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フランツは街の北門前にある停車場で一先ず獣車を停め、係の守衛に従い割符を発行してもらい歩いて街に入った。彼等が泊まっている宿は値段との兼ね合いで、中央広場からは遠く門からは近い。
(守衛は見てすぐフレードの獣車だと気付いた。三代目だと言っていたし、顔が広いのか)
フランツは屋台やらの呼び込みの声を躱しつつ、宿へ戻った。大きな街特有の騒がしさは時々なら良いが、数日続けば少々煩わしくなる。
気を取り直し、借りている部屋へ行き扉を叩きつつ声をかけた。
「ロージー、俺だ。入るぞ」
返事を待って部屋に入るなり、鋭い声をかけられた。
「お兄ちゃん!何かあったの?依頼は?エルマーは?」
予想よりも早い戻りに何事かと焦ったのか、狭い部屋を勢い良く突切り迫る妹だが、怪我を思い出したフランツは一歩足を引いた。
「落ち着け。依頼は失敗していない。エルマーも無事だ」
取り敢えずロージーをベッドに腰掛けさせて、依頼先の店主の提案を説明した。顔も広い様だし子供も手伝いに来ている事から、信用出来そうだとも。お兄ちゃんは妹が一人でいるのが、とても心配だったのである。
「店に客が来たら笛を吹いて知らせるだけで良いのね。食事まで出るなら有難いわ!」
フランツから聞いた内容に、ぱっと笑顔を見せて安心したロージーが、軽く纏めた毛先を弄りながら躊躇いつつ続ける。
「本当はね、こんな大きな街で一人で留守番するのはちょっぴり不安だったの。……エルマーには内緒にしてね?」
少し顔を赤くしつつ上目遣いのお願いにお兄ちゃんは妹の秘密は死んでも守ろうと決めた。この男、表情が分かりにくく周囲に気付かれ難いが、立派なシスコンである。
最近の悩みは、エルマーは良い奴だが妹から好かれていて、見ていて時々嫌いになりそうという事だ。
「忘れ物は無いか?行くぞ」
フランツはお揃いの赤毛の頭を軽く撫でてやりながら、部屋を後に歩き出す。人混みから折れた左腕を庇ってやりながら門を出て、守衛に割符を返して獣車に二人、乗り込んだ。
暫く進んで、後ろの座席に座るロージーに見えるように、フランツは体を倒しながら前方を差した。
「あの丘の上の木の下に依頼先の店がある」
幌に下げられたお守りに気を取られていたロージーは身を乗り出して見た。
「わ、大きな木ね!こんなに大きいのは初めて見た!」
街道を逸れて店へと続く道に入り、近づくにつれ木は更に迫力を増す様だった。ざわざわと風を受けて枝先を揺らすが、きっと幹はびくともしていないだろう。大樹とはこの様な木のことを表すのだろうとフランツは思った。大人が何人並べば木を一周出来るのか試してみたい気もするが、五人程度ではとても届かないだろう。最低でも十人は必要になるかもしれない。
兄妹を乗せてのんびりと、獣車はなだらかな丘を登っていく。
転々と見える木々から、鳥が数羽鳴きながら飛び立っていった。道の両脇の花も今が盛りと咲いていて、ロージーは何だか仕事に行くというよりピクニックにでも来たのかと思えた。
書いていて人力車に乗った時を思い出した。こんな大きな車(二人乗り)が人力で動くのかと戦慄した修学旅行。だから、騎獣くんも楽な仕事と思っている、はず。




