に対し三方向から行われていた。幾重にも張り巡らされた罠にはまり、敵機はなすすべもなく撃ち落とされていく。一分と経たないうちに、戦術画面からその姿は消えた。余りにもあっけない。俺たちは敵の姿を見ることもなく、幾つもの命を奪った。もっとも、それを実感したことなど一度もない。ただ画面に表示されていた光が消え、敵機を墜とした。それだけだ。


『βワン、リアタックだ』


 敵の第一波は壊滅した、と戦術士官は判断したらしい。次の攻撃目標を指示する。AWACSのレーダーは敵の第二波を捉えていた。


『αワン、了解』

「βワン、了解』


 旋回、上昇して攻撃位置へ。ロックオン。発射。


『オーケー、敵さん尻尾を巻いて逃げていくぞ。俺たちの勝ちだ』


 戦術士官の言うとおりだった。撃ち漏らした数機の敵が、散開しながら来た道を引き返していく。


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