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3-3

 管制官からの離陸許可が出た。俺とマイクは並んで滑走を開始する。今日の操縦桿の感触は、やや重たげだった。胴体下にいつもの長、短距離ミサイルを各六発ずつの他、巨大な増漕をつり下げているせいだ。だからいつもより長めに加速してから、ゆっくりと操縦桿を引き寄せる。フワリと翼が風を掴んで空に浮かんだ。とてつもない推力を秘めたP&W311は、この状態から垂直上昇が可能だ。だが機体に無理をさせたくなかった。俺自身にも。

 ギア・アップ。スロットルはミリタリーの位置をキープ。上昇し、巡航高度へ。


「ハル、航法チェック」

(了解)


 GPSによる支援のない今、頼りはFMCに内蔵された慣性航法システムとハルの高速演算能力だけだった。特に、今回の作戦空域は遙か彼方にある。途中、何度も給油機から燃料の補給を受けなければならなかった。位置を見失って迷子になれば、燃料切れで墜落するしかない。


 作戦区域にたどり着くまで、俺は小春と一言も喋らなかった。機上での会話は全てAWCASを通して作戦本部へと送られている。滅多なことを口にするわけにはいかない。小春が例の俺だけに伝えられる方法をとらない限り。だがあれは小春が意識して行ったものではなく、その方法は当の本人にも分からないようだった。だから俺は胸に秘めた考えを彼女にも話していない。


 俺の目的、それは小春を逃がす事だった。


 きっかけは医者にパイロット生命の終わりを告げられた瞬間だった。彼女は感情を持ち始めている。彼女たちを機械として扱ってきた俺たちには、その事実を認める事は出来ない。あくまで機械だから、使い捨ても出来た。しかし人間なら、俺たちと同じ人間を使い捨てにすることなど……


 絶対に、小春を軍に渡さない。

 だが俺が本国に帰ってしまえば、小春は間違いなく処分されるだろう。彼女たちが人間であることを、軍は必死に隠そうとするからだ。

 しかし逃がすと言っても簡単ではなかった。年端もない少女を砂漠に放り出すことなど出来ない。不毛な砂漠では、屈強な男でも生き延びるのは難しい。まして小春は戦闘以外の知識を殆ど持っていなかった。だが何よりも問題なのは、彼女を迎えてくれる場所がない事だ。唯一、受け入れてくれそうなのは、彼女と同じ日本人だろう。本国にも少数ながら生き残った日本人がいる。しかし彼らが同族という理由だけで匿うとは思えないし、それ以前に入国させる方法すらなかった。そこで俺が思いついたのは、タイラーのひと言だった。


 日本人の生き残りがいる。


 俺は細い人脈を頼りに、何とか情報を得た。生き残った日本人が住むコロニーの場所も聞き出すことが出来た。そしてそれが今回の作戦区域に非常に近いこともだ。


 チャンスは一度きり。


 戦闘のどさくさに紛れて軍を抜ける。

 敵前逃亡罪は銃殺刑だ。けれど俺には家族はない。私物と言えるのは、フライトスーツのポケットに押し込んだ、例の絵本だけ。躊躇う理由はない。問題はいつ実行するかだ。


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