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2-6

 ブリーフィングが終わり、いつも通りの手順を踏んで、俺は地上から飛び立つ。高度二万フィートを巡航。本日の任務は戦闘空中哨戒《CAP》。雲一つない空は、遠くまでクリアに見渡せた。

 敵影なし。味方機は左斜め後方にいるマイク少尉の機体のみ。穏やかな日差し。現在地確認。ナビと地図の照合。定時報告。ルーチンワーク。キャノピー越しに見える干からびた大地の連なりは刺激もなく単調で、眠気を誘う。

 俺はマスクの中で欠伸をかみ殺した。


「少尉」

『はい』


 返事が返ってくる。俺と少尉の機体を結ぶ回線は、常にホット。つまり常時繋がったままだ。回線は指向性のあるレーザーで行われるので盗聴の心配もない。


「少し聞いてもいいか」


 急にそう思い立ったのは、レシーバーで彼の欠伸を聞いたからだった。向こうも気がゆるみ始めているようだ。気を紛らわせる必要があった。

 俺の部隊に配属された三人のうち、彼は最年少だった。驚いたことに、今月二十二歳になったばかりだという。一応士官学校出だというが、実戦経験はなし。機上時間も合計で二百時間にも達していない。本物のヒヨコだ。相当鍛え上げなければ、こちらの身が危ない。こんな素人に毛が生えただけのようなパイロットを最前線に送り込まなくてはならないほど、本国はファイターパイロットに不足しているのか。

 どうぞ、と返答。


「少尉の出身はソルトレイクだそうだな」


 どんなところだ、と世間話を始めた。もちろんユタ州のソルトレイクのことは、俺も知っている。冬季オリンピックが開かれた街だということも。俺が生まれるずっと前の話だが。


『何もない街です……でも、良いところでした』


 過去形になるのは、すでにソルトレイクシティーが消えているからだ。二年前、敵の大規模な核攻撃で、ユタ州の三分の二が人の住めない荒野と化していた。


『自分はネバタの士官学校にいたので助かりましたが、両親と姉は……』


 マイクの口調が沈み込む。「そうか」と俺は応えるにとめた。同情はするが、多かれ少なかれ今は誰もが肉親や友人を失っている。一々感傷的になっていたのでは身が持たなかった。グズッと鼻を啜る音が聞こえた。マイクは涙ぐんでいたようだ。次に聞こえてきた彼の声は、無理に明るく振る舞っているように俺には思えた。


『中尉はどちらのご出身ですか?』

「ニューヨークだ」


 壊滅的な打撃を受けた東海岸と対照的に、西海岸は比較的被害が少なかった。


『じゃぁ、ご家族もそちらに』

「妻とはずっと前に離婚した。子供はいない」


 マイクが「スミマセン」と呟く。それきり会話は途絶えた。俺は心の中で舌打ちをする。話題の選択を間違えた。バルザムが生きていたら、それとなく新入りに俺のことを教えていたに違いないが、彼はもういない。


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