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 ブリーフィング。機体の外部点検。コクピットに乗り込み、ショルダーハーネスをしめる。地下格納庫から、巨大なエレベータで機体ごと地上の滑走路に運び出された。百近いチェック項目を確認。異常があればハルが報告する。

 エンジンスタート。ラプターⅢのP&W311が目を覚まし、咆哮をあげた。慣性航法装置《INS》をセットして最終チェック、タキシーアウト。キャノピーのロックを確認して、機体を離陸開始位置へ。ブレーキをかけてて停止。許可を待つ。管制官の許可が出ると、スロットをミリタリーの位置に押し込む。


 空は、ここ数日の砂嵐が嘘のような快晴だった。気温はやや低め。武装は長、短距離ミサイルを各六発ずつの標準仕様。機体は滑走路を軽やかに加速する。ローテーション。離陸。滑走路が途切れる前にギアアップ。サイドスティックを軽く引いて機首上げ《ピッチアップ》。そのまま高度三万フィートにまで上昇、他の機と合流してフォーメーションを組む。背後に小さくなっていくオアフ山基地。眼下の巻雲の間から見えるのは、灰色の砂漠と化した太平洋。かつての海は、深く大地に切れ込んだ海溝に、惨めな屍をさらしているだけだった。その屍を、人間は奪い合う。


 今回の作戦では、俺の隊は左翼を担当する。僚機はカナン、副隊長のバルザムとその僚機のナミ。そして背中のハルと、彼女の仲間が三人。パイロットたちは、一人ずつエンジェルを背負って飛ぶ。


 俺の側に並んだバルザムが、軽く右に翼を振ってから左に横転ロールした。剽軽な仕草。奴の癖だ。地上でも空の上でも、人生でも、機知に富んだ言動をするのが信条らしい。


 四機でガッチリとエシェロン・フォーメーションを組む。それぞれの機体は百メートルほどの高度差をとった。互いの死角をカバーしながら全周囲警戒。昔と違って戦闘機に死角などない。機体の全面にちりばめられたフェーズド・アレイチップが、周囲を隈無く監視してくれるからだ。スマートジャケットと呼ばれていた。しかし今、その機能はパッシブ、つまり受信のみにしか働いていない。何故なら微かな電波も、敵にこちらの存在を教えてしまう。俺たちのかわりに索敵をするのは、遙か高空を飛ぶAWACSだった。


 巨大な電子装置の塊のような機体から、生身の人間なら蒸し焼きにできる強力な電波を発して周囲六百キロ、遠方監視システムを併用すれば実に二千キロあまりの空域を監視することが出来る化け物。そのAWACSは、大昔のB2ステルス爆撃機を一回り大きくしたような形をしていた。動力は原子力。高度六万五千フィートの天空を徘徊し、地上に降りることはまずない。頭上を悠然と舞う姿を、俺も何度か見上げたことがある。センサームーブをいっぱいに伸ばしたシルエットは、まるで海中を泳ぐエイのようだった。


 AWACSから送られてくるデータに目を通す。以前はこれに監視衛星と電子戦闘シャトルからのものが加わっていたが、度重なる戦闘でその全てが失われた。打ち上げられても、五分と持たず撃墜される有様。低軌道は雲霞のごとく漂うスペースデブリによって埋め尽くされていた。

 だがなんだかんだ言っても、パイロットにとって一番信頼出来る警戒システムは自分の目、Mk1アイボールセンサー以外にない。これは昔も今も変わらなかった。


 高度三万フィートを維持しつつ、音速で巡航。本日の目標は、敵の前線基地。作戦の主役は戦闘爆撃機。ADF《航空支配戦闘機》たるラプターⅢの仕事は、迎撃に上がってくる敵戦闘機をたたき落とすこと。最近の戦況は五分と五分。とにかく俺たちも敵さんも、勝機を掴もうと躍起になっていた。皆、必死だ。自分の命をかけているのだから当然だろう。今日も激戦の予感。果たして何人生き残れるか。


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