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2-10

 昔、ある所に平和な王国があった。

 その王国には、一人の王子様と、とても可愛らしいお姫様がいた。二人は幸せに暮らしていたが、ある日、その幸せを妬んだ悪い魔女によって、王子様に呪いが掛けられてしまう。王子は一匹の青い瞳の黒猫になってしまった。

 残されたお姫様は、王子の呪いを解くために、七人の勇者を連れて旅に出る。そしていくつかの冒険をして、ようやく王子の呪いを解く方法を見つけた。その方法とは、人々が王子に感謝すること。ただし条件がある。猫の正体が王子であることを話してはならない。

 お姫様と七人の勇者は、ホトホト困り果てた。王子は国民にとても愛されていた。でもその王子が猫になってしまったことは国の秘密になっていたし、猫が本当は王子だなんて誰も信じてくれそうにない。このままだと彼は一生猫のまま過ごさなければならない。そう諦めかけた時、一向はとある街に辿り着いた。

 彼らは街の窮状を知った。なんと街は凶悪なネズミたちによって滅茶苦茶にされていたのだ。しかもネズミたちの数は信じられないほど多く、とても退治することが出来ない。

 そこで街の偉い人たちが頭を寄せ、どうすればいいかを考えた。考えあぐねた末、一つの案が出される。それは巨大なチーズでネズミたちをおびき出し、街の外へと連れだしてしまおう、というものだった。

 しかし問題が一つある。誰がチーズを持って、ネズミたちを連れ出すかだ。凶暴なネズミたちに散々な目に遭わされていた街の人々は、怖がって誰もその役を引き受けなかった。何しろ街にいた猫たちを追い散らしてしまうほど強いネズミたちだったから。


「僕がやるよ」


 と、手を挙げたのは猫になった王子だった。


「僕は猫だから、みんなよりも素早く動ける。狭いところだってへっちゃらさ」


 当然、お姫様は反対した。けど王子の決意は固かった。

 さっそく街の人が用意した特製チーズを背中に縛り付けた王子は、街中を駆け回った。そして匂いに釣られて出てきたネズミたちを連れ、街の城壁の外へと走り出る。そのまま跳ね橋を渡り、近くの森にまでネズミの大群を誘導すれば、全て終わるはずだった。が、上手く行かないのが世の常だ。

 跳ね橋のところまでたどり着いた王子。だが、なんと跳ね橋が落ちていた。どうやらネズミたちが橋の木材をかじってしまったらしい。王子は深い堀の手前で呆然とする。背後にはネズミたちの大群が刻一刻と迫る。

 仕方なく、王子は背中に負ぶっていたチーズの塊を堀に投げ込もうとした。ところがチーズを身体に縛り付けていた紐の結び目が堅く締まってほどけない。手元にはハサミもない。王子は焦った。このままだとネズミたちは王子からチーズを奪って街に戻ってしまう。そこで、彼は覚悟を決める。

 「さようなら」とその場にいないお姫様につぶやき、彼は深い堀へと飛び込んだ。後を追うようにして、ネズミたちも堀になだれ込む。一匹残らず。

 暫くして、様子を見に家から出てきたお姫様と勇者たちは、堀の中に浮かんだネズミたちの死骸と、その中に一匹だけ浮かんでいる黒猫の死骸を見つけた。


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