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支払いも終え、一匹増えた家族を乗せて獣車が暮れ始めた空の下、街へ帰って行く。
「神々と精霊が、遍くその輝きで照らしますように」
フレードは遠ざかるその姿を見送りながら、小さく一家の幸せを願った。
「フレードさん、お客さんはあの家族で終わりですか?」
家の居間でお茶を飲みながら待っていてもらったロージーが、外に出てきて静かに声を掛けた。
「そうだね。……今日は他の約束も無いし直に日も暮れるから、子供達も帰さなくちゃ。店番ありがとう、助かったよ」
切り替えるように肩を回しながら、フレードはロージーを促して店に戻った。ロージーにお茶の湯を沸かすようにお願いして、軽く店内を片付けてから家の裏口にある集合の鐘を鳴らす。
この鐘は初代である祖父が領主様から賜ったとかで、『穢れ』で凶暴化した生き物『凶穢害』が発生した時には、魔力を乗せると街にまでその音を届ける事が出来る。
今までは幸運な事に、店の『全員集合』以外の使い方はされた事が無い。
魔獣達は、野生でも使役獣化されていても凶穢害の気配に敏感であり、店のある丘が防壁上に建つ監視塔からの視界を遮っている為に、所謂、(善意から自発的な)見張りを兼ねよとのお偉様方のお言葉である。
苦労して開墾した土地を召し上げられなかっただけ幸運だと、フレードの祖父は頷いていたものだ。
そんな初代もそこそこに苦労人であった。山間の小さな村の長の三男に生まれ、街の守衛になんとか働き口を得た数年後、勤務中に暴漢を取り押さえた。その現場を偶々見た領主軍の御偉い様に「腕に見込み有り」と、突然軍に引き込まれた後、小型の凶歳害が大量発生。
その時の討伐隊の前線に放り込まれ、中々の手柄を上げたとかでこの店の建つ広い土地を賜った。当時は目立つ大きな木が一本ある他は、雑木が疎らに生えるだけだったが、纏まった報奨金も貰ったことで三十代半ばで軍を辞め、体力のある内にと必死で開墾した。
折角の広い土地なので、軍の上役が乗る騎獣の姿に憧れていたのも有り、引退間近の騎獣の番を引き取ったのがこの店の始まりである。
繁殖させてみたら中々に優秀な仔が産まれたので、守衛時代の上司に急に辞めてしまう事になった詫びにと、遅ればせながら差し出したら好評だった。
以前から契約していた使役獣の産地に、癒着の嫌疑ありという事も有り、近場で輸送の手間も金も掛からず、しかも元同職で身元確か。これは好都合と騎獣の専属契約を結ばされた。
しかも軍時代の上役から、如何にも訳ありな断れない縁組で妻を充てがわれて、ちゃっかり一男一女を設けた。
仲は良かったようで、先立たれた妻の思い出話を幼いフレードに時折聞かせてくれた。
世代を経た今では街の守衛の使役獣の半数を商うになっている。正に波乱万丈の人生の男であった。




