3-11
中尉は、死んだ。
「…………」
跪き、冷たくなっていく彼の亡骸を見つめ続けた。
どれくらいそうしていただろう。
照りつける日差しは砂の上に流れた血を乾燥させ、吹き止まない風は彼の体を砂で覆い尽くそうとしていた。
私は、どうすればいい。
直属の上官である中尉が死んだことで、私に命令する者はいなくなった。頭の中には帰還せよとの命令が児玉のように鳴り響いている。無意識のうちにフライトスーツのビーコンの発信器に手を伸ばす。しかし、その手は発信機に触れる前に止まった。中尉の最後の命令を思い出したからだった。任務は、まだ終わっていない。生き残ること、自由に、束縛されることなく生きること。それが彼の最後の命令だった。けど、それ以上に、私の心の奥から沸き上がるものが、私の体を突き動かした。
私は、立ち上がる。
中尉が指し示した北西の方向を見た。果てしなく続く砂漠の海。僅かな生命さえも拒む乾いた大地の向こうに、果たして何があるのか。そして私は、そこで何を見ようというのか。
花が赤いのは、生きている証。
中尉が最後に教えてくれた言葉。彼の血で真っ赤に染まった両手を目の前に持ち上げてみる。私にも同じ赤い血が流れていた。私も生きている。だが、生きているとはどういうことなんだろう。尋ねようにも、中尉はもう応えることはない。私は途方に暮れた。そして頭上を仰いだ時、その場で凍り付いた。
真っ青な空。
どこまでも、透き通るように広がる空がそこにあった。電子カメラが捉えた映像ではない。生の空。自分の目で見た青空だった。
キレイ……
胸が震えた。こんな感覚は初めて。空がこんなに青いなんて、今まで知らなかった。あれほど飛んでいた空は、こんなにも美しかった。
涙が、あふれ出た。生まれて初めての涙だった。