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丘の上の大きな木の下で  作者: 菓子カンの中


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7

 食事を終えて少し腹を休めてから、それぞれ午後の仕事に取り掛かった。ヴァルターは騎獣達の調教と蹄の点検を、エルマー達は引き続き力仕事、子供達は愛玩獣達のブラッシングをしてもらう。


 店主のフレードは午後に引き取られていく愛玩獣の準備だ。大店のお嬢様が誕生日に両親へお願いしたらしく、長く一緒にいられるように幼獣を購入希望である。

 

 今回の使役獣は大型の猫の魔獣で、広く愛玩獣として親しまれている。大きい耳が可愛いおっとりとした種類で、尾だけやや長毛で灰色と黒の縞模様の個体だ。相性を見る為に三度程、徐々に時間を長くしながら触れ合って貰ってある。


「お前はどんな名前を付けてもらえるかな?可愛がって貰えそうだから、その辺は心配してないんだけれど」


 爪の長さや耳の中、口内の状態等も見ながら、産まれてからの三ヶ月を思いだす。時間が経つのは早くて、もう成獣と同じ物を食べられるようになっている。


 母親から出てきた時は羊水やらでぺったりしていた被毛も、今では手入れの甲斐あって、幼獣特有の毛の細さもありふわっふわになった。

 くりっとした黄緑の瞳も好奇心で輝いて、健康状態も良好である。


「よし、ブラッシングもしたし、体調もばっちり。登録書と認識票も準備出来ているし……。他の兄弟達の様子も見て来よう」


 この個体だけはここ数日、一匹で過ごす練習をしていて別室にいる。他の兄弟達と戯れて引き渡し前に怪我をさせない為でもある。


 別室に移動したフレードは、やんちゃな幼獣達に纏わり付かれながら、個々の健康状態を観察していく。

 今この部屋に残っているのは、生まれた六匹の内残りの三匹だ。一番大きく生まれた仔は既に新しい主人の元へ行った。

 最後に生まれた仔は虚弱に生まれてしまって、忙しい中手を尽くしたが、二十日も生きられなかった。


 命を扱う仕事だ。今までだって何度かこういう事もあった。その度にやり切れなくなるが、フレードはやっぱりこの仕事が好きなのである。


 獣舎まで、ロージーに渡した笛の音が高く響いて聞こえてきた。

 店にとっては別れの時、お客様と先程の仔にとっては新しい日々の始まりの時だ。


「よし、行こう」


 別室に戻ったフレードは、布を敷いた専用の木箱に幼獣を入れ、店へ向かった。


 外ではいつの間にか太陽が少しずつ傾き始めて、風の向きが変わっていた。


 「お待たせ致しました。こちらに連れてきたので、確認して下さい」


 店で待っていた三人家族のお客様へ向けて木箱の蓋を開けて見せると、途端に店の中に歓声が溢れる。


「うふふっ、今日から私達が家族よ!」

「きちんと約束通りお世話をしてね?」


 母親と娘が夢中になっている間に、父親に書類の確認をしてもらい、引き渡しの手続きをする。引き渡し書の他にも、お世話等の手引きの冊子もある。


「首輪はお嬢様が選んだものを御用意するとの事だったので、こちらの認識票を取り付けて下さい。」

「うむ。魔力は登録したのだったね?」

「はい、前回お嬢様の魔力を認識票に登録しましたので、十日以内に役所に書類を提出して頂ければ手続きは終わりです」


 首輪と認識票をつけ終わって、使役獣との絆を結ぶ儀式を始める。

 幼獣を抱きしめた娘の立つ魔法陣が、足元からきらきらと光を立ち昇らせて、いよいよ名付けの時。


「今日からあなたの名前はニーナよ!」


 頬ずりしながら娘が新しい家族に名付けると、出会った奇跡を祝福するように光が淡く一人と一匹を包み込んだ。


 その一部始終を見届けたフレードの灰青の瞳にも、光が優しく反射してきらめいていた。


 仔猫のあのふわふわは、世界からの祝福が込められている気がする。

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